50年あまりにわたる乗用車価格の変遷をさぐる(2020年公開版)
該当種類の価格は50年強で5倍近くに上昇
乗用車が身近なものではなくなりつつある、忌避されるようになっているとの話がある。その理由の一つに挙げられるのが価格の上昇。その実情を総務省統計局の小売物価統計調査(※)の結果から確認する。
乗用車の価格は全国統一の値で収録されているが、長期の経年データが取得できるのは「小型乗用車・国産・排気量1500cc超~2000cc以下」の統一車種のみだった。そこでこの車種について、1970年から2016年分までの値を年次計測値より取得している。
ところがこの車種に関して小売物価統計調査では2016年12月時点で調査を終了してしまった。そこで2017年分以降については2016年12月時点で乗用車・国産車の区分で該当する車種の価格を比較。
・乗用車(7101)…130万4130円(軽乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される軽自動車)
・乗用車(7102)…200万9666円(小型乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される小型自動車のうち排気量1.50L以下のもの)
・乗用車(7103)(計測終了)…319万3956円(小型乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される小型自動車のうち排気量1.50L超のもの)
・乗用車(7112)…328万9669円(普通乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される普通自動車)
結果として一番価格の近い「乗用車(7112)(普通乗用車、国産品、道路運送車両法で規定される普通自動車)」を2017年以降の抽出対象とすることとした。なお収録されている価格は車種指定がされているが、具体的な車種名、さらにはその車種が単数か複数か、差し替えが行われているか否かも含め非公開となっている。
その値を用いて作成したのが次のグラフ。最古の1970年では65万4000円、最新の2020年では314万3103円。約4.8倍に価格は上昇している。
前世紀末までは乗用車の価格はおおよそ右肩上がりで上昇する。そして2002年に一度大きく下げているが(この年のみ対象車種を変更しており、これが急落の主要因と思われる)、それ以外はほぼ横ばいから漸増の流れに変化している。
そして2014年から2015年にかけての急激な上昇。この急上昇については車種変更などによるものではなく、消費税率の引き上げも関係がない(税率引き上げによる価格上昇もわずかに生じている)。1年半近くで約90万円の純粋な値上げ。長期グラフでも妙な上昇ぶりを示すのも仕方がない。上記で解説の通り具体的な内容は非公開の車種指定による結果であることから、値を算出する対象の(複数)車種でこのタイミングで価格の引き上げが行われたものと考えられる。
今件価格はあくまでも本体の実売価格(消費税込み)であり、購入して利用を始めるまでに必要となる各種保険料や駐車場代は含まれていない。とはいえ、高度成長期と比べれば乗用車の価格が数倍に上昇していることに違いはない。大体半世紀で5倍、と覚えるのが妥当だろう。
消費者物価指数を考慮すると
時代の流れとともに、物価も変化している。50年前の100万円と今の100万円では、その価値には大きな違いがある。そこで消費者物価指数と連動させた上で価格の調整を行い、より正しい価格の実情を推し量ることにする。
具体的には各年の価格に、それぞれの年の消費者物価指数を反映させた値を試算する。直近2020年の値を基準値として、各年の価格を再計算した結果が次のグラフ。つまり各年における物価が2020年と同じ水準だとしたら、実際にはどの程度の価格になるのか、その推移を示している。
消費者物価指数を考慮すると、乗用車の価格はさほど上昇していなかった。それどころか1990年代後半にかけては、一時的に値を落とした時期すらある。1980年代後半にいたるまで実質価格は下落。それ以降はゆるやかな上昇をしているが、上げ幅は限定的…ではあったのだが、2014年から2015年にかけて上記の通り、今まで居眠りをしていたのが飛び起きたかのように急激な値上げを示す形となった。これにより1970年から2020年における、物価を考慮した上昇幅はおよそプラス50.2%と算出される形となった。
今件の値はあくまでも実売価格そのもの、そして消費者物価指数を考慮した上での価格変動。消費者一人一人の購買力や、自動車の便益の変化、さらにはガソリン代や駐車場代、車検代などの運用費までは反映していない。とはいえ、実質価格にはさほど大きな変化が無かった。しかしこの数年で大きく跳ね上がった。だがそれでもなお半世紀ほどの間には、物価上昇を考慮しても5割強の値上げに留まっている。
「若者の自動車離れ」の一因とされている「乗用車の値段が高い」は、本体価格そのものの高さはもちろんだが、購入予備層の購買力の低下に伴う相対的な「手の届きにくさ」の増加、そして利用価値の低下によるところの方が大きいと見た方が、道理は通りそうだ。
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※小売物価統計調査
国民の消費生活上重要な財の小売価格、サービス料金および家賃を全国的規模で小売店舗、サービス事業所、関係機関および世帯から毎月調査し、消費者物価指数(CPI)やその他物価に関する基礎資料を得ることを目的として実施されている調査。
一般の財の小売価格またはサービスの料金を調査する「価格調査」、家賃を調査する「家賃調査」および宿泊施設の宿泊料金を調査する「宿泊料調査」に大別。価格調査および家賃調査については、全国の167市町村を調査市町村とし、調査市町村ごとに、財の価格およびサービス料金を調査する価格調査地区(約27000の店舗・事業所)と、民営借家の家賃を調査する家賃調査地区(約28000の民営借家世帯)を設けている。また、宿泊料調査については、全国の99市町村から320の調査旅館・ホテルを選定している。
価格調査および家賃調査の調査市町村は、都道府県庁所在市、川崎市、相模原市、浜松市、堺市および北九州市をそれぞれ調査市とするほか、それ以外の全国の市町村を人口規模、地理的位置、産業的特色などによって115層に分け、各層から一つずつ総務省統計局が抽出し167の調査市町村を設定している。宿泊料調査では、都道府県庁所在市又は全国の観光地の中から宿泊者数の多い地域を選定し、99の調査市町村を設定している。調査市町村ごとに宿泊者数の多い旅館・ホテルなどを調査宿泊施設として選定している。
価格調査については、調査員が毎月担当する調査地区内の調査店舗などに出かけ、代表者から商品の小売価格、サービス料金などを聞き取り、その結果を調査員端末に入力する。家賃調査については、原則として調査世帯を訪問し、世帯主から家賃、延べ面積などを聞き取り、同様に調査員端末に入力する。
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