新顔・伊藤涼太郎らもチャンス。アジアカップ滑り込みは誰?タイ戦・サッカー日本代表選考を読み解く
「常連組」と「非常連組」で挑むタイ戦
2023年の日本代表戦10試合はすでに終わっているが、2024年は1月1日の元日からタイ戦(東京・国立競技場)が組まれている。直後の1月14日からはアジアカップ(カタール)も控えており、2011年大会以来のアジア王者奪還を目指す彼らにとって、新年早々の代表戦は非常に重要な強化の場となるはずだ。
そのタイ戦に挑むメンバー23人が7日に発表され、「常連組」と「非常連組」という構成になった。
まず常連組と位置づけられるのは、DF谷口彰悟(アル・ラーヤン)、板倉滉(ボルシアMG)、町田浩樹(サンジロワーズ)、毎熊晟矢(C大阪)、伊藤洋輝(シュツットガルト)、菅原由勢(AZ)、MF伊東純也(スタッド・ランス)、南野拓実(モナコ)、堂安律(フライブルク)、田中碧(デュッセルドルフ)、FW浅野拓磨(ボーフム)、上田綺世(フェイエノールト)のフィールドプレーヤー12人。GKの鈴木彩艶(シントトロイデン)もその中に入れていいだろう。
彼らはドイツ、フランス、オランダ、ベルギーの各欧州リーグ所属か国内組。上記4か国は12月20日~1月10日前後にかけてウインターブレイクに入るため、この時期の招集が可能だった。目下、ケガで公式戦に出場していない板倉と伊藤洋輝はプレー可能だと森保一監督は判断したという。
逆に、遠藤航(リバプール)、三笘薫(ブライトン)、久保建英(レアル・ソシエダ)、鎌田大地(ラツィオ)、守田英正(スポルティング・リスボン)ら主力級がいないのは、イングランド、スペイン、イタリア、ポルトガル、スコットランドといった国々が年末年始も試合のスケジュールを入れているため。彼らの招集はアジアカップのみとなる見通しだ。
アジアカップ滑り込みを目指してアピール合戦へ
一方の「非常連組」は10人。うち2人はGKの前川黛也(神戸)と野澤大志ブランドン(FC東京)。パリ五輪世代の野澤はA代表初招集となっている。
GKに関しては、ここ最近、ファーストチョイスと位置づけられていた大迫敬介(広島)がケガで選外に。9月シリーズに呼ばれたシュミット・ダニエル(シントトロイデン)と中村航輔(ポルティモネンセ)が目下、所属先で出場機会を得られていないことから、国内組で活躍度の高い彼ら2人が招集された格好だ。
フィールドプレーヤーは、DF森下龍矢・藤井陽也(ともに名古屋)、MF伊藤涼太郎(シントトロイデン)、奥抜侃志(ニュルンベルク)、川村拓夢(広島)、中村敬斗(スタッド・ランス)、佐野海舟(鹿島)、FW細谷真大(柏)の8人。A代表初招集の伊藤涼太郎以外は過去に呼ばれた選手だが、全員がまだ定着を果たしたとは言い切れない状況にいる。彼らの最大の目標はアジアカップメンバー滑り込み。常連組以上に高いモチベーションを持って、12月28日からのトレーニングに参加するに違いない。
このうち、最も常連組に近いのは中村敬斗。今年3月のウルグアイ戦(東京・国立)で初キャップを飾ってから4戦4発というゴールラッシュを披露。左MF三笘のバックアップ一番手の座を確立させたと目された。しかしながら、10月のカナダ戦(新潟)で左足首を負傷。2カ月近い離脱を強いられ、11月の2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選を棒に振る形になった。本人も苛立ちの募る時間を強いられたはずだが、12月に入って所属クラブで公式戦に復帰。代表にも戻ってきた。このままいけば、彼は順当にアジアカップのメンバーに選ばれるはずだが、果たして5週間にも及ぶビッグトーナメントを戦い抜けるだけのコンディションが整っているのか。そこが問われるだろう。
中村敬斗、藤井陽也らは絶好のチャンス
冨安健洋(アーセナル)が左足ふくらはぎの負傷でアジアカップに間に合わない恐れが出てきたこともあり、22歳の藤井にもチャンスがありそうだ。187センチの長身を誇るクレバーなDFは今季名古屋でリーグ34試合全てに先発。大きな成長を示している。名古屋アカデミー時代から「吉田麻也(LAギャラクシー)の後継者」と目されるほどの視野の広さと落ち着き、賢さを備えているのも強みだ。同期の菅原が一足先にA代表のレギュラーを勝ち取ったことも大きな刺激になっているはず。タイ戦でインパクトを残せば、そのまま一気にアジアカップを勝ち取れるかもしれないだけに、彼のパフォーマンスは注目だ。
11月のシリア戦でA代表初ゴールを挙げた細谷も気になる存在と言っていい。今季Jリーグで14ゴールを挙げたパリ五輪世代のエースFWは着実に進化を遂げている。アジアカップに参戦できるFWはおそらく4枚で、浅野、上田はほぼ確定。11月シリーズを辞退した古橋亨梧(セルティック)もすでに公式戦に戻っていることから選出の能性が高い。となると、細谷は間もなく復帰すると目される前田大然(セルティック)との競争を強いられそうだ。前田はご存じの通り、2022年カタールW杯で3試合に先発。クロアチア戦で1ゴールをマークした実績もあり、サイドでもプレーできる。そんな爆発的スピードを誇る韋駄天FWよりも「自分の方が必要だ」と森保監督に感じてもらうには、やはりゴールという目に見える結果が必須。9日の天皇杯決勝・川崎フロンターレ戦も含め、彼には絶好のアピールのチャンスがある。それを逃す手はない。
過去の招集回数では、森下も常連組に近い存在と言えるが、中山雄太(ハダースフィールド)が所属先でコンスタントにプレーしていて、伊藤洋輝も戻ってくる状況だとやや厳しいかもしれない。それでも、雑草魂の男はギリギリまで粘り続けるだろう。タフで泥臭いマインドは他の選手にない強み。それを存分に示して、数少ないチャンスをつかみに行ってほしい。
ボランチの川村と佐野は、欧州組の遠藤、守田、田中、鎌田の状態、FIFAクラブW杯に挑む伊藤敦樹(浦和)次第でアジアアップ行きの目が出てくるかもしれない。特に急成長中の佐野は楽しみな存在。12月3日のJ1最終節に森保監督がわざわざ鹿嶋まで視察に出向いたのを見ても、大きな期待が窺える。彼はもともと口数の少ない大人しいタイプではあるが、遠藤や守田ら年長者がいない今回のような試合でどこまでリーダーシップを発揮できるのか。そこも評価ポイントになりそうだ。
伊藤涼太郎の創造性とアイデアは必見
そして、初招集の伊藤涼太郎の一挙手一投足も見逃すわけにはいかないだろう。久保でさえ絶対的エースになりきれないほどの分厚い選手層を誇る代表2列目の一角ということで、アジアカップ行きの可能性は低いかもしれない。ただ、彼の非凡なセンスや創造性、アイデアというのは一見の価値がある。今夏ベルギーに赴いてからは課題だったフィジカル的な強さやハードワーク、守備面などにも改善が見られるだけに、森保監督も少なからず期待を寄せているはずだ。
このような非常連組から見る者の度肝を抜くような人材が出てくれば、2024年の日本代表もより一層、興味深いものになる。そういう意味でも元日のタイ戦は必見。選手たちには超満員の東京・国立競技場で人々の心を揺さぶるプレーを披露し、新たな年のサッカー界を大いに盛り上げてもらいたい。