なぜ、持続化給付金詐欺はここまで広がったのか!? 後悔する受給者たち。ノーブレーキな給付開始も一因。
今、新型コロナの影響で収入が減った個人事業主へ支給される100万円を騙し取る、持続化給付金詐欺の実態が、次々に明らかになっています。
兵庫県警により、男3人が詐欺容疑で逮捕された事件では、持続化給付金の手続きサイトで新型コロナの影響で前年度より売り上げが減ったとの嘘の申請を170件以上行い、被害額は1億7千万円にも上っています。
愛知県警に逮捕された男3人による不正な給付金の申請数は、当初400人でしたが、捜査の進展とともに他人名義での申請が約800人に上る可能性も出てきており、こうなると被害は8億円です。
京都府警が逮捕した男らは、新型コロナの影響で空き部屋になっている京都の民泊をアジトにして、不正申請がバレないよう場所を変えながら、数千万円もの不正受給を行っていました。また、警視庁が詐欺の疑いで逮捕した男ら3人が虚偽申請した数は100人以上で、被害は1億円を超えています。
もっとも数が多いのは沖縄県で、虚偽申請に税理士も関わり、なんと不正受給の数は1800人。18億円もの不正受給が行われたわけですが、この背後には反社会勢力の関与も疑われています。
これからも続々、不正受給の実態は暴かれていくことでしょう。
2020年の上半期の振り込め詐欺などの特殊詐欺の被害総額は、詐欺対策が徹底されることにより、前年度より約23億5千万円減りましたが、上記の不正受給の数字を単純に足しただけでも2900人以上が犯罪に手を染めて、被害額は29億円を超えています。
特殊詐欺の犯人らを警察が逮捕して被害が引っ込んできたと思えば、今度は持続化給付金詐欺がひょっこり顔を出てくるような、モグラ叩きの状態に虚しさを覚えます。
なぜ、持続化給付金詐欺はここまで広がったのでしょうか。
詐欺が広がった理由のひとつに、騙しの組織化があります。
不正受給の絵図を描いて、申請方法を教える指南役、SNSや口コミで広める勧誘役、不正申請に応じる人たちの三位一体の構図が被害を大きくしました。これは悪徳なマルチ商法の勧誘でも使われる手法ですが、それぞれが役割を分担して効率的に行うことで、契約などの成功率をあげられるようになっています。
今回の場合、詐欺の手足として、身分証や銀行口座等の名義を貸した人たちの存在が、大きいと考えます。
もし誰も名義を貸さなければ、被害はここまで広がらなかったはずだからです。後にも述べますが、ここには、給付開始段階の行政側の対策不足が存在します。
勧誘役はSNS上で「簡単な申請で、お金が受け取れるよ」「みんなもやっているし、捕まらないから大丈夫」といった甘い言葉を囁き、申請者を募ります。特に、その言葉を鵜呑みにして悪事に手を染めた若い世代の不正受給が目立ちます。
これまでも、フェイクニュースを確かめずに、SNSに拡散するなどの問題がありましたが、情報の確認、精査をせずに、安易に飛びついてしまうような人たちが真っ先に狙われたわけです。
被害が広がったもう一つの要因に、行政側の注意喚起の仕方にも問題がありました。
持続化給付金は、コロナ禍で資金繰りに困っている事業者への素早い支給のために、必要書類をそろえて申請すれば、すぐに給付金が支給される仕組みです。非常時では致し方ないことかもしれません。しかし厳格な審査がなく、手続きを簡単にするのであれば、
悪意ある者たちをいかに排除するかという「ブレーキ」をかけなければなりません。
そのひとつが「不正受給は犯罪である」という注意です。
こんなこと言わなくてもわかるだろうという人もいるかもしれませんが、今の時代は性善説が通じる時代ではなく、「犯罪者がくる」という想定で物事を進めなければなりません。
指南役や勧誘役は積極的に悪事を働こうするものですから、止めようがありませんが、その甘い言葉にのってしまう人をいかになくすのかが、被害防止の観点では重要になります。
