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諸外国に見るソーシャルメディアでの実名・匿名の利用実態の違い

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ フランクなやりとりが成されるソーシャルメディア。実名・匿名どちらを使う?

ソーシャルメディアの利用時に使う名前。実名・匿名、それぞれ長短所がある。個人のプライバシーへの考え方の違いもあり、どちらにするかは人それぞれ。その実態を、総務省が2014年7月に公開した情報通信白書内で掲載されていた調査結果を基に、日本と諸外国との比較を介して見ていくことにする。

該当する調査は総務省が2014年3月に実施した「ICTの進化がもたらす社会へのインパクトに関する調査研究」。これは男女・10年区切りの年齢で均等割り当て(10代は16歳以上、50歳以上はひとまとめ)で、各国とも1000人を対象としたインターネットアンケート形式で行われている。

SNS(ソーシャルメディア。LINEなどのチャット系アプリは今件では含む)の利用状況と、利用に際して実名を使うかそれとも匿名かを聞いた結果が次のグラフ。今件回答に含まれない部分は、そのサービスを使っていないことになる。例えば日本の場合、Facebookは匿名利用者が10.1%、匿名利用者が29.8%、双方利用者が1.2%、そして非利用者が100-(10.1+29.8+1.2)=58.9%となる。

↑ SNSの利用有無と匿名・実名利用の比率(日本)
↑ SNSの利用有無と匿名・実名利用の比率(日本)

Facebook、ツイッター、チャット系アプリそれぞれ利用率は約4割。奇遇にもほぼ横一列。Facebookは実名利用派が多いが、ツイッターは逆に匿名を使う方が多い。チャット系アプリは半々。掲示板やブログはほぼ匿名利用で、特に掲示板の匿名性の高さが、日本における「ネットのコミュニティは匿名利用」との通例を創り出したともいえる(正確、厳密にいえば「匿名性掲示板の流行が」である)。

他国の動向を見ると、色々な国ごとの特性が見えてくる。まずはアメリカとイギリス。

↑ SNSの利用有無と匿名・実名利用の比率(アメリカ)
↑ SNSの利用有無と匿名・実名利用の比率(アメリカ)
↑ SNSの利用有無と匿名・実名利用の比率(イギリス)
↑ SNSの利用有無と匿名・実名利用の比率(イギリス)

Facebookの8割前後をはじめ、諸サービス共に米英共に利用状況は日本よりも上。実名・匿名性だが、実名利用が推奨されるFacebookでは実名利用度は日本と同程度、欧米では日本より高い割合となっている。また実名推奨が無いツイッター、昔から使われている掲示板やブログでは、日本と比べて匿名利用度が低いのが目に留まる。やはり日本の匿名利用性向は高いように見える。

同調査では日本同様にアジアセクターとなる韓国ではどうだろうか。

↑ SNSの利用有無と匿名・実名利用の比率(韓国)
↑ SNSの利用有無と匿名・実名利用の比率(韓国)

同国はデジタル技術の国家的な促進もあり、ソーシャルメディアと相性の良いスマートフォンの普及率が高いことで知られているが、それを反映して各サービスの利用率、特にFacebookとチャット系アプリの値が高い。一方で、Facebookの実名利用率の高さや、その他サービスの実名・匿名利用度合いは日本よりもむしろ欧米諸国のそれに近い。日本における匿名の利用性向の高さは、アジア共通……ではなく、日本独自の傾向と見て良さそうだ。

日本のインターネットコミュニティにおける匿名利用の多さは、法的なプライバシー保護の不整備度合いや対応の遅れも一因。だがむしろそれより、インターネットの普及発展過程において、匿名利用による掲示板が大いに用いられたことを起因とする。

また、その「匿名による掲示板利用」が流行った理由を考えれば、たまたまそのタイプのスクリプトが多数配布され、また大手も使ったことに加え、社会文化性的にそのタイプが好かれたのも大きな要因だろう(当時からも記名性、登録制の掲示板スクリプトも多数が配布されている。しかし匿名掲示板ほどには普及しなかった)。

なお今件データを基に、ツイッターの「利用者における」実名・匿名利用比率を算出すると次の通りとなる。

↑ ツイッター利用者における実名・匿名利用比率
↑ ツイッター利用者における実名・匿名利用比率

複数アカウントによる双方利用を足すと差異はやや縮まるが、それでもなお日本の匿名好きが改めて理解できよう。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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