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中国はバイデン大統領の「女王陛下万歳!」をどう報じているか?

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
6月16日、銃規制法案集会で演説するバイデン大統領(写真:ロイター/アフロ)

◆バイデン大統領の「女王陛下万歳!」

 6月16日、バイデン大統領はコネティカット州で開催された銃規制法案をめぐる会合で演説し、演説の最後に「女王陛下万歳!(God Save the Queen, man!)」と叫んだ。  

 このGod Save the Queen!という言葉はイギリス国歌のタイトルで、日本では「女王陛下万歳!」と訳されているが、「神よ、女王陛下を守り給え!」=「女王陛下に幸あれ!」という意味だ。イギリス国歌のタイトルと「女王陛下」と言ったからには、当然、昨年9月に亡くなられたイギリスのエリザベス女王(Queen Elizabeth 2世)のことを指していると思われるが、後継者がチャールズ3世(男性)になったことから、その後イギリスの国歌はGod Save the King!になり「国王陛下万歳!」に変わっている。

 したがって、その意味でも「どうしてしまったのか?」と世論は騒然とし、そもそも、なぜ銃規制法案の集会で「女王陛下万歳!」と、演説の最後に叫ぶ必要があったのか、誰でもがバイデンの「認知能力」に疑いを持つのは当然のことだろう。

 日本では、その場面は(筆者の知る限りでは)静止写真でしか報道されていないように思われるが、実はホワイトハウスがこの集会のフルコースを動画で公開しているので、それをご紹介したい。

 タイトルはPresident Biden Delivers Remarks at the National Safer Communities Summit(バイデン大統領、全国安全コミュニティサミットで演説)で、司会者が数分間前置きを喋るので、30分間のバイデンの演説は34分過ぎに終わり、問題発言はこの動画が始まってから34分50秒頃に現れる。興味のある方はその近くに時間送りをしてご覧になると、バイデンが何を言い、その直後、どんな行動を取ったかを、直接ご自分の目で確認することができる。

◆中国ではどのように報道されたか?

 これを中国が喜ばないはずがない。

 そこで、どのような報道があったのかを調べてみたところ、出るわ、出るわ…。お祭りのような大騒動だ。

 まず、中国共産党機関紙「人民日報」傘下の「環球時報」電子版「環球網」の記事をご紹介しよう。

 環球網6月17日は<又もや謎の発言?バイデンは「女王を守り給え」で演説を終えた:ネットでは「神よ、われわれを守り給え」>という見出しで、この日のバイデンの奇異なる発言を報じた。興味深いのは、アメリカやフランスのメディアの「呆れよう」に関して紹介したあと、ホワイトハウスの動画から転載したのか、それとも独自収録なのか、肝心の発言部分と、発言したあとのバイデンの奇妙な行動に焦点を当てていることだ。

 上記のホワイトハウスの公式ウェブサイトの最後の34分49秒から始まった画面は35分01秒で終わっており、特徴的な動作としては「女王陛下万歳!」と叫んだ後に、壇上を降りようとして、方向性を見失ったかのように、「こっち?」というようなしぐさで「退場する方向」を指さしている。そのあとに、驚愕したような表情で、この両指先を自分の方向に向け「えっ?違う?こっち?」というようなしぐさをした瞬間で、動画が切ってある。

 ところが、環球網の動画では、その2秒あとまで映し出していて、空中に差し出した両手の指先を自分の方に向けた瞬間、実はSPが険しい表情で飛び出してきているのだ。環球網は独自に撮影したのか、この「SPが飛び出してきた」という画面にむしろ焦点を当てて議論を展開している。

 環球網の動画を確認するには、ちょっとしたコツがあって、図表1に示した下端の赤い矢印をクリックして頂かないと全文が見えず、動画が始まらない。

 動画で確認したい方は、環球網のリンク先の、紅い色の「レ点のような下向き矢印」をクリックしていただきたい。すると動画が始まる。

図表1:動画を観るためにクリックする赤い「レ点下向き矢印」

出典:環球網
出典:環球網

  動画が始まると、ホワイトハウスの動画と同じく、「女王陛下万歳!」と言った後に行き先を見失う動作があり、次に「えっ、違うの?こっち?」と、自分の方向を指し示す動作がある。環球網の動画におけるその動作を図表2で示す。

図表2:「えっ?こっち?」と行き先が分からなくなり驚くバイデン

出典:環球網
出典:環球網

 するとSPが険しい顔をして飛び出してくる(図表3)。

図表3:SPが飛び出してきた場面

出典:環球網
出典:環球網

 すなわち、SPはバイデンの行動を「危険だ」と咄嗟に判断したものと考えることができる。

 そう、危険なのだ。

 認知症がここまで進んでいて、それでもなお来年の大統領選に立候補しようというのだから、その勇気は買うものの、アメリカにも世界にも危険をもたらすことだろう。

 中国ではほかにも、たとえば観察者網が<バイデンは銃規制演説を「女王を守り給え」で終え、アメリカ人を唖然とさせた...>というタイトルで報道していたり、網易(163)が<演説後、バイデンは突然「女王陛下を守り給え」と叫び、出席した記者たちを唖然とさせた>と報道したりしており、バイデンのこれまでの「平らな所での転倒」や「相手がいない、空中での握手」など、さまざまな認知症患者特有の行動を取り上げている。

 また多くのネットユーザーは「ああ、神よ、われわれを守り給え」とか「女王が早くこちらに来いと招いてるんじゃないの?」とか「アメリカって、こんなに人材がいないものか」あるいは「共和党のトランプには追い風になっていいんじゃない?」といった類のコメントを書き込んでいる。

◆中国にとってはバイデン政権よりトランプ政権の方がいいわけ

 中国はバイデン政権を非常に嫌っている。アメリカは中国の成長を潰そうとしているので、中国はアメリカを好ましくは思ってないものの、せめてトランプ政権の方がまだましだと思っている。

 なぜならトランプ元大統領はネオコン(Neoconservatism=ネオ・コンサバティズム=新保守主義)ではないので、ネオコンが主導しているNED(全米民主主義基金)のように他国の政府を転覆すべく「民主を輸出する」ようなことはしないからだ。NEDは「他国の民主を支援するため」なら「武力介入」も辞さない。そのため戦争ビジネスとも結びついており、トランプのような「NATOなど要らない!」とさえ言ってしまう「アメリカ・ファースト」と全く違う。

 だからこそウクライナ戦争をも誘い込んだわけで、トランプ自身も何度も「私が大統領だったら、ウクライナ戦争は絶対に起きなかった!」と豪語しているが、それはその通りだと思う。

 本日18日、アメリカのブリンケン国務長官が訪中し、秦剛外相と会ったようだが、言葉で何を言おうと、実際の行動は「中国を潰したい」という方向でしか動いていないので、あまり意味はないと思う。なぜ意味がないかは、7月3日に出版される『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』をお目通し頂ければ、明らかになるだろうと信じる。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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