日経平均が過去最大の下落となった最大の要因は、円高ドル安にあり
8月5日の東京株式市場では日経平均が4451円安となり、ブラックマンデーの下げ幅を上回って、過去最大の下げ幅となった。
これは日銀の利上げが原因とされ、「植田ショック」と呼ぶ向きもいたようだが、これにはいくつか疑問が残る。
7月31日の日銀金融政策決定会合で、0.25%への利上げを決定した。さらに公表文には「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」とあり、さらなる追加利上げの可能性も示唆されていた。
市場関係者の7割が予想していなかった利上げが決定され、さらなる追加利上げの可能性も出てきた。これを受けてヘッジファンドなどが、円キャリートレードを解消したのであれば、この決定のタイミングで動いてしかるべきではなかったのか。
どうして5日までのタイムラグが出ていたのか。むろん8月1日も2日も日経平均は下げてはいたが、5日の下げ幅がどうして急激となったのか。
もうひとつの疑問が、もし日銀の利上げが主要因であったのであれば、どうして日本国債は売られなかったのか。いやむしろリスク回避だということで大きく買い進まれていたのはどうしてか。
ここで注目すべきは、やはりドル円であったと思われる。
ドル円は7月11日の米CPI発表を受けた米長期金利の低下によって急落した(円高ドル安)。160円あたりから157円台となり、ここからドル円は下落トレンドとなった。その主たる要因は米長期金利の低下であった。
これにはインフレトレードの解消も影響していたとみられる。米国株式市場では相場を引き上げていた半導体関連株を中心に売り圧力が強まった。ナスダックも7月11日から下落トレンドに転じ、日経平均もそれとシンクロするかのように下げてきた。
すでに米株が下落し日経平均も下落。さらに米長期金利の低下によって円高ドル安も進行していた。
そして7月30、31日にFOMCと日銀の決定会合が開催された。今回はたまたま同じ日程となっていた。日銀は先に利上げを決定し追加の利上げの可能性も示唆、FRBは現状維持であったが9月の利下げへの可能性を示唆した。
これによって日米の金融政策の方向性がこれまでと反転することが予想されたのである。これまでは日銀は緩和から動けない、FRBは高い政策金利を維持する、との見通しによって円安ドル高は維持されるとみていた向きがかなりいた。
しかし、7月11日以降、米長期金利の低下に合わせるように、円高ドル安にトレンドが変化していたこともあり、円高ドル安に拍車が掛かる懸念を強めた可能性がある。
7月31日のニューヨーク株式市場ではダウ平均は99ドル高、ナスダックは451ポイント高となっていた。ところが、米10年債利回りは4.03%と30日の4.14%から低下し、ドル円は150円割れとなっていた。
日米の金融政策の方向性の違いが認識され、日米金利差が今後縮小する可能性が強く意識されて、円高ドル安が8月1日から2日にかけても加速した。
そしてこのタイミングで、円キャリートレードなどを含め日米金利差が大きくなければならないポジションを持っていたヘッジファンドなどが、ストップロス的な行動に出たとみられる。
実際にドル円の150円とか、チャートで引っかかった可能性もあるが、ドル円の低下スピードとその背景が意識されてポジションを外してきたのではなかろうか。
円で調達した資金での運用のなかには日本株を買うだけでなく、今年3月以前の意地でも動かない日銀に対して日本国債の売りを仕掛けていたようなヘッジファンドなどもいたとみられる。債券先物のショートやオプション、スワップなどを利用していたとみられる。なかには超長期債を空売りしたようなケースもあった可能性がある。
いずれにしても日銀が利上げをしたからではなく、すでにドル安の流れとなっていたところに、日米の金融政策が反対方向を向くことで、ドル安が加速される懸念が強まった。これによって円で調達していたヘッジファンドなどがそのポジション解消に動いた。
特に多くのポジションが日本株への買いとなっていたとみられる。また、一部は円債のショートポジションを抱えていた。一部ではビットコインなどへ資金を振り向けていた可能性もある。
その結果、5日に東京株式市場やビットコインが急落し、円債は急騰。そして円からドルに戻すことで、円売りドル買いも急速に進行しドル円が141円台にまで低下(円高ドル安)。日経平均は過去最大の下げ幅となったというのが私の見立てとなる。