北朝鮮の軍需工場労働者、迫撃砲弾などの横流しで逮捕
1980年代以前の北朝鮮は、非常に犯罪の少ない国だったと言われている。配給システムが機能し、住宅から食料品に至るまでほとんどのものを国が無料、または安価に配給し、「貧しくとも生きていける皆が平等」な国だったからだ。もちろん、特権層は存在したのだが。
ところが、1990年代後半の未曾有の食糧危機「苦難の行軍」を前後して配給システムが崩壊し、餓死者が続出した。生きるために市場で商売する者もいれば、犯罪に走る者もいた。極度に悪化した治安対策として金正日総書記は「犯罪者はその場で処刑せよ」という荒っぽいやり方を指示した。
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その後、食糧事情は落ち着きを取り戻したものの、崩壊した配給システムに食糧を頼らざるを得ない軍隊は半ば飢餓状態に置かれ続けている。腹をすかせた兵士たちは、民家や農場を襲撃し、食べ物を奪っている。
軍と関連した横流し、横領、窃盗は主に食糧が中心だったが、それ以外の軍需品も対象になる事例が出てきている。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えたのは、軍需工場の労働者による横流しの事例だ。
首都・平壌郊外の平城(ピョンソン)の工場に勤める品質監督員は7月20日、工事に使って余った導火線80メートル、導爆線120メートル、雷管77個、自動拳銃の弾丸10発、迫撃砲弾2発を家に持ち帰り、平安北道(ピョンアンブクト)の龍川(リョンチョン)に住む在北朝鮮華僑に売ろうとした。
本来、軍需工場の労働者は一般に比べて非常に優遇され、食料の配給も手厚く行われていたが、配給が止まったとの情報がある。新型コロナウイルス対策として今年1月から国境が封鎖されたことによる経済難によるものだが、この工場も例外ではなかったのだろう。
ちなみに龍川と言えば、2004年4月に貨物列車が謎の大爆発を起こし、駅はもちろんその周辺の住宅地や学校が吹き飛ばされる大惨事が起きたところだ。事故の直前に駅を通過していた金正日総書記を乗せた特別列車を狙ったものだという説がある。
話を元に戻すと、迫撃砲弾などの値段交渉の過程でけんかとなり、恨みに思った華僑が安全部(警察署、旧称保安署)に通報したことで、軍需品の窃盗が明るみに出てしまったというわけだ。
平壌に近い平城にある軍需工場だけあり、流出した軍需品は金正恩党委員長へのテロ行為に使われかねず、他の地域にある工場より厳重な管理がなされていたはずだ。そこで起きた横流しは、北朝鮮の経済難の深刻さを物語っている。
北朝鮮の刑法86条は、軍需品生産部門の労働者が資材や完成品を流用(横流し)した場合、最高で3年以下の労働教化刑に処すと定めている。ただ、刑期が長くなる可能性もある。不正行為に関する金正恩氏の命令があったからだ。
今年5月9日に下された最高司令官命令第00611号は、軍需物資や軍向けの食糧の横流しについての処罰を強化せよとしている。実際、逮捕された品質監督員の身柄は、安全部から保衛部(秘密警察)に移されたという。つまり、政治犯扱いされて厳罰が下されるということだ。