採用や育成、仕事のオンライン化で「新卒同期の絆」は、過去のものとなってしまうのだろうか?
■「オンライン採用元年」の新人が入社して半年経過
2021年卒の新入社員がこの4月から日本全国の会社に入社して、半年経ちました。「オンライン採用元年」の世代です。
就職活動の最初の方からコロナ禍にみまわれ、混乱の中で就職活動がオンライン化していき、バタバタと短期間で会社を選ばざるをえなかった人たちです。内定後も、教育やイベントの多くがオンラインで実施されてここまで来ました。
コロナ以前は、これらはすべてリアルな場にて対面で行われていたのですが、オンライン化によって彼らはどのような「被害」を受けたのか。そして組織はそのことで今後どんな影響を受けたのでしょうか。
■「一体感が全然ない」に驚愕する人事担当者
入社前の話になりますが、「他の内定者のことをほとんど知らないし、同期という意識や一体感が全然ない」――。知り合いの人事担当者は、内定者からそんな告白を受けて驚愕したそうです。
良し悪しは別として、日本企業における「新卒同期」は何十年経っても同期会をするぐらい「最後の同窓生」的な存在で、損得を考えずに支え合う仲間でした。
「半沢直樹」などのドラマでも、同期の絆で助け合って難関を突破するシチュエーションが描かれていますし、実際どの会社でもよくあることでしょう。しかし、21年卒の新人にはそういう絆がなかなかできなかったようです。
その理由は、やはり採用や研修のオンライン化でしょう。対面でのコミュニケーションと違って、オンラインでは非言語的な情報が激減することもあって、感情が伝わりにくいことがわかってきました。
言語や数字、論理、事実などの情報については逆に伝わりやすいのですが、日本人の得意な「あうんの呼吸」「以心伝心」「空気を読む」がなかなか使えません。感情が伝わらなければ、親密性はなかなか生じません。
同じ場で同じものを見て、共感をする感覚が、親密性を生み出すからです。ずっとオンラインばかりでコミュニケートしてきた学生が、同期や会社に愛着やコミットメントを持ちにくいのも致し方ないと思います。
■インフォーマルなネットワークには効能があった
この「新卒同期」は長年、会社の中のインフォーマルな(公式の組織図で表される上司・部下などの関係ではない)ネットワークの基礎をなしていました。
部署や年次が異なる様々な社員が、新卒同期から派生して知り合って仲良くなり、社内に見えざる関係性が張り巡らされていたわけです。
これが消失してしまうと、会社はフォーマルな組織のつながりのみで構成されるようになります。仕事上の関係がなければ知り合うことも少なくなり、付き合う人は同じチームの人ばかり。あとはどんな人か知らない、ということになるのです。
これの何がいけないのか。効率的になるからいいのではないか、と思う方もいるかもしれませんが、これまでの日本企業ではこの非公式な関係性が、様々な組織問題に対するセーフティネットになっていたのも事実です。
例えば退職という問題に対し、辞めようか悩んでいる人に同期が新橋の飲み屋などで「まだまだやれるよ。辞めるなって!」と説得するようなことはよくあります。
メンタルヘルスにおいてもサポートになりますし、自分のロールモデルを見つける手がかりにも、会社の中の理念や価値観を浸透させるインフラにもなります。そんな効能がある見えざる関係性が、突然なくなってしまう事態にいま直面しているのです。
■思いと違う方向に組織が瓦解していく前に
このインフォーマルネットワークの多大な効能を、これまで明確に意識できていた人は少なかったのではないかと思います。これまで意識せずとも自然に生じてきたものなので、あって当たり前という空気のような存在になってしまっているからです。
物理的な空気が本当になくなれば、息が苦しくなってすぐ気づくでしょうが、組織の中の見えないインフォーマルネットワークがなくなっていくことには気づきにくい。何も対処しなければ、残念ながら組織の中の人の絆は知らない間になくなることでしょう。
最も怖いシナリオは、インフォーマルネットワークがなくなった後に、退職が増えたり、メンタルヘルスが悪化する人が増えたり、人が育たなくなったり、理念や文化が薄れていったりすることです。
そういうことが起こって初めて、インフォーマルネットワークの重要性に気づいても手遅れです。ですから、まずは、オンラインで採用したり働いたりする社会において、インフォーマルネットワークをいかに作るのかを検討すべきです。
「今後うちはフォーマルな組織だけでやっていく」という会社も含め、まずはこの問題をきちんと認識し、オンライン社会においてどんな組織を目指すのか、インフォーマルネットワークにどう対処するのかを議論するところから始めなければ、知らないうちに思いと違う方向へ組織が瓦解していってしまうかもしれないのです。
※キャリコネニュースにて人と組織に関する連載をしています。こちらも是非ご覧ください。