「自分が正しいと思いすぎ」。上西小百合を変えた上沼恵美子の言葉
2018年から芸能活動を開始し、16日初日の「おかめはちもく」で舞台デビューも果たす前衆院議員の上西小百合さん(37)。次々と新たな一歩を踏み出す中で、議員時代とは明らかに違う自分と出会うようになったと言います。そのきっかけとなったのは上沼恵美子さんから向けられた言葉でした。
怖さと喜び
大阪生まれの私にとって、舞台と言えば、宝塚歌劇か吉本新喜劇かというイメージが頭にありました。
特に、新喜劇はテレビで毎週見てましたし、分かりやすく、大ぶりな感じが自分の中の舞台の基準みたいになっていたみたいでして。
なので、今回の舞台でも最初の台本読みの段階から、私一人だけマックスの声を張り上げていて、周りとのトーンの違いに気づいて「あ、そういう感じではないんだ…」ということにもなっていました(笑)。
私が全く舞台の経験がなくて、最初からそんな感じだったので、演出家の方が本当に丁寧に教えてくださいまして。見えない感情を言葉の雰囲気で表現する。そのためにはどうしたらいいのか。そんな根本の根本から教えていただいています。
すごく丁寧に教えてくださるのは初めての者としてはありがたいばかりですし、恵まれているというか、本当に運がいいとも思います。
ただ、プレッシャーもすごく感じています。
私一人が失敗しただけで、作品そのものが「なんやこれ…」みたいになってしまう。皆さんがしっかりやってらっしゃっても、私のミスで全ての評価が下がりかねない。
キャリアがあろうがなかろうが、その責任は同じですものね。言い訳ができない怖さもありますし、みんなで同じものを作る喜びもある。いろいろな思いと向き合いながら、日々稽古にあたっています。
似て非なること
正直、私も女性なので「女優さんって、きれいだな」と一般的な感覚として、あこがれる気持ちはありました。でも、基本的には別世界のことで、あくまでも遠くから見ているもの。それが女優さんへのイメージでした。
ただ、今の事務所に入るにあたって、女優という指針も示していただき、そのための準備というか、心づもりみたいなことは少しずつさせてもらってはいたんですけど、それでも実際にお話をいただくと「まさか」でした。
自分がそこに足を踏み入れるなんて、本当に「まさか」の一言だったんですけど、やらせていただいて気づいたことが“議員時代のクセ”でした。
人前でしゃべる。何かを伝える。
そういう部分では、舞台も議員も共通するところがあるようにも見えるんですけど、実は全く違う。私の感覚ですけど、むしろ逆くらいの感覚でした。
議員って、朝から駅前に立って演説をしたりもするんですけど、それは“会話”じゃないんです。自分が話しても、誰かがそこに返してくるものではないですし、政策や自らの熱を行く先々でしゃべって、また次に行く。
演説は内容も基本的には同じことを言いますし、また、同じでないと政策も方針もおかしくなってしまう。同じことを繰り返して伝える。私にとってはそんなイメージでした。
その結果、議員の5年間で「相手のアンサーを待つ」という習慣がすっかりなくなっていたことに改めて気づきました。
お芝居も、言うべきセリフはもちろん決まっているんですけど、あくまでも相手との会話なんです。相手の言葉を受けないといけないし、反応も待たないといけない。そして、その上でしっかりとお客さんに伝わらないといけない。
この流れをとても新鮮に感じるということは、どちらが良い悪いではなく、議員の時とは似て非なることをしているんだなと痛感したんです。
勘違い
今回の舞台ももちろんそうですし、2018年から芸能のお仕事をさせてもらうようになって感じたのが「チームワーク」という感覚でした。
最初、テレビに出していただくようになった頃はまだ現役の議員時代で、そういう感覚が全くありませんでした。
本当に「良いのか悪いのか…」なんですけど、国会議員という立場だと、当時の私のような若い人間だったとしても、多くの方が話を聞いてくださる。そこに対して、何か異論を唱えられることもまずありません。
