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天井も壁もない教室!?とんでもなく非常識なフリースクール「森のスコーレ」が東京都檜原村に開校

おおたとしまさ育児・教育ジャーナリスト
拾ったもので釣り道具をつくって魚釣りに挑戦する小学生(筆者撮影)

檜原村の豊かで優しくて厳しい自然全体が教室

2022年9月5日にある意味とても非常識なフリースクールが、東京都西多摩郡檜原村に開校しました。校名を「森のスコーレ」といいます。フリースクールというのは、学校教育法で定められた正式な学校ではない、いわば「自称・学校」のことです。学校教育法で定められた正式な学校のことは、一般に「一条校」という言い方をします。

何がそんなに非常識なのか。宿題やテストがない学校はいままでもありました。クラス単位で一斉に同じことを学ぶ授業をやらない学校もありました。時間割や教科という概念がそもそもない学校もありました。でも、新しくできたこの学校には、天井も壁もありません。物理的な教室がないのです。かわりに、檜原村の豊かで優しくて厳しい自然全体が教室です。

活動があるのは月曜日から木曜日の週4日。そのうち3日間は基本的に屋外ですごします。1日は寮の部屋もしくは近くにあるスタッフの自宅を活用してそれぞれの生徒の興味に従って思い切り探究をしてもらいます。

開校時点で、小学生から中学生の14人が集まりました。檜原村のさらに奥のほうにあるので、都心から毎日通うのはつらい。そこで、生徒たちの多くは、清流の脇に立つコテージを借り上げた寮で共同生活します。炊事場は屋外。たき火を囲んでみんなで夕食をとります。もともと観光客用のコテージなので、素晴らしい眺望が楽しめる露天風呂までついています。生徒たちは、月曜日の朝に集合して、木曜日の夕方に自宅に帰り、週末は自宅ですごします。檜原村の近くに移住した家族もいます。

観光用のコテージを借りて寮として使用する(筆者撮影)
観光用のコテージを借りて寮として使用する(筆者撮影)

寮の窓は森と清流が見えるネイチャービュー(筆者撮影)
寮の窓は森と清流が見えるネイチャービュー(筆者撮影)

炊事場およびたき火を囲める食堂(筆者撮影)
炊事場およびたき火を囲める食堂(筆者撮影)

寮には清流のせせらぎが聞こえる露天風呂もついている(筆者撮影)
寮には清流のせせらぎが聞こえる露天風呂もついている(筆者撮影)

コテージの真下に、絵に描いたような清流が流れています。そこで泳いだり、飛び込んだり、釣りに挑戦したり、ムシを捕まえたり。川原に「放牧」しておくと、子どもたちは飽きることなく新しい遊びを見つけてそれぞれの時間をすごします。豊かな自然に抱かれて、誰かが雄叫びを上げるとみんなもつられて雄叫びを上げます。まるで野犬の集団です。

寮の真下を流れる清流(筆者撮影)
寮の真下を流れる清流(筆者撮影)

自然に誘われるように子どもたちは動く(筆者撮影)
自然に誘われるように子どもたちは動く(筆者撮影)

トンボやクワガタも姿を現す(筆者撮影)
トンボやクワガタも姿を現す(筆者撮影)

教育のプロと自然のプロが子どもたちをサポート

森のスコーレを取り仕切る中心メンバーは教育のプロと自然生活のプロ3人。まず、神奈川県の進学校・栄光学園の数学教師でありながら長年児童養護施設の学習支援や海外の孤児院への支援活動を行ってきた井本陽久さん。通称イモニイ。NHKのドキュメンタリー番組「プロフェッショナル〜仕事の流儀」でも特集されたカリスマ数学教師です。次に、サザンオールスターズの桑田佳祐などを輩出した神奈川県の名門校・鎌倉学園の英語教師だった飯塚直輝さん。通称ノーパン先生。森のスコーレをやるために、この春鎌倉学園を退職しました。そして、中南米のジャングルを放浪したり、佐渡島で半自給自足生活をしていたこともある料理研究家で執筆家の土屋敦さん。通称ツッチー。ほかにも多数のスタッフが定期的あるいはスポット的に関わります。

初日の様子を見に行きました。開校式、ありません。始業式、ありません。校長の挨拶、ありません。ってか、校長って誰?みたいな。

12歳以上の高学年5人はいきなり山歩きからスタートでした。率いるのはもちろんツッチー。スタッフがもう一人同行します。朝9時から約6時間の行程です。低学年はコテージ下の清流で思い思いに時間をすごします。最初は大興奮で大はしゃぎだった生徒たちも、時間が経つにつれてそれぞれの興味にのめり込んでいきます。夕方、高学年チームも山から戻ってきました。みんなバテバテかと思いきや、みんなへっちゃらの様子でした。露天風呂を浴びて、たき火を囲んで、カレーを食べて、夜は対話の時間です。

この「学校」がどのような学びの場になっていくのか、実はイモニイたちも「まだわからない」と言います。そう言うと無責任に聞こえるかもしれませんが、彼らの信念は「ありのままを認めれば、子どもたちは自ら最高に輝く」です。むしろ教育に最初から「成果」を求める大人たちの姿勢自体が、子どもたちの素直な学びを歪めているとイモニイたちはとらえています。

ツッチーはこう言います。「なにかを失ったと感じることがあるかもしれません。でも、そんなときは、確実に何かを得てもいるのです。『この子は育てにくい』あるいは、『この子は生きていきにくいのではないか』などと感じているかもしれません。しかし、まさにその部分こそが、その子が生きていくうえでの魅力と強みになります」。

「筋書きのない学び」がこれから始まろうとしています。何が起こるのか、何が生まれるのか、楽しみです。

※2023年1月11日追記:諸事情により現在、寮は利用していません。

育児・教育ジャーナリスト

1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。東京外国語大学英米語学科中退。上智大学英語学科卒業。リクルートから独立後、数々の育児・教育誌のデスクや監修を歴任。男性の育児、夫婦関係、学校や塾の現状などに関し、各種メディアへの寄稿、コメント掲載、出演多数。中高教員免許をもつほか、小学校での教員経験、心理カウンセラーとしての活動経験あり。著書は『ルポ名門校』『ルポ塾歴社会』『ルポ教育虐待』『受験と進学の新常識』『中学受験「必笑法」』『なぜ中学受験するのか?』『ルポ父親たちの葛藤』『<喧嘩とセックス>夫婦のお作法』など70冊以上。

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