いじめ調査は子どもの立場で考えなおそう
いじめ調査の課題
文科省が、いじめ調査の結果を公表しました。いじめの認知件数(平成28年度)は、全国で32万3808件、昨年度に比べて1.4倍であり、ここ数年、いじめの認知件数は増加傾向となっています。
いじめ調査で問題となるのは、自治体間で大きな差があることです。
今回の調査結果でも、子ども1,000人あたりの認知件数を見ると、もっとも多いのが京都府の96.8件、一方、もっとも少ないのが香川県の5.0件となっており、20倍近くもの差があることがわかります。
とはいえ、このデータどおりに、京都府の学校ではいじめが頻発し、香川県の学校ではいじめがほとんどないというのは、実際にはちょっと考えにくいでしょう。
教員の判断でよいのか
文科省もこれまで、いじめ調査が「実態を反映したものとは言い難い」とし、いじめを正確に認知するようくり返し各自治体に対して指導を行っています。
にもかかわらず、都道府県ごとの差は埋まりません。
それは、いじめ調査において、いじめがあったかどうかを学校の教員が判断しているからです。
国は、いじめの定義を「(略)心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童生徒が心身の苦痛を感じているもの」と定めています。
たとえば、ある子どもが休み時間に友達の悪口を1回言ったとします。これがいじめの定義にあてはまるかどうかを教員が判断しています。文科省は、1回きりの事案でもいじめであり、ほんの些細なことでもいじめだとしています。悪口1回でもいじめの定義にあてはまりそうです。
けれども、その悪口をどう受け止めるか、「苦痛」と感じるかどうかは子ども本人次第です。子どもがどう感じたかを、本人以外の教員が判断するところに無理があります。
どんなに定義を細かくしたとしても、教員によって判断が分かれるのは仕方ないでしょう。もともとの調査の在り方に問題があると言わざるを得ません。
このため、たとえば認知件数が前年度から増えたといっても、それがいじめの実態が増加したからなのか、認知の方法が変わったからなのか不明であり、年度によって件数を比較することも困難となっています。
子どもにたずねるべき
では、いじめ調査を、どう変えればよいのでしょうか。
現在の調査では、子どもに対するアンケートなどを参考に、教員が認知した件数を調査結果としています。
これを逆にして、教員が認知した件数は参考データとして示しつつ、子どもに対するアンケート結果を調査結果とすべきです。
いじめ問題に関する政策の目的は、子どもが安心して学べる学校にすることだと考えます。とすれば、調査の方法としては、教員ではなく子どもにたずねるべきです。
ストレートに、安心できる学校になっているかどうかを子どもにたずね、その結果をそのまま公表することがもっとも適した調査方法と考えます。
加えて、子どもどうしのトラブルの有無についてもやはり子どもにたずねます。その際、いじめの有無を聞くというよりは、「たたく・ける」「わざとぶつかる」「物を投げる」「からかう」「悪口をいう」「いやな呼び方をする」「物を隠す」「返事をしない」といった具体的事実をあげ、学校でこうした行為を見たことがあるかを質問します。
教員が認知したいじめの件数は、参考データとして掲げればよいと考えます。国が定めるいじめの定義にあてはまるかどうかは子どもにとっては問題ではないからです。参考データとしての教員による認知件数と子どもに質問した結果との間に大きな隔たりがあれば、認知の方法を見直す必要があることが分かるでしょう。
現在行われているいじめ調査は、実態を正確に表しているかどうかが曖昧なので、年度ごとの比較ができません。「安心できる学校になっているか」という質問への回答であれば、継続的にデータを比較することも可能です。
子どもを取り巻く学校環境を改善することで調査結果の数値が改善するような調査であれば、誰にとっても分かりやすい調査といえるのではないでしょうか。