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研究者、ツイッターで政治を動かす?

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
研究者を悩ます研究費申請書類の使いにくさの問題が解決されたが…(写真:アフロ)

罫線が邪魔…

秋は科研費(科学研究費助成事業)の申請シーズン。全国の研究者たちは書類書きにいそしむのが、秋の風物詩だ。

ところが、申請書類が案外使いにくい。こちらなどでその実物を見ることができるが、ワードファイルの書類では、罫線を書かなきゃいけないなど、いろいろ問題が生じる。

そんななか、研究者を悩ませていた罫線の問題が解決した。

簡単にいきさつを述べると以下だ。

8月まで自民党の行革担当大臣だった河野太郎衆議院議員が、ウェブで競争的資金(研究者が応募して審査の上基準に達していたら得ることのできる研究費)の意見を募集した。

そこで、研究者の方にお尋ねです。

まずは国立大学の共通ルールをつくる(現実的な範囲で規制を緩い方に統一する)のが望ましいか、個別の大学ごとのルールを維持する方がよいのか、お考えをお聞かせください。

また、科研費をはじめとする競争的資金について、お気づきの点があれば、ご意見をお寄せください。

出典:ごまめの歯ぎしり「公的研究費」の管理について

いろいろな意見が寄せられたようだが、ある方がTwitterで科研費申請の罫線問題について意見を述べたところ、河野議員がそれに返信し、罫線のみならず、科研費に関して研究者から様々な意見が寄せられた。

河野議員はこれらをもとに、文部科学省に申し入れをし、来年度から罫線は不要になった。

研究者たちは、河野議員を大絶賛。めでたしめでたし…

今まで何してたの?

河野議員がウェブ上の研究者の声を聴いて動いたのは評価したいが、ちょっと立ち止まって考えると、それまで研究者は使いにくい書類に悩まされるばかりで、改善の声を文科省に言ってこなかったのだろうか。これは政治家の力を借りなければ解決できない問題なのだろうか。

河野議員が文科省に申し入れをした内容が以下にまとまっている。

これをみると、「既に対応済み。」が多い。Twitterという気軽なツールだからというのもあるだろうが、自らが関与する制度に関して、知りもせずツイートしていたということか。

河野議員もいうように、内閣府や文科省には意見募集の窓口がある。ここ数年研究費の改革が議論になっており、意見募集もあった。私自身、文科省に行き、会議に出席し意見を言ったこともある。文科省で要求が通じないなら、内閣府が規制改革のホームページで意見を募集しているので、そこに言ってもよい。

自分の意見なんか聴いてもらえないと最初からあきらめる人も多いと思うが、自らが関わる問題に意見を言わずして改善がなされるとは思えない。

何度要請しても動かない、というときに、政治家の力を借りるのは悪くないが、まずは自らが行動すべきなのではないか。

そういう意味で、今回の件は、単純に喜んでよいことではないように思う。

声をあげなければ問題は解決しない

「研究者は忙しいんだ」「研究に専念するべきだ」…それはその通りだろう。研究者を悩ます研究以外の雑事の多さは、身近でみていてよく分かる。確かに研究者には、その能力を研究で発揮してほしい。

そして実名で意見を言う危険性も分かる。目立つことで叩かれ、あいつは危険だ、と就職で不利になったりもするかもしれない。若いまだ地位のない研究者ならなおさらだ。

しかし、だからといって、誰かが何かをしてくれるはずだ、と座して待つだけでは解決しない。Twitterで意見を言うというのは小さな一歩だが、研究者はほかに意見を言う手段を持たない抑圧された存在ではない。

私は、研究者の非正規雇用であるポストドクターの問題など、若手研究者の問題を長年追っているが、ある議員秘書から言われた言葉が忘れられない。

「ポスドク問題は深刻だ、というけれど、誰もこの問題で私たちのところに来ない。たくさんの人たちが来るようにならないと政治は動けないんだよ。」

何も国会議員に会えとは言わないが、研究者といえども、様々な機会をとらえて意見を言うべきだ。忙しさを言い訳にせず。

声をあげる方法はいろいろある。ウェブに書く、メディアに書く、書籍を書く、Twitterも含めたソーシャルメディアを活用する、メディアに取り上げられる、省庁に意見を言う、政治家に意見を言う…

利害の錯綜する複雑な社会のなかで、もちろん声をあげれば問題解決というほど単純ではない。教授とポスドクでは意見は違うだろう。異なった意見を持った人たちと調整しなければならいことも多い。しかし、当事者が声をあげなければ問題が問題として認識してもらえない。ほかの社会問題では、当事者たちが必死に動いているのだ。

より良い研究環境が実現し、より良い研究成果が出ることは、国民の利益にもなる。少々厳しいことを言ったように思うが、研究者の皆さんへのエールと思って頂けたら幸いだ。

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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