その流れがいつしか当たり前みたいになっていて、どこに行くにも「私がしゃべりにきましたよ!さぁ、みなさん、聞いてください!」という頭に無意識のうちになっていたんだと思います。そして、いつしか、それが当たり前になっていったと言いますか。
番組などでいろいろなタレントさんとご一緒させていただいても、今から思うと、恐ろしいほどに私だけが得意げにしゃべってるんです。
もちろん、そこは私の演説会でもないですし、みんながみんなに配慮しながら作り上げていく場のはずなんですけど、そんな感覚がありませんでした。勘違いなんですけど。
「自分が正しいと思いすぎ」
そんな観点から言うと、議員時代の2015年に上沼恵美子さん司会の「クギズケ!」(読売テレビ・中京テレビ)に出していただいた時も、信じられないくらい本当にダメだったなと思っています。
当時、出していた私のフォトエッセイみたいなことについても、延々、自分の考えだけを語ってましたし、相手の話に耳を傾けることもしない。
そんな中、今から思うと本当にその通りと思えますけど、上沼さんから「当たり前のように、自分が正しいと思いすぎ」という言葉もいただきました。
心底、その通りだと思いますし、その日も、実際「私の話をみんなが黙って聞いてくれる」くらいの感覚で収録に向かっていたと思います。
当然、番組には、みんながプロとしての仕事を全うしようと思って来られている。そして、遊びで作っているわけではないので、商品としてクオリティーの高い物を作って、見てくださる方に満足してもらい、それが経済的にも成功につながることを目指している。
そこで求められるものは何なのか。今、芸能活動もさせてもらうようになって、共演者の皆さんの空気や振る舞いから、その意味を教えていただいています。
そして、最初にその感覚を最初にくださったのは上沼さんだと私は感じていますし、今から思うと、本当にありがたい言葉をいただいていたんだなと痛感しています。
謝れなかった
議員時代、テレビに出してもらうにしても、そんな空気だったのはなぜなのか。それを今になって考えると、議員時代にはできなかったことがあったなと。それが、謝ることだったんです。
謝ると、その途端「じゃ、お前のやってたことは間違ってんじゃないか!」と一気に攻め込まれる。その思いがすごく強かったんです。客観的に見たら「そんなことくらい、どっちでもいいじゃないか」というようなことでも「ごめんなさい」が言えない。言うと「ほら、間違っていたということじゃないか!」が押し寄せてくる。
今の仕事になって、その足かせが取れたという感覚はあります。
あのフォトエッセイというか写真集についても「すみません…。やらかしちゃいました」と言えば、いろいろとすんなり流れてポップになったはずなんです。
そうやって楽しくPRすることがひいてはお世話になった出版社の方々にもプラスをもたらす形になったのかなと思うんですけど、それが言えなかった。そこに、あの当時の自分の心の在りようが表れていると思います。
そういう時間を経て、今、本来の自分の性格に戻ってきている気もしているんです。自分で言うのもなんですけど、表情もだいぶ変わった気がします。
今回の舞台も政治の話ですし、役者としては経験はないものの、内容的に私にも何かできるんじゃないか。そう思ってやらせていただくことになりました。
そうやって、これまでの経験を生かしてお役に立てることがあるならば、本当に幸せなことだと思っています。
そのことによって、私も知らなかった私に会えるのも楽しいですしね。この前も番組でやってみて驚いたのが、意外と私はドッキリを仕掛けるのがうまいみたいで、特に怒り狂うドッキリが上手なようで(笑)。
あらゆる形で、自分ならではのことができたなと思っています。
(撮影・中西正男)
■上西小百合(うえにし・さゆり)
1983年4月30日生まれ。大阪府出身。神戸女学院大学卒業後、会社員を経て、2012年に第46回衆議院議員選挙に大阪7区から立候補し初当選。14年、第47回衆議院議員選挙も同区で2期目の当選を果たす。2018年から芸能事務所「ケイパーク」に所属。テレビ、ラジオを中心にコメンテーター・タレントとして活動している。舞台「おかめはちもく」(16日~23日、東京・サンモールスタジオ)で本格的に女優デビューを果たす。