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【水戸ホーリーホック×アルビレックス新潟】レビュー  試合の勝敗を分けた要因とは

柴村直弥プロサッカー選手
新潟の攻撃のキープレイヤーである本間至恩(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 今シーズン、新しい指揮官を迎えてチームのスタイルを積み上げている両チームの対戦。

 7月25日に行われた前回対戦では1-0でアルビレックス新潟が勝利しているが、水戸ホーリーホック秋葉忠弘監督、アルビレックス新潟アルベルト監督の両指揮官のスタイルは、試合や練習を重ねていく中で、よりチームに浸透してきており、秋葉監督も試合前に「前回対戦したときとはイメージが異なる」と話していたように、戦い方も状況も前回対戦とは異なる。

 お互いに主導権を握る時間帯がありながらも、アルビレックス新潟に軍配が上がった要因を紐解いていく。

試合ハイライト動画

 水戸ホーリーホックは、現在首位を走りクラブ最多連勝記録を更新中のアビスパ福岡で指揮をとる長谷部茂利監督が昨年までに築き上げた、前線からのプレッシングやボールを奪ってから早い攻撃、のベースに加えて、今年から就任した秋葉監督が最終ラインからのビルドアップの形など、主に攻撃面での積み上げに取り組んでいる。昨年活躍した選手が巣立って行くなど選手の入れ替わりも多く、チームのスタイルを浸透させていくのは難しい状況の中でも今シーズンこの試合の前までに積み上げたゴール数は45。リーグ1位である。

 対するアルビレックス新潟は、今シーズンから、長年FCバルセロナの育成を担ってきたアルベルト・プッチ・オルトネダ監督を招聘し、クラブの新たなスタイルの構築に挑戦している。前節こそ連勝中のアビスパ福岡に敗戦したものの、その前まではFC琉球、FC町田ゼルビア、京都サンガFCに勝利して3連勝を飾るなど、クラブとして取り組んでいることが結果に現れてきている。

前線から積極的なプレスをかける水戸とそれをかわしていく新潟

 前節の松本山雅FC戦で後半開始から途中出場し、流れを変えて2得点も記録した中山、開幕戦以来の先発出場となった深堀の2トップが、最前線から積極的にプレスをかける。これに対して新潟は、ボールを失うシーンもありながらも、チームとして洗練されたビルドアップで上手くプレスを回避してボールを前に進めていく。

 試合の入りこそ五分五分のような展開だったものの、徐々に新潟が主導権を握っていく。

 

高い位置で内側の立ち位置を取るサイドバック

 新潟のビルドアップの形は特徴的だ。今季途中までは、ビルドアップの際に基本的にはサイドバックがタッチライン際で高い位置をとり、サイドハーフ(4-2-3-1の3の両サイドのポジション)が内側に入ってくる形をとっていたが、試合の内容や相手の様子なども踏まえて、現在のサイドバックが内側に入り、サイドハーフがタッチライン際の立ち位置で幅を取るやり方を採用している。これにより、ドリブルで仕掛けられる武器のある本間や中島、大本などがより持ち味を発揮することが出来るようになった。

 選手の特徴や重ねてきた試合の内容、相手の出方なども踏まえて立ち位置を進化させたといえる。

 そして、高い位置をとるサイドバックが同サイドからのクロスに対してゴール前でシュートするようなこともある。この試合でも右サイドバックの田上が大本の右サイドからのクロスに右足で合わせてゴールに迫るシーンや、左サイドバックの早川が同じく左サイドからのクロスにペナルティエリア内で合わせるシーンも見られた。

 サイドバックの選手が逆サイドからクロスのファーサイドに入ってくることはあるが、同サイドのクロスに入ってくるというのも特徴的と言えるだろう。

得点の気配

 前半40分。CKから高木が蹴ったボールにマウロがファーサイドで競り勝ち、新潟に先制点が生まれる。このシーンだけを観ると一見セットプレーのチャンスを生かした、と見えるだろうが、この得点が生まれる要因はそれまでにいくつもあった。

