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トランプ大統領とNFLの間で起きた国歌斉唱で「立つか」「立たないか」問題、ゴルフでは?

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
ゴルフの大統領杯では国歌斉唱の際、ウッズも「立っていた」(写真/舩越園子)

 米国選抜と世界選抜(欧州以外)の2年に1度の対抗戦、プレジデンツカップが28日、米ニュージャージー州ジャージーシティのリバティナショナルGCで開幕した。

 1994年に創設された同大会は、その名の通り、大統領杯だ。そして、米国の現大統領は言わずと知れたドナルド・トランプ。そして、トランプ大統領といえば、大会前週の週末からNFLの選手とトランプ大統領の間で国歌斉唱の際に「立つか」「立たないか」が問題化し始めたばかりである。

 人種差別に対する抗議の意志を示すため、国歌斉唱の際に地面に片膝を付いたまま立ち上がらなかったNFLの選手に対し、トランプ大統領が「国家へのリスペクトを示さない選手はクビだ」などとツイッターで発信。すると、さらに多くのNFL選手が片膝を付いたまま、あるいは腕組をしたり、国歌斉唱の際にロッカールームにこもったりして、トランプ大統領に強く反発する姿勢を見せた。

 その矢先に迎えたゴルフのプレジデンツカップゆえ、開会式の国歌斉唱の際、米国選手たちが果たしてどんな対応を見せるのかに注目が集まっていた。

【開会式を縮小したが、、、】

 プレジデンツカップ開催は今年が12回目になる。過去の大会では開幕前の火曜日または水曜日に「オープニングセレモニー」と名付けられた派手で大規模な開会式が執り行われてきた。だが、今年は開幕前のオープニングセレモニーを大会史上初めて取り止め、実際の試合が始まる木曜日の第1マッチのスタート前に、1番ティで「トロフィー・プレゼンテーション」と名付けられた小規模な儀式だけが行なわれた。

 なぜ、儀式を縮小したのか。NFLでの問題を受けて、トラブルを回避するために縮小したのか?

「NFLの問題が起こる以前からセレモニーの縮小は決まっていた。大勢の世界のメディアを受け入れる場所の確保が難しかったことと、テレビ中継の便宜上、今年は初日のスタート前に時間を短縮して行なうことにした。NFLで起こっている問題とは無関係です」とは、米ツアー・メディアオフィシャルの話。

 そして、今日28日の「トロフィー・プレゼンテーション」での国歌斉唱の際、実際に米国選抜の選手たちは、どう対応したのか?

 結論から言えば、彼らは立ち上がり、胸に手を当て、国歌斉唱に静かに耳を傾けていた。

トロフィープレゼンテーションでは誰もが立って国歌に耳を傾けた(写真/舩越園子)
トロフィープレゼンテーションでは誰もが立って国歌に耳を傾けた(写真/舩越園子)

【すぐに全員の合意に達した】

 NFLで問題が広がっていったことを受け、米国選抜のキャプテン、スティーブ・ストリッカーは、開幕前の火曜日にチーム全員で移動していたバスの中で、どう対応すべきかを12名の選手と4名の副キャプテンに問いかけたそうだ。

「僕自身はこの国を心から愛しているし、国歌斉唱のときは当然ながら起立するべきだと信じているので、この話をチームのメンバーたちに切り出すのは少し気がとがめていた。でも、チーム全体を事前にまとめておく必要があったので、バスの中で『どうする?』とみんなに問いかけた。すると、すぐに全員の合意に達して、ほっとした」

 合意は「国歌斉唱の際は、きちんと立ち、帽子を取り、胸に手を当てて、星条旗とアメリカ合衆国に敬意を表する」というものだった。

【ウッズも、ミケルソンも】

 今日28日の午後12時30分。1番ティの横に設けられた賓客用の席には、ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマの歴代大統領3人が並び、観衆から大きな拍手と歓声を浴びていた。

 黄金に輝くプレジデンツカップ(優勝カップ)がおごそかに運び入れられ、続いて星条旗と世界選抜に出場する選手たちの母国8か国の国旗を抱いた旗手たちが入場。

 そして、国歌斉唱の段になると、米国選手たちも、周囲に集まっていた関係者も、1番ティを三方から囲むギャラリースタンドを埋め尽くした大観衆も、誰もが起立して帽子を取り、胸に手を当て、神妙に国歌斉唱に聴き入っていた。

 米国選抜の副キャプテンの1人として今大会に参加しているタイガー・ウッズは、チームメンバーたちからやや遅れ、国歌斉唱にぎりぎりセーフというタイミングで1番ティ近くに到着。ロープ際でカメラマンの列に紛れるように立ち、キャップを取って胸に手を当てていた。

旗手たちが退場していくときもミケルソンは胸に手を当てていた(写真/舩越園子)
旗手たちが退場していくときもミケルソンは胸に手を当てていた(写真/舩越園子)

 その対岸には、いつも愛国心溢れる姿勢を見せるフィル・ミケルソンが直立不動で立ち、帽子を持った手を胸に当てていた。ミケルソンは国歌斉唱が終わり、各国の国旗を抱いた旗手や鼓笛隊の人々が退場していく際、それを見守りながら、まだ胸に手を当て、頷いたり、自ら声を掛けたりしていた姿がとても印象的だった。

 かくして、ゴルフの大統領杯は、国歌斉唱の際も何ひとつトラブルは起こらず、スムーズに厳かに儀式が執り行われた。米国選抜の1人、リッキー・ファウラーは「誰にも自由に意見を抱く権利、それを態度で示す権利がある。でも、国歌斉唱は合衆国への尊敬を示すときだから、僕らは今までもそうしてきたように、それをきちんとやりたい」。

 何もかもが飛び火して広がっていかなかったこと、ゴルフの世界はゴルフの世界の「いつも通り」を通してくれたことに、とりあえず安堵した。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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