今回、犯罪意識が希薄なまま、手を染めてしまった若者らは、スマートフォンから情報を集る傾向があります。とすれば、支給開始と同時にネットで大々的に「事業者でもない受給資格がない人が偽って申請をすることは詐欺」との注意を徹底させる必要がありましたが、その形跡はみられません。
給付というアクセルだけを踏むことに重きを置き、「不正受給は犯罪である」という防犯のブレーキがかからない状況では、不正受給の暴走が起こってしまうのは自明です。
そして、今、不正受給をした若者の多くが、犯罪をしたことに後悔の念を抱いています。
確かに、持続化給付金申請サイトの宣誓・同意事項には「入力必須事項及び証拠書類等の内容が虚偽でないこと」にチェックを入れることになっており、調査によって不正受給と判断された場合には「申請者の法人名等を公表。不正の内容が悪質な場合には刑事告発」の記述もみられます。しかし、これだけでは手足となって不正を行う者たちの行動を止めるには不十分です。お役所的な文言での訴えでは、インパクトがないからです。
一方、詐欺を行った首謀者の一人は、LINEを通じて数百人の申請者を募っていました。
その手口は巧みで、まず「得する情報」との言葉で人々の興味を引かせ、さらに「今週は〇〇人がお金を受け取りました」「残り〇〇人になったら、申し込みは終了します」という煽るような文面を送り、人々を集めていたのです。
お役所的な注意と、この募集アピールのどちらに、若者たちがなびいてしまうか、よくわかるかと思います。
7月に国民生活センターから、注意喚起がなされる。
不正受給の実態は、ようやく7月に入って国民生活センターから、公表されました。同センターでは、被害の情報集約をしてから、注意喚起するので、これが精いっぱいです。
本来はもっと早く、5月の給付手続き開始と同時に、行政の側から、不正受給への強い警告を打ち出す必要がありました。
特殊詐欺については、「犯罪者がくる」という視点で、国をあげて特殊詐欺への警戒が呼び掛けられているのに、不正受給については「受け取った後は、厳格なチェックがなされて、不正は必ず暴かれる」といった強いメッセージが訴えられてこなかったことは、極めて残念なことです。
弱々しい注意喚起はダメ
注意喚起といっても、弱々しい、インパクトのないものでは、若い世代には響きません。
たとえば、「不正受給は、詐欺にあたる可能性があります」というもの見られますが、これでは効果はほとんどないでしょう。
逆に、これを聞いた詐欺師は、次のように触れ回るに違いありません。
「詐欺の可能性があるだけだから、大丈夫だよ。みんなやっていることだしね。」
現実的に、不正申請を行っても詐欺に問われないこともあるのかもしれませんが、注意をする上では「可能性」をつけてしまうと、詐欺師に揚げ足を取られてしまいます。
注意喚起する時には、ガツン!と告知する。
「不正受給は、詐欺行為です!」「詐欺に問われます!」とはっきりいわなければ、犯罪の抑止効果にはなりません。
その点、特殊詐欺の対策は徹底しています。
高齢者への注意に「キャッシュカードを渡してといわれたら、詐欺です!」こうした言いきりでの文句が目立ちます。
ぼかしたようなもの言いは、あまり役にたたないのです。
今の時代は、詐欺犯との情報戦です。いかに犯罪者が提供する以上の防犯情報を伝えられるかが問われています。
今回は、完全に詐欺犯との情報戦において、国が負けてしまっています。
8月に入り、ようやく経済産業省から「持続化給付金の不正受給は犯罪です!!」というインパクトある警告が出されました。
私の思いは「やっと、今ですか」です。それに、今回、この告知を初めて見たという人が多いのではないでしょうか?
これを5月の支給開始時期に、犯罪防止のブレーキとして、大々的にネットで出してくれていたら、ここまでの不正受給の広がりにはならなかったと思うのです。