煽り運転で注目される「高級車は運転が荒い」は本当か!?
非はドライバーでも風評被害に
最近、再び「煽り運転」が大きな話題になっています。発端はご存じのとおり8月中旬に常磐道で高級外車に乗った43歳の男が、執拗に煽り運転を繰り返した挙句、相手のクルマを無理やり止めてドライバーに対して顔を殴るなどの暴力を振るった事件です。
その後、この男が乗っていたのがBMWだったことが報道で知れ渡り、「煽り=BMW」という悪印象が広まってしまうという2次被害にも発展したのでした。
もちろん悪いのはドライバーであって、断じてBMWのせいではありません。ただ、印象というのは恐ろしいもので、繰り返し報道される中で人々の心の奥にネガなイメージが刷り込まれていきます。しかも、犯人が乗っていたのは試乗車だったというではありませんか。メーカーにとってはいい迷惑ですよね。
「煽り」は男性ホルモンのせい!?
ただ、一方では「高級車のドライバーは運転が荒くなりがち」という仮説もあるようです。これは少し前のカナダの研究結果によるもので、乗っている車種によって男性ホルモンの一種であるテストステロンの数値が変わるというもの。最近の「煽り運転」報道で再び注目を集めています。
具体的には学生に同じ条件下でトヨタの「ファミリーカー」とポルシェの「オープンカー」を運転させた場合、ポルシェのほうにテストステロン値の上昇がみられたという話です。
テストステロンには「活力」や「ヤル気」などのバイタリティを高める作用があると言われますが、一方では「攻撃性」や「短期」な性格などにもつながるのだとか。また、テストステロンの量が多いほど暴力的な犯罪に走る傾向がある、という米国の研究結果もあるようです。
高級車はトリガーにすぎない
つまり、高級車やスポーツカーに乗っているという優越感やステータス性が引き金となり、男らしさのバロメータであるテストステロン値を上昇させ、ひいては「煽り運転」という暴力性を発露させていくという心理的メカニズムです。
もちろん、高級車に乗る人がすべてそうなるわけではありません。「ハンドルを握ると人が変わる」という表現がよく使われますが、本当のところは「元々の性向が表れる」と言われています。つまり、最初から「煽り気質」を持っている人ということです。
「路上の激怒」はなぜ起こるのか
以前にもコラムで書きましたが、「煽り運転」は欧米でも「ロード・レイジ」(路上の激怒)として半世紀も前から問題になっています。
交通心理学では道路での意思疎通を「カーコミュニケーション」と呼んでいますが、運転中は相手が見えにくく意思を伝えることが難しいこともあり、些細なことでロード・レイジへとエスカレートしていくことも多いようです。
また、鉄の箱に守られたクルマ同士という物理的な距離に加え、互いに知らない者同士という匿名性が心理的な距離をさらに広げ、普段はやらないような無責任で非社会的な行動を助長するようです。
最近ではドライブレコーダーや監視カメラの普及により面が割れて逮捕となるわけですが、それでも抑えきれない怒りとは凄まじいものです。
威嚇する大型スポーツバイク
翻ってバイクの場合はどうでしょうか。
最近はクルマの後ろにピタッとくっ付いてスロットルを空ぶかしする「煽りライダー」を目にすることも減りましたが、それでも週末に行楽地へ向かう高速道路などではマナーの悪いライダーを見かけることも少なくありません。
左車線から強引に抜いていったり、峠道でやたら車間を詰めてきたり……。あくまで経験上ですが、こうした威嚇行為をしてくるライダーは、残念なことに「大型スポーツバイク」に乗っているケースが多いように思えます。つまり、「いい大人が……」ということです。
逆に原付バイクで煽りまくるという話はあまり聞いたことがありません。本人はそんなつもりはないのかも知れませんが、相手には排気音やライダーの姿形だけで恐いと感じることもあるのです。
人の心に鎧を着せるもの
バイクもクルマと同じで、やはり高性能・高級モデルほどライダーの気も大きくなるのでしょうか。バイクはクルマ以上に刺激が多い乗り物ですし、その分、変身願望や自己陶酔感も強いかもしれません。
バイク好きの中には「こち亀」に出てくる名物キャラで白バイに乗ると性格が豹変してしまう本田速人みたいな人もいそうですが、漫画では笑えても現実的には困りものですよね(笑)。
ともかく、クルマやバイクは人の心に鎧を着せて「自分は強く全能な存在」と錯覚させやすい乗り物ということです。そして、それは高性能で高級になるほど陥りやすいワナでもあります。その行きつく先が悲しい事故や事件にならないよう、自制心を持って大人の運転を心掛けるようにしたいものです。