米キューバ接近、中国はどう見ているか? ――北朝鮮は漁夫の利?
米キューバ接近、中国はどう見ているか? ――北朝鮮は漁夫の利?
米国とキューバの国交正常化交渉が始まることになった。同じ社会主義国家としてキューバと緊密にしてきた中国は、米国の接近をどう見ているのか? 急に北朝鮮に友好的なシグナルを送った中国の心理を見てみよう。
◆先ずは歓迎の意を表した「人民日報」
12月17日のオバマ大統領の「キューバとの国交正常化交渉を始める」という発言を受けて、翌18日付の「人民日報」(中国共産党機関紙)は、「米国とキューバの関係正常化は中国に利する」という記事を載せている。
人民日報がよくやる手口だが、自分自身の意見としてでなく、自分と同じ意見を言ってくれる専門家に、ものを言わせるという形を取ることが多い。今般もまた、マルクスレーニン主義教育のメッカであるような中国人民大学の国際関係学院副院長・金燦栄教授に語らせている。それによれば、
「米国とキューバの関係正常化は、中国にとってプラスの役割を果たしている。中国はキューバにとって最も重要な貿易パートナーだ。通商禁止を米国が解除すれば、キューバの経済環境は必ずもっと開放的になるだろう。これは中国の対キューバ貿易と投資にとって、非常に有利なことだ。しかもキューバの市場における中国の競争力は、必ず強まることになる。それに、米国とキューバが緊張関係にあった間、中国とキューバの友好関係は、しばしば米国の非難を受けてきた。時には米中関係に障害を与えたことさえある。米国とキューバの関係が正常化すれば、こういった障害は存在しなくなる」
とのこと。
チェ・ゲバラ(1928年~1967年)という有名な革命家の協力の下、1959年、キューバに社会主義国家である革命政権が誕生すると、フィデル・カストロ首相は翌60年9月2日の「ハバナ宣言」において、「中華民国」(台湾政府)を認めず、中華人民共和国(現在の中国)を承認すると宣言した。
喜んだ中国は、同年9月28日にキューバと国交を結び、12月には、当時、全人代常務委員会副院長を務めていた郭沫若(かくまつじゃく)(1892年~1978年)(文学者、歴史学者、政治家)をキューバに派遣して革命政権の誕生を祝っている。
それまでスペインに代わってキューバを植民地化していたアメリカは、革命政権誕生とともにキューバと国交を断絶。交易を断った。
数百年にもわたる植民地化から独立したキューバは、中国や(旧)ソ連などの社会主義国家と緊密になっていくが、中ソの対立から、キューバはソ連を選んだ。なぜなら米ソ冷戦時代が続いていたので、ソ連と仲良くすることは、アメリカの攻撃から逃れる大きな選択だったからである。そのため中国との関係は、一時期、冷え込んでいった。
ところが1991年にソ連が崩壊する少し前から、中国は再びキューバと仲良くするようになり、1990年5月には、当時、中央弁公庁主任だった温家宝(前首相)がキューバを訪問するなど、キューバと中国との関係は、この頃から緊密さを回復している。
フィデル・カストロが体調を崩し、弟のラウル・カストロがキューバの首相になると、中国をならって改革開放政策に転じたため、中国は一層のこと、キューバとの関係を深めていった。
しかし経済成長し、アメリカとの関係もまた良好になっていった中国は、アメリカに遠慮して、堂々とキューバとの交易を盛んにするわけにはいかない状態にあった。
前出の中国人民大学の金燦栄教授は続ける。
「だから米国とキューバが関係を正常化してくれれば、それは中国にとってもいいことだが、しかし、国交正常化までいくのは、並大抵のことではないだろう。何といっても議会で可決されなければならないが、オバマ大統領に対抗する共和党が、オバマ大統領の思うようにはさせないことが予測される。また、かつてキューバからアメリカに逃亡し、今ではアメリカの既得権益層になっているキューバ系アメリカ人たちが、米キューバ国交正常化に反対することが考えられる。
特に次期大統領候補の一人となっている共和党のジェブ・ブッシュの妻は、キューバ系アメリカ人で、強烈な反キューバ主義者だからね…」
と、なかなかに詳しい。
◆漁夫の利を得るか、北朝鮮――習近平が「中朝友好関係」重視発言!
さりながら、一方では、中国が本音を出している。
なんと、オバマ発言があった同じ17日、習近平国家主席は、チャイナ・セブンで党内序列ナンバー5の劉雲山を駐中国北朝鮮大使館に派遣して、「中国は伝統的な中朝関係を重視している」というメッセージを北朝鮮大使に渡したのである。
2013年12月に、中国と仲が良く改革開放を唱えていた張成沢(チャン・ソンテク)氏を公開処刑してからというもの、中朝関係は決定的に冷え込んでいた。
だから今年7月には、習近平は北朝鮮を先に訪問するという慣例を破って、先に韓国を訪問し、金正恩(キム・ジョンウン)第一書記を激怒させた。中国からの経済支援も徐々に減ってきたので、北朝鮮は中国と首脳会談を開いてない日本に笑顔を向け始め、拉致問題に関しても積極的になり始めて、日本から経済支援を引き出そうとしていたのだが、日中首脳会談が実現しそうになると拉致問題に関して手を引き始めた。
そんな折、米国が「中国が仲間だと思っているキューバ」に接近したとなると、経済的には「中国に有利だ」と言いながら、実は、中国の内心は穏やかではない。
そこで12月17日がたまたま金正日(キム・ジョンイル)前第一書記の命日であったことから、それにかこつけて習近平のメッセージを北朝鮮に送ったわけだ。
北朝鮮としては、ありがたいに決まっている。
これで、日本にはそれほど熱心にならなくても済むという状況が来て、拉致問題解決にマイナスの影響が出てくることが考えられる(もともと北朝鮮には、その気がなかったとしてもだ)。
さらにロシアのプーチン大統領が、12月19日、北朝鮮の金正恩にラブコールを送っていたことがわかった。
ウクライナ情勢でオバマ大統領に孤立に追いやられたロシアのプーチン大統領は、金正恩に、来年5月にモスクワで開催する「反ファシスト戦勝70周年記念」参加のための招待状を送ったのである。
風吹けば桶屋が儲かるではないが、オバマ大統領の国内における人気取り作戦により、地殻変動が起き始めている。
毛沢東はかつて北朝鮮のことを、「唇がないと前歯が冷えて好ましくない」という趣旨の言葉で位置づけたことがある。西側諸国から社会主義国家を守るために、「いやでも」同盟を結んでいなければしょうがないという意味だ。毛沢東は、旧ソ連のスターリンと当時の北朝鮮の金日成(キム・イルジョン)に嵌(は)められて朝鮮戦争に巻き込まれ、自分の息子を北朝鮮で戦死させてしまっているので、北朝鮮が好きでなかった。
中韓が国交正常化した1992年以降は、中国は半ば、北朝鮮に威嚇されて経済援助を続けていたようなものだ。
「そちらが敵国の韓国と国交正常化するのなら、こっちも中華民国(台湾政府)と国交を結んでやる!」と北朝鮮は激怒した。
それ以来、中国は一層のこと、北朝鮮への経済支援を増強してきた。それでいて、ミサイルの先を中国に向けているような北朝鮮を許せないと思っていたのだ。
それが米国の動きによって、社会主義国家が、元社会主義国家(ロシア)も含めて、横につながり始めたという連鎖反応を起こし始めている。
前歯は、やはり唇がないと心もとないということだろうか。
漁夫の利を得てほくそ笑んでいるのは、北朝鮮だ。