 

 象徴的なシーンは、36:40からのシーン。新潟が右サイドのスローインからボールを保持し、相手陣に押し込んでいる状態で、最終ラインでパス交換をする。このパス交換でプレスをかけにいきたい水戸の最前線の2人の選手を引きつけたところで、ハーフライン付近中央に位置取っていた福田へパス、それに対して水戸のボランチの一人である鈴木が食いついたところを、福田はダイレクトで舞行龍ジェームズに落とす。鈴木が食いついたことで空いた、相手DFラインと中盤のラインの間のスペースに島田が絶妙なポジションを取り、そこへ舞行龍ジェームズから縦パスが入った。そこで島田が前を向いてドリブルでボールを前に運び、水戸のDFは中央に寄らなければならなくなり、左サイドに位置取る本間へ着いていて水戸の右サイドバックの前嶋も中央に絞る。そしてフリーになった本間へ島田からパスが出て、本間が良い状態でドリブルを仕掛けられる状況を作った。そして、その仕掛けから最後は島田がシュートを放つ決定的なシーンを作った。

 このシーンでは、ボールには触れていないが、高木と鄭大世の立ち位置も島田がボールを受けた位置のスペースを作ることに関わっていた。高木が左サイドに少し流れることで安藤を引きつけ、鄭大世が細川の前に入ることで島田へ細川がアプローチに行けなくなっている。

 

 選手たちが相手の立ち位置やプレスのベクトルを見ながら、立ち位置を変えていくことで意図的に生み出したスペースを活用し、決定機を作った、という場面だった。

 このように、新潟はボールを動かしながら意図的にスペースを作り、空いたスペースを活用してゴール前まで迫っていた。試合序盤こそ水戸のプレスに苦しむも、徐々にボールを保持する位置を全体的に押し上げることが出来、とりわけ飲水タイムが明けて少し経ったところ、30分あたりから相手陣内でボールを保持出来る時間が増えていった。

 その成果もあり、CKを何度も獲得していった。

 そして、そのCKも、ゴールシーンだけを見ればマウロがファーサイドで競り勝った、というだけにしか映らないが、この試合、CKからマウロがファーサイドで競り勝ったのは3回目であった。1,2回目は直接ゴールを狙うには難しい位置だったため、マウロは中に折り返したが、この3本目は、キッカーの高木が、同じファーサイドだが、よりゴールに近い絶妙な位置にボールを配給した。そして、またもマウロが競り勝ち、新潟の先制点が生まれた。

 試合後のインタビューでマウロも言っていたように、CKからファーサイドを狙う、というのはチームとして意図して行っていた。ゴールシーンもマウロは決してフリーではないが、競り勝ってゴールする力を見せている。ファーサイドでマウロが競り勝てる、という信頼のもとに成り立った戦法だろう。先制点は生まれるべくして生まれた。

少なからずチャンスを作っていた水戸

 前半、水戸は主導権を握られる時間帯が長くなっていた中でも、チャンスは作っていた。

 18:43からのシーン。新潟がボールを保持したところで、左サイドバックの早川がスルスルと、左サイドハーフの本間より内側の位置から上がっていく。そして、本間が左サイドのタッチライン際でボールを受けて少し仕掛けてボールを島田に戻し、島田から中央へ。

 そこで水戸の安藤が鋭い出足でボールを奪うと、一気にカウンターを仕掛ける。右サイドから森、そして後ろから前嶋も猛然と上がっていき、森を追い越して受けたボールをダイレクトで相手GKとDFラインの間へ絶妙なボールを送った。ゴール前ギリギリのところで新潟の田上、小島によって防がれたがチャンスを作った。

