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横浜国際プールの存続を!国際都市横浜で、インクルーシブスポーツ推進の危機

佐々木延江国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表
第27回日本知的障害者選手権 が開催された横浜国際プール 写真・

6月30日、日本知的障害者水泳選手権が開催されている横浜国際プールで、神奈川県水泳連盟・高橋憲司会長が主導し、横浜市が進める「横浜国際プールの再整備計画(素案)」に反対する「嘆願書」を発表した。

6月6日、横浜市にぎわいスポーツ文化局スポーツ推進課が発表した再整備計画によると、メインアリーナは現在の「床転換型」のプール・体育館併用施設から「通年スポーツフロア」に転換することとした。これは、これまでパラ水泳の重要な大会を開催し、世界へパラアスリートが飛び立つホームプールがなくなることを意味している。

記者会見に臨む、右から、神奈川県水泳連盟・高橋憲司会長、日本パラ水泳連盟・河合純一会長、日本知的障害者水泳連盟・佐野和夫会長、日本デフ水泳協会・竹中芳晴会長、横浜市水泳協会・小清水貢 写真・西牧和音
記者会見に臨む、右から、神奈川県水泳連盟・高橋憲司会長、日本パラ水泳連盟・河合純一会長、日本知的障害者水泳連盟・佐野和夫会長、日本デフ水泳協会・竹中芳晴会長、横浜市水泳協会・小清水貢 写真・西牧和音


会見には、日本パラ水泳連盟会長の河合純一氏、日本知的障害者水泳連盟会長の佐野和夫氏、日本デフ水泳協会会長の竹中芳晴氏、横浜市水泳協会障害者委員会代表の小清水貢氏が出席し、プールの存続を訴えた。

嘆願書は7月1日に横浜市にぎわいスポーツ局スポーツ振興課に赴き、横浜市水泳協会・草野茂専務理事らが提出される。

記者会見に至った理由

横浜国際プールの再整備については、上位計画の横浜市中期4か年計画2022~2025の中に、「東京2020パラリンピック競技大会により高まった障害者スポーツの機運を維持し、障害の有無にかかわらずスポーツに親しめる環境を整備し、共生社会の実現につなげていくこと」が目指すべき姿として記されている。

国際基準の50メートルプールが廃止されることとなれば、開業当初から培い、東京2020オリンピック・パラリンピックのまさにレガシーを積み重ねてきたそのことと言える、パラ水泳による地域コミュニティや、障害のある人の水泳競技大会を運営するノウハウを手放すことになるだろう。

右から、神奈川県水泳連盟・高橋憲司会長、日本パラ水泳連盟・河合純一会長 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生
右から、神奈川県水泳連盟・高橋憲司会長、日本パラ水泳連盟・河合純一会長 写真・PARAPHOTO/秋冨哲生

神奈川県水泳連盟の高橋憲司会長は、「令和4年12月、横浜市に対して日本水泳連盟・鈴木大地会長名で嘆願書を出しました。その中にここで行われてきた国際大会、日本選手権大会、国内大会が全て列記されており、その中にパラの大会も全て含まれています」しかし、それに対する検討がなされたのかどうかは、返信がないために、わからないままだという。「突然の発表で、水面下で進んでいる状況がわかり、怒り、驚いています。こうしてパラの皆さんにお手伝いしていただいている次第です」と明かした。

歴史的背景と訴え

横浜国際プールは、長野パラリンピックと同じ1998年に開業した。日本で障害者のスポーツが少しずつ障害のない人に認識され、スポーツとしての位置づけを築き始めた時期であった。そんな中いち早く2001年に第4回知的障害者水泳選手権が開催され、以後毎年開催されるようになり今大会で27回目を迎える。多くの知的障害のあるスイマーがこのメインプールで成長し、世界記録保持者も複数輩出している。

ロンドン2012パラリンピック男子100m平泳ぎS14世界新・金メダルで日本の知的障害スイマーにきっかけを与えた田中康大 筆者撮影
ロンドン2012パラリンピック男子100m平泳ぎS14世界新・金メダルで日本の知的障害スイマーにきっかけを与えた田中康大 筆者撮影


2011年、国はスポーツ基本法を改正、障害者のスポーツが厚労省から文科省に移管され、スポーツ庁が発足した。その流れを横浜市は採用せず、現在も障害者のスポーツは福祉局が管轄しており、自治体として障害者の競技に取り組んでいない。しかし横浜国際プールでは、日本水泳連盟とパラ水泳の競技どうしの現場の繋がりをベースに、東京2020オリンピック・パラリンピックが招致・決定されるなか、国と自治体の両方の支援もあり、2016年からは世界パラ水泳連盟(WPS)公認のジャパンパラ水泳競技大会も開催されている。横浜国際プールは障害者スポーツのレガシーを構築する拠点となっている。

