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公式戦153試合出場も評価されず MLB版「戦力外通告」の中身とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
公式戦153試合に出場しながら戦力外通告を受けたビリー・ハミルトン選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLBは現地30日、所属選手と来季の契約を結ぶかどうかを決断する最終日を迎えた。MLBでは契約を結ばないと判断された選手は「non-tender(非提示)」と表現され、すぐさまFA選手として全チームと契約交渉できるようになる。まさにNPBでいうところの「戦力外通告」に相当するものだ。

 ちなみに日本のメディアでは選手を40人枠から外す措置(いわゆる「DFA」)のことを戦力外と表現しているが、こちらは措置後も選手がチームに残留するケースがあるので、いわゆるNPBの戦力外とは性質が違うのは明らかだ。まさに「non-tender」こそ、正真正銘の戦力外だと考えてもらえればいい。

 最終日を迎え、各チームが戦力外にした選手を発表してたいる。そうした選手に関してMLB公式サイトがリストにしてまとめているのだが、同じ戦力外であってもNPBとはかなり内実は違っているのだ。

 NPBの場合戦力外になる選手といえば1軍で活躍できず出場機会を失った選手ばかりで、合同トライアウトを受験しても次の所属先がなかなか見つからないケースが多いだろう。しかしMLBでは、NPBのようにメジャーではあまり活躍できなかった選手がいる一方で、昨シーズンもメジャーでバリバリ活躍していた選手が多数含まれているのだ。

 例えばレッズから戦力外になったビリー・ハミルトン選手は昨シーズン、公式戦に153試合(うち138試合に先発)に出場していた主力選手だった。彼は2017年シーズンまで4年連続50盗塁以上を記録しているMLB屈指の最速ベースランナーとして知られている。確かに昨シーズンは34盗塁に落ち込んでいるものの、まだ28歳という年齢を考えれば、まだまだメジャーで通用する選手だ。

 また昨シーズンはエンゼルスで大谷翔平選手と同僚で、リリーフ投手として67試合に登板し、チーム最多の14セーブをマークしているブレイク・パーカー投手も戦力外になっている。過去2年間エンゼルスに在籍し、138試合に登板し、5勝4敗22セーブ、防御率2.90という申し分ない成績を残しているにもかかわらずだ。

 後でMLB公式サイトのリストを確認してもらえば分かると思うが、他チームに行けば今でも十分に即戦力として活躍できる選手たちが数多く戦力外になっているのだ。なぜこんな現象が起こってしまうかといえば、MLBにある年俸調停という制度だ。

 まず年俸調停について説明しておこう。これはFA資格を得る前の選手たちの年俸をある程度保証するために誕生した制度で、MLB在籍年数が3年を超えた選手は年俸調停の資格を得ることができ、チームからの提示に不満がある選手は年俸調整を申請し、仲裁者に年俸額を決定してもらうものだ。大抵は選手の主張が通りチームの提示額以上の年俸を獲得することができる。

 MLB在籍年数が6年を超えたFA資格選手は年俸調整の対象外となり、契約が終了するごとにFA選手になれる。その一方で年俸調整の資格を得る前の選手たちは、チームに保有権があるためチームが提示する金額で契約しなければならず、大幅な総額を期待できないのだ。

 つまり上記2選手もそうだが、成績を残しながらも戦力外になった選手たちはこのオフに年俸調停の権利を得ている選手がほとんどで、チーム側としては大幅な年俸アップを覚悟してまでもチームに残しておく必要はないと判断した選手だということだ。いい方を返れば、順調に年俸調停をクリアしながらFA資格を得て大型契約を勝ち取るという、選手たちが夢見る“スター街道”から外れてしまった選手たちなのだ。

 だがそうした選手にもまだチャンスはある。新しい所属先を探す際はFA選手として交渉するため年俸調停の権利を失っているが、来シーズンしっかり活躍できればFA資格を得るまで年俸調停の権利が残っており、再びスター街道に戻れることができる。だがその一方で、来シーズンも新しい所属先で周囲を納得させる活躍ができず、年俸調停を避けて戦力外になる可能性もあるのだ。

 これでNPBとMLBの違いが見えてきただろう。NPBにおける戦力外はまさに“引退”がかかった瀬戸際だが、MLBでは“一流”に残れるかどうかの境界線なのだ。MLBに合同トライアウトは存在しないが、今回戦力外になった多くの選手たちはとりあえず新しい所属先を見つけることができるだろう。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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