G7の緊急共同声明に潜む意味
15~16日にモスクワで開かれるG20を前に、「先進国として統一見解を示す狙い」(日経)から、G7は緊急共同声明をまとめた。その内容は下記の通り。
「我々、G7の財務大臣・中央銀行総裁は、我々が長年にわたりコミットしている、為替レートは市場において決定されるべきこと、そして為替市場における行動に関して緊密に協議すべきことを再確認する。我々は、我々の財政・金融政策が、国内の手段を用いてそれぞれの国内目的を達成することに向けられてきていること、今後もそうしていくこと、そして我々は為替レートを目標にはしないことを再確認する。我々は、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与え得ることに合意している。我々は引き続き、為替市場に関して緊密に協議し、適切に協力する。」(財務省のサイトより、仮訳)
これについて麻生財務相は12日、記者団に「日本の政策がデフレ不況対策であり、為替相場に使っていないと各国から正式に認識された」と述べた(日経新聞)。ただし、この声明が出された背景には、安倍政権が打ち出した積極的な金融緩和策に対し、ドイツなどG7の一部の国から批判が出ていたことがある。「今の日本やアメリカなどの金融緩和策が、輸出を有利にする為替誘導ではないかといった懸念が出ていることから出されたもので、為替誘導を否定するとともに、一部の懸念を払拭したいねらいがあるとみられます」(NHKニュース)との解釈もあった。
ところが緊急共同声明について、円の過度な動きに懸念を表明することがG7の目的だったとの匿名のG7筋による発言もあり、12日の欧米市場でこのような解釈の違いにより円相場は翻弄された。
このあたりについて、カーニー・カナダ中銀総裁は、「インフレ目標を2%に設定した場合、国内的な結果を目標としているのであり、為替相場を目標としたものではない」と日本を擁護しているものの、日本の当局が為替相場の特定の水準を目標としているとの懸念が一部出ているとして、「G7はこの件に関して討議した。週末のG20財務相・中央銀行総裁会議でも議題として取り上げられる見通しだ」と述べたそうである(ロイター)。
共同声明の文面からは明らかにされてはいないが、そもそも声明は当然ながら、そこに至る過程が示されているわけではなく、玉虫色の表現も使われる。今回の共同声明がそもそも日本に対する懸念がひとつの発端になっていたとすれば、あまり楽観的な解釈はできない。
麻生財務相は為替市場での円安はデフレ不況のために打ち出した政策の結果であり、目的ではないとの考えを示していたが、そのような立場を取れば、確かに日本は為替誘導はしていないとの解釈もできよう。それに対して海外からは、結果としても何であれ、安倍政権の政策には円安誘導が含まれるとの認識が持たれていたとしてもおかしくない。
安倍政権としても、この円安についてはどのようにアピールするべきかは悩ましいところでもあろう。アベノミクスへの評価の現れのひとつとして円安とそれによる株高がある。
ただし、アベノミクスはあくまで円安の流れを加速させただけであり、そのひとつのきっかけが日銀への政治的な圧力による物価目標の設定であったといえる。その意味では、麻生財務省の解釈は正しいと思う。国内目的を達成するために国内手段を用いたということになる。
ところが、自民党からは官民協調ファンドによる外債購入等も検討されるなど、円高からの脱却には為替調節に直接影響する政策も含まれていた。もちろんこれはいまのところ実現されておらず、その意味では直接的な為替操作は行っていない。しかし、今回の声明を見る限り、今後はたとえば日銀に対して外債購入を求めるような発言は為替誘導と認識される懸念がある。
市場の流れを決めるのは、政治家ではなく市場参加者である。声明文でも為替レートは市場において決定されるべきとあり、事実そのようになっている。その市場参加者の心理状態が相場に大きく影響する。今回の円安の原因はアベノミクスではなく、欧州の信用リスクの後退、日本の貿易構造の変化等により、市場心理が変化し、長らく続いた円高局面に変化が訪れ、その流れにアベノミクスは乗ったものといえる。海外からの懸念を払拭するには、このあたりのことをアピールすることも必要であろう。
今回の緊急声明に日本の動向が影響していたとすれば、海外からは今後の政府と日銀の動向に対しても注目されよう。もし日銀法改正などの動きが仮に本格化すれば、為替動向のみならず日本の政策に対して、海外からの懸念がますます強まる恐れもある。このあたりを含めて週末のG20の動向には注意しておく必要があるかもしれない。これまでの円安の流れに新たな変化が生じる可能性もありうる。