6月30日、第27回日本知的障害者選手権 水泳競技大会で世界記録、アジア記録の選手が表彰された。 写真・秋冨哲生
6月30日、第27回日本知的障害者選手権 水泳競技大会で世界記録、アジア記録の選手が表彰された。 写真・秋冨哲生

第27回日本知的障害者選手権 が開催された横浜国際プール 写真・PARAPHOT


嘆願書では、横浜国際プールが国内外のパラリンピック関係者にとって「聖地」とされていることを強調している。

東京2020オリンピック開催都市の横浜は、英国オリンピック・パラリンピック競泳チームのホストタウンでもあった。史上初の延期、コロナ禍での開催も、しっかりとサポートし日本代表選手の選考大会を開催した。

「このようなことが起きている理由を、どう受け止めていますか?」という記者の質問に、パラ水泳・河合純一会長は「私もこれまで横浜国際プールの存続については報道や県水連の方々から聞いて、ぜひとも続けていただきたいと伝えてきましたが、今回急に(廃止の)報道がされ驚いています。急遽こういった知的障害の日本選手権を行うタイミングで、改めて、存続に向けてお願いをしていこうということで集まりました。大変残念な方向性だと感じています」と答えた。

メインプール廃止の影響

メインプールの廃止による具体的な影響について質問が相次ぎ、河合会長は「このプールで行われる大会が多く、他の場所で代替することは非常に困難である」と述べ、選手たちがここで競技を行うことの経験や思い出が重要であり、それを失うことは大きな損失であると強調した。また、「近隣の大学や高校生がボランティアとして参加し、障害のある方々を支える大きなレガシーがある」とし、地域づくりとして継続する重要性も指摘された。

第1回インクルーシブ大会で、パラリンピック100m平泳ぎの世界記録を持つ山口尚秀(1位・中央)と競い合ったスイマーたち。 写真・秋冨哲生
第1回インクルーシブ大会で、パラリンピック100m平泳ぎの世界記録を持つ山口尚秀(1位・中央)と競い合ったスイマーたち。 写真・秋冨哲生

横浜国際プールは、国内外のパラ水泳の重要な大会の開催地であり、地域のスポーツ活動の中心である。このプールの廃止により、多くの大会が開催できなくなるだけでなく、水泳競技人口の減少にもつながる可能性がある。また、プロバスケットボールチーム「横浜ビー・コルセアーズ」のホームアリーナとしても利用され、多目的、多様な市民のスポーツ施設としての役割を果たしてきたが、水泳、障害者のスポーツと接する機会を失い、培ってきたスポーツの意義への不信をもたらし、スポーツ振興を後退させることになるのではないか。

横浜市の対応と今後の展望

にぎわいスポーツ文化局はメインアリーナの通年スポーツフロア化の計画を発表したが、署名活動や記者会見を通じて、市民や関係者の反対の声が高まっている。1万1290名の署名が集まり、再整備計画の見直しを求める動きも広がっている。横浜市は8月1日まで、市民意見を募っている。

横浜国際プールは単なる競技会場ではなく、地域のインクルーシブスポーツ推進の象徴である。このプールの存続を巡る議論は、横浜市のスポーツ振興と障害者スポーツの未来にとって重要な分岐点となる。市当局は市民や多様な当事者の声に耳を傾け、インクルーシブな社会の実現に向けた真摯な対応が求められている。

筆者コメント

筆者は、パラリンピック取材者として、パラ水泳ファンとして横浜国際プールでのパラ水泳、そして来夏デフリンピックに向かう選手たち、競技運営者やボランティアの活動を見てきました。このメインプールは、地域のスポーツ文化・コミュニティを育み、スポーツの振興にとって大切です。メインプールを廃止することは、横浜市のスポーツ振興の歴史に「汚点」を残すことになりかねない事態だと感じます。当局は、実際に運営に関わってきた当事者、アスリートの声に真摯に耳を傾け、賢明な判断を下すことを強く望みます。

<関連リンク>

2024年6月21日

【記者発表】横浜国際プール再整備事業計画(素案)に対する市民の皆様のご意見を募集します

https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/bunka/2024/0621ikenboshu.html

こちらから意見を投稿できます(受付:8月1日まで)

https://shinsei.city.yokohama.lg.jp/cu/141003/ea/residents/procedures/apply/4ed5a88a-7548-4995-a9da-ff7194ebf75e/start

横浜国際プールで、横浜市が主催する「インクルーシブスイミング」が今年も7月13日、14日で開催される。以下のリンクは第1回の記事。

https://www.paraphoto.org/?p=34239


(校正・地主光太郎)


※この記事は、PARAPHOTOに掲載されたものです。

国際障害者スポーツ写真連絡協議会パラフォト代表

パラスポーツを伝えるファンのメディア「パラフォト」(国際障害者スポーツ写真連絡協議会)代表。2000年シドニー大会から夏・冬のパラリンピックをNPOメディアのチームで取材。パラアスリートの感性や現地観戦・交流によるインスピレーションでパラスポーツの街づくりが進むことを願っている。

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