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アップルはゲーム専用機を開発中?スイッチのようなハイブリッド機になるとの噂もあり

多根清史アニメライター/ゲームライター
Image:Wikipedia

ここ数年にわたり、「アップルはゲーム専用機を開発している」とのウワサが根強くあります。iPhoneやiPadもゲームを遊ぶことに広く使われていますが、ガッツリと専用コントローラーを装着した(外付けないし内蔵)ゲーム特化あるいは重視のハードウェアに取り組んでいるだろう、というわけです。

最初に言い出したのが誰なのかといえば、おそらく米Bloombergの名物記者Mark Gurman氏です。はじめはApple TV用の新型リモコンが準備中だといい、2020年末には「よりゲームに重点を置き、新型リモコンが付き、新たなプロセッサを搭載した」Apple TVがまもなく登場すると予想を述べていました

しかし、実際に発売された新型Apple TV 4KはA12 Bionic、つまりiPhone XS(2018年発売)と同じチップを搭載し、とてもゲーム向きとは言えませんでした。いちおうリモコンは新型となっていましたが、テレビが操作しやすくなったに過ぎず、アナログスティックもついていません。

とはいえ「次のApple TVはゲーム重視」との予想は、他にも有名リーカー(注目の未発表製品にまつわる有力情報を発信する人)のFudge氏などが述べていたこと。アップルはゲーム定額サービスApple Arcadeに巨額の資金を注ぎ込んでおり、「A14X」(おそらくiPhone 12用のA14チップをベースにGPUを強化したもの)のようなチップが積まれるとともに、「ゼルダBOTW」のライバルになるゲーム開発(複数タイトル)しているとのことでした

そうしたウワサの最新版が、3月末にテック系メディアIT Houseは韓国フォーラムClienへのリーク情報として「アップル新型ゲーム機を開発中で、特別なチップを積む」との趣旨を伝えたことです

それによれば、アップルがゲーム業界への「復帰」を検討しており、新ハードのほかApple TVをゲーム機にする方法などを議論しつつ、大手ゲーム会社にも助言を求め、カプコンやUbisoftなど大手パブリッシャーも非常に興味を持っているーーとの台湾サプライチェーン情報が伝えられているそうです。

ここでいう「復帰」とは「世界で最も売れなかったゲーム機」ことピピンアットマーク以来、ということ。もっともピピンは一応は「バンダイとアップルの共同開発」とされながらも事実上はアップルがMac OSのライセンスを許可した以上の深い関わりは怪しく、販売したのはあくまでバンダイ・デジタル・エンタテイメント(1998年解散)なので、「復帰」といえるかどうかは疑問ではありますが。

しかし、ピピンアットマークのような据え置き“だけ”のゲーム専用ハードは、アップルにとっては厳しいはず。なぜなら、アップル独自開発のM1シリーズチップはゲーム向きとは言い難いからです。

たとえばベースモデルのM1チップ(8コア版)の演算性能は2.6TFLOPS程度との試算もありますが、これはPS4の1.84TFLOPSを上回るものの、PS4 Pro(4.20TFLOPS)には及ばず。M1 Proは5.2TFLOPS、M1 Maxは10.4TFLOPSでようやくPS5を少し上回りますが。が、M1 Max搭載のMac Studioは約25万円で、PS5の約5倍……高くつきすぎですね。

ちなみにNintendo Switchは、0.5TFLOPSとの推計もありました。あくまでTLOPSは「目安の1つ」にすぎませんが、スイッチのチップは5年以上前のものですから、比較するまでもなさそうです。

もしもゲーム機として現実的な価格に収めるなら、iPhone 13や第3世代iPhone SEに積まれたA15やM1チップあたり(ないし変種)が採用されるはず。それでスイッチ以上、PS4並みは令和最新版の「据え置き」ゲーム機としては厳しいものの、スイッチのような「携帯と据え置き」のハイブリッドならば現実的であり(携帯ゲーム機は据え置き専用機ほどグラフィックのクォリティは求められない)、十分に訴求力はあると思われます。

実際、アップルがスイッチ風のゲーム専用機を開発中との噂は何度か伝えられてきました。1つは昨年5月、やはり韓国Clienへの投稿が情報ソースとするもの。こちらは「ポータブル・ハイブリッドコンソール(据え置きも携帯もできるゲーム専用機)」を開発中であることや、AシリーズやMシリーズチップとは別の新型チップが積まれ、GPU性能が向上してレイトレーシングもサポートされ、Ubisoftともゲーム開発を交渉していると述べられていました

もう1つはアップル関連情報サイトのiDropNewsの「情報源」による、スイッチのような「プレミアム・ハイブリッドゲーム機」のウワサです。その性能は「2021年にマイクロソフトまたはソニーが提供するものを上回る」とされていましたが、M1 MaxのGPU性能から考えると、かなり眉唾の感もあります。

ともあれアップルが何らかの形でゲーム専用機、あるいはApple TVの性能強化版を社内で検討していることは、確度が高いと思われます。

が、アップルのようなハイテク大手は「社内で検討する」程度のビッグプロジェクトは数多く抱えているはずで、そのうち日の目を見るのはごく一握りにすぎず(そうした無駄を恐れない研究開発への投資こそ強みではあります)ゲーム専用機の噂が本当だとしても表に出ないまま消えていく可能性もあります。

1つだけ大きな疑問があるとすれば、すでにApp Storeのゲームアプリで任天堂、マイクロソフト、Activision Blizzardおよびソニーといった大手ゲーム企業の合計よりも収益が多かった(2019年時点)との推計もあるアップルが、ゲーム専用機を出す意味ってどこにあるの?ということでしょう。

もっとも、「iOSゲームアプリが遊べる安価な端末」ともいわれるiPod touchの新型が長らく出てないことを考えると、その位置にはめ込むつもりかもしれません。

アニメライター/ゲームライター

京都大学法学部大学院修士課程卒。著書に『宇宙政治の政治経済学』(宝島社)、『ガンダムと日本人』(文春新書)、『教養としてのゲーム史』(ちくま新書)、『PS3はなぜ失敗したのか』(晋遊舎)、共著に『超クソゲー2』『超アーケード』『超ファミコン』『PCエンジン大全』(以上、太田出版)、『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』(MdN)など。現在はGadget GateやGet Navi Web、TechnoEdgeで記事を執筆中。

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