 このシーンに現れているように、新潟のサイドバックが内側からサイドハーフよりも高い位置を取っている状態から、水戸はボールを中盤の辺りで奪えば、当然相手のサイドのスペースは空いているため、チャンスになりやすい。このシーンでも左サイドの本間と早川は高い位置を取っていたため、水戸の選手たちよりも早く戻るのは難しい。最終的に戻ってきて森に対応したのはトップ下の高木だが、上がってきた前嶋も含めて2対1の局面を作られて突破されている。

 27:53からのシーンも同様に、森が出足良くインターセプトし、そのまま空いている右サイドを縦に進んでいる。ここは本間が戻ってきたが、ボールを中盤の辺りで奪い、ビルドアップの構造上空いているスペースをついていくことは、水戸も出来ていた。

勝負を分けた要因

 主導権を相手に握られる時間が長くなった前半でも、水戸はチャンスを作っている。ハーフタイムを挟んでよりパワーを持って挑んだ後半では前半とは逆に長い時間主導権を握り、さらにチャンスも作った。しかし、新潟の粘り強い守備にも阻まれ、なかなか同点に追いつけないでいると、75分に追加点を奪われ、その後に河野のクロスから最後は奥田が決めて1点を返すも、終盤にPKから失点し、水戸は敗戦となってしまった。

 対して新潟は、ビルドアップから少しずつ主導権を握り始め、主導権を握ってチャンスを作っている時間帯に、狙い通りの先制点を奪う。後半は主導権を水戸に握られるも、粘り強い守備で同点に追いつかれずに、逆に75分には交代で入っていた中島が相手のパスを読み切ってインターセプトし、決して簡単ではないシュートを決め、良い時間帯に追加点を奪った。その後水戸に1点を返されるも、今度は島田の守備からPKを獲得し、それを決めて3-1で勝利した。

 主導権を握る時間がお互いにありながらも、要所要所の勝負所を制した新潟が試合巧者となった。

 勝利した新潟は、昇格圏内の2位徳島との勝ち点差が9に迫っており、順位も5位に浮上。シーズンを通して進化している新潟のサッカーから今後も目が離せない。

 敗れた水戸も、前節の中山、外山、松崎に引き続き、交代で途中から出場した選手たちがチームに活力をもたらしたことはポジティブなことだろう。河野のクロスから奥田が決めて1点を返したことは、中2日でやってくる次戦に繋がる。良い時と良くない時の差は大きいが、試合を重ねて経験を積んでいくことで成長していく部分もあるだろう。昇格圏内までは勝ち点17の差があるが、まだ15試合残っている。試合の勝負所を抑え、安定して力を発揮出来るようになればまだまだ可能性はあるだろう。中山、ピットブル、山口など目を見張る攻撃陣に加えて、住吉ジェラニレーションやンドカ・ボニフェスの対人の強さや、木村のゲームコントロールなど、見所は多い。この試合の前にも、選手たちとディスカッションし、選手たちの意見を取り入れて練習内容を変更している、コミュニケーション能力に長けた秋葉監督。チーム一丸となって前へ進んでいく姿は必見だ。

この試合のポイントをピックアップして戦術ボードを使用しながら動画で解説

プロサッカー選手

1982年広島市生まれ。中央大学卒業。アルビレックス新潟シンガポールを経てアビスパ福岡でプレーした後、徳島ヴォルティスでは主将を務め、2011年ラトビアのFKヴェンツピルスへ移籍。同年のUEFAELでは2回戦、3回戦の全4試合にフル出場した。日本人初となるラトビアリーグ及びラトビアカップ優勝を成し遂げ、2冠を達成。翌年のUEFACL出場権を獲得した。リーグ最多優勝並びにアジアで唯一ACL全大会に出場していたウズベキスタンの名門パフタコールへ移籍し、ACLにも出場。FKブハラでも主力として2シーズンに渡り公式戦全試合に出場。ポーランドのストミールを経て当時J1のヴァンフォーレ甲府へ移籍した

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