「妊娠中絶ビジネス」に手を染める医大生…北朝鮮医療の闇
北朝鮮は「無償医療制度」を誇ってきたが、その内実はお粗末極まりない。医師も患者も劣悪な環境に置かれている実態については、本稿でもなんどか報告している。
北朝鮮の病院では診断はしても、処方箋を出すだけで、治療薬は自ら入手しなければならない。実際、筆者は中朝国境地帯で取材中、北朝鮮出身のコチェビ(ストリートチルドレン)の口から「中国で物乞いをしてお金を貯める。そのお金で薬を買って北朝鮮にいるお母さんを助けるんだ」という涙無しでは語れない話を聞いたことがある。
付け加えると、このコチェビがこっそりと北朝鮮に帰るとなった時、心優しい中国の朝鮮族は、抗生物質や市販の風邪薬などを「使ってもいいし、余ったら市場で売りな」と言いながら餞別として渡していた。
北朝鮮の医療環境の劣化を端的に表すエピソードとして、ある脱北者は、麻酔薬なしの切開手術を行った「恐怖体験」について証言している。
もちろん、現場の医師たちは献身的に診療に携わっているが、ベテランで優秀な医者たちは頼りにならない公共病院に見切りを付け、自宅で民間診療所を開き、経済的に余裕のある特権階級幹部やドンジュ(金主)を顧客に医療活動を続けている。
こうした医療環境の劣化を背景に、最近では「ヤミ医者」が横行。意外と知られていない事実だが、北朝鮮で二重まぶたなどの整形手術を受ける女性は少なくない。これらの手術は現役医師による「ヤミの整形手術」が大半だという。
また、産婦人科医が個人宅に出向いて行われる「ヤミの中絶手術」まで登場しているが、おどろくべきことに、これに医大生たちが手を染めるようになった。デイリーNKの内部情報筋によると「医大生たちが、夏休みや冬休みに入ると、大学の課題そっちのけで中絶手術のバイトに勤しんでいる」という。
「ヤミの中絶手術」が横行するのは、慢性的な経済難で子育てが難しいためだ。北朝鮮では女性たちの「出産拒否」が深刻化し、金正恩氏も頭を悩ませているとされる。
やむをえず妊娠してしまったら中絶を選択せざるをえない。しかし、人口を増やしたい北朝鮮当局は、中絶手術を取り締まる。そうしたなか、「ヤミの中絶手術」が行われるようになり、さらに医大生たちがバイト感覚で手を染めるようになったというわけだ。
医療制度に限った話しではないが、「北朝鮮式社会主義」の弊害は、社会の至る所に及んでいる。