当たり前が当たり前ではない ~「授業研究」の海外展開~
日本では当たり前と思っていても
今週、サウジアラビア国王が来日しました。大規模な訪問団も話題になりましたが、訪問の主な目的は、サウジアラビアの経済改革に対する日本からの協力を得ることであったと報道されています。二国間協力の方針を示す「日・サウジ・ビジョン2030」が策定され、教育の促進に関する協力も合意されました。
中東産油諸国では「サウジアラビアを初めとして日本型教育への関心が強まっている」として、たとえば「学校での清掃指導や給食指導、理数科教育など、日本式の初等中等教育技術や手法への注目が、特に湾岸地域で高まっている」と数年前の文科省の資料に書かれています(平成23年国際協力推進会議第2回配付資料)。
学校での掃除や給食指導は日本にとっては日常的なことですが、海外から見れば、マナーや規律を重視する優れた実践だということでしょう。日本の魅力の再発見といってもよいと思います。
「日本型教育」の中身をはっきりさせよう
サウジアラビアのみならず多くの国々に対して、「官民協働のオールジャパンで、日本の教育を海外展開していく」という「日本型教育の海外展開推進事業」を文科省が進めています。先月、事業の一環として、「EDU-Portシンポジウム」が開催されました。
では、その日本型教育とはどのようなものなのでしょうか?
シンポジウムでは、日本の大学や教育委員会、民間企業などが主体となり、ネパールやベトナムなどにおいて、防災教育を実施した事例、体育の授業において運動プログラムを実施した事例、リコーダーを使った音楽教育の事例などさまざまな実践が紹介されていました。
教育の分野で日本が諸外国に貢献できることは素晴らしいことであり、引き続き海外展開を充実させてほしいと考えます。
一方で、シンポジウムの事例にも表れているように、事業の内容が多彩であり、なにが日本型教育なのかが見えにくい印象でした。
日本の教育の魅力を発信していくためには、日本型教育とはなにかというコンセプトをはっきりさせたほうがよいのではないでしょうか。セールスポイントを明確にすることで、相手に訴える力が強化されるからです。
文科省の事業がまだ始まったばかりということもあるかもしれませんので、事業の次のステップとして、日本型教育の中身をはっきりさせることが望ましいと考えます。コンセプトをひとつに絞るのが難しいのであれば、日本型教育の具体的な柱をいくつか立てることも考えられるでしょう。
世界が注目する日本の授業研究
日本型教育の柱になり得るものとして、日本の授業研究という実践があります。
授業研究とは、教材の検討を教員が行ったうえで、お互いの授業を学校内の教員どうしで観察し、観察結果に基づいて指導内容・方法を話し合うという教員研修の方法です。子どもの学びを深める授業を目指すとともに、教員どうしが協働して研修を行うという点に日本の授業研究の特徴があります。
授業研究は日本の学校では当たり前に行われていますが、OECDの報告書(渡辺良監訳『PISAから見る、できる国・頑張る国2』)では授業研究について「この慣行が日本の学校で指導の質の向上に貢献しているのは疑いない」とされ、また、文科省の会議の報告書でも「初等中等教育では理数科教育や授業研究が、これまで日本が実施してきた得意分野として諸外国から評価されている」(平成24年国際協力推進会議中間報告書)と述べられています。
世界授業研究学会という学会では、「世界の研究者や教員から、『授業研究』の本場である日本に対して強い関心と敬意が払われて」(東京大学HP)いるともいわれます。
「EDU-Port シンポジウム」でも、エチオピアなどの国々において授業研究を推進するため、教員が互いに学び合うコミュニティを構築するという研修をアフリカで実施している福井大学の事例の発表が行われていました。
授業研究の海外展開は、相手国の子どもだけでなく、それによって日本の子どもにとっても実はプラスになるという効果も期待できます。日本の教員たちが改めて自分たちの実践をふりかえるきっかけになるとともに、海外展開の事例を通じて新たなヒントを得られるかもしれないからです。
海外展開することで国内でもさらによい授業が増えるのであれば、まさに一石二鳥といえるでしょう。
授業研究を広めるためには、海外向けの教員研修プログラムを日本で作成するとともに、研修の指導者を日本から派遣することなどが必要です。
今後、国において、授業研究を日本型教育の柱として明確に位置付けて必要な体制を整え、さらに積極的に海外展開を進めてもらいたいと考えます。