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戦略なき内閣改造ながら尖閣だけは対中譲歩 国土交通大臣に公明党

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
本日、内閣改造(写真:つのだよしお/アフロ)

 9月13日に岸田首相による内閣改造が実施された。党内各派閥への配慮と自身の次期総裁再選しか考えてない国家戦略なき改造だが、それでもなお、尖閣諸島を巡る対中譲歩だけは堅持して、最も親中で知られる公明党から国土交通大臣を選んでいる。

◆尖閣諸島を管轄する国土交通大臣は公明党から選ぶ岸田首相

 支持率が落ち続けている岸田首相は、9月13日に内閣改造を行った。

 自民党内は、とても同じ政党とは思えないほどの幅があり、中国に関しては親中・媚中から対中強硬派まで、すべてを網羅している。

 現在の習近平政権を「権力闘争」と指弾するのが大好きな中国問題専門家たちは、中国共産党内の派閥より、日本の自民党内部における派閥争いに目を向けた方がいいのではないかと思われるほど、まるで「党内多党制」のようだ。

 筆者がかつて自民党機関誌「自由民主」で中国問題に関する分析を連載していた頃のこと、「習近平の国賓来日」に関する反対意見を書こうとしたところ、編集部から「そのような内容の原稿を書くのなら降りて下さい」と言われ、少々驚いたことがある。

 「自民党内には、さまざまな意見の議員がおりまして、習近平の国賓来日を熱心に支持しておられる議員もおりますので、ご理解ください」と鄭重ではあったが、あれ以来、執筆依頼はピタッと止まった。

 もちろん、習近平国賓来日を熱心に唱えていた議員は、当時の自民党幹事長であった二階俊博氏を中心とした議員たちであったことは言うまでもないが、何せ党内には「安倍派、麻生派、茂木派、岸田派、二階派・・・」と枚挙にいとまがないほど陣営を競っている。

 その中でどのようにして勝ち抜いていくかという「党利・党略」ならぬ「派閥利・派閥略」ばかりに血道を上げているので、国家戦略など存在するはずもない。国民などそっちのけで、国民を重んじる時は、選挙でどのように叫べば、票が獲得できるかという「票読み風見鶏」になったときくらいだ。

 そんな自民党であるのに、一つだけ「戦略」と呼んでいいような要素がある。

 それは、西側諸国の中では最も親中的な政党として名を馳せている公明党と連立を組むことだ。

 公明党は中国では「西側諸国で最も中国側に立ち、中国の政策に寄り添ってくれている政党」として高く評価されている。

 その政党と連立を組んでいれば、その政党のせいにして、尖閣問題に関して厳しく中国に立ち向かうことをしなくてすむ。

 だから、近年は国土交通大臣を公明党から選ぶということが、まるで日本国のルールのようになっているほど、国土交通大臣は公明党と決まっている。

 今回もそうするのか否か、注目していたところ、案の定、公明党の斉藤鉄夫氏が留任となったことが明らかになった。

 これで中国は「ひと安心」といったところだろう。

 なぜなら日本が日本の領土としての尖閣諸島を守るのは海上保安庁で、海上保安庁は国土交通省の外局として置かれ、国土交通省の管轄下にあるからだ。

◆2012年以降の国土交通大臣

 以下に示すのは、拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【第五章 台湾問題の真相と台湾民意】のp.200に掲載した図表5-3である。2012年以降の国土交通大臣の名前と政党および尖閣諸島における現象などを列挙したものだ。

図表:近年の国土交通大臣の名前と政党および尖閣諸島における現象と対応

出典:『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』の図表5-3(p.200)
出典:『習近平が狙う「米一極から多極化へ」』の図表5-3(p.200)

 ご覧頂ければわかるように、国土交通大臣のポストは「公明党の指定席」のようになっている。

 これでは習近平政権は大喜びで、大手を振って尖閣諸島の接続水域だろうが領海だろうが、思うままに侵入できる。

 それに対して日本は「遺憾である」以上のことを言わないし、具体的な報復行動にも出ないことを知っているからだ。

 9月11日のコラム<2023年中国標準地図は、日本が黙認した1992年の中国「領海法」に基づいている>に書いたように、中国が尖閣諸島を中国の領土領海と定めた中国「領海法」が制定されたのに対して、日本は一言も文句を言ってない。

 国内法といえども、関係国から激しい批判や国際司法裁判所にでも訴えられない限り、国際社会が認めたものとして行動することができる。アメリカの「台湾関係法」はアメリカ政府の国内法だが、堂々と台湾に武器を売っているではないか。それと同じだ。

 それに加えて、「中国に寄り添う公明党」が国土交通大臣になる慣わしになっているので、中国は尖閣問題に関しては「安泰」と思っているのだ。

 これでは、まるで「売国奴」的な奴隷根性ではないのか。

◆戦略なき日本

 一方ではアメリカ従属なのに、もう一方では「媚中」なのは、拙著『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』の【終章 「アメリカ脳」から脱出しないと日本は戦争に巻き込まれる】に書いたように、日本敗戦後、GHQがアメリカの原爆投下を日本人が批判しないように、WGIP(War Guilt Information Program)(戦争の贖罪意識プログラム)を徹底して日本人の精神に植え付けたからだ。

 だからアメリカには永久に頭が上がらないが、中国にも「日中戦争」があったのだから、やはり「贖罪意識」を持ち続けている。

 現在の嫌中傾向は、「中国に対しては、もうコリゴリだ」という所に根っこの一つがあるが、アメリカが最近では中国が強くなるのを嫌がり対中強硬路線を取り始めたから、そのアメリカに従おうとする意識も働いているだろう。

 それでいて、日本政府内では、対中贖罪意識が根を張っていて、たとえば岸田首相は、あの親中の林芳正氏を外務大臣に指名したが、今度は林氏を下ろして(それは歓迎すべきだが)、外交経験に乏しい上川陽子元法務大臣を持ってきている。

 国際社会から見れば日本の外交力を一段と落とすだろうが、「党内派閥のバランス」と次期総裁再選さえ確保できれば、岸田首相にはそれでいいのかもしれない。

 かくして戦略なき日本は、国民を置き去りにして今日も時を刻んでいく。

追記:中国がどれほど公明党を高く評価し、「いつでも日本の安全保障面(あるいは軍事面)でのブレーキ役を果たし、中国のために貢献してきている」と絶賛しているかを知りたい方は、こちらの動画をご覧いただきたい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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