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ポピュリズムとポピュラリズム:トランプとスペインのポデモスは似ているのか

ブレイディみかこ在英保育士、ライター
(写真:ロイター/アフロ)

米大統領選の結果を受け、スペインでは、ポデモスのパブロ・イグレシアス党首とドナルド・トランプを比較する人々が出て来たので、イグレシアスはこれに憤慨し、「ポピュリストとはアウトサイダーのことであり、似たようなメソッドを使うことはあるものの、それは右翼でも、左翼でもあり得るし、ウルトラリベラルの場合も、保護主義者の場合もある」と主張しているとエル・パイス紙が伝えている。

ポピュリズムとは大衆迎合主義なのか

パブロ・イグレシアスは、「ポピュリスト」の概念についてこう語っている。

「ポピュリズムとは、イデオロギーでも一連の政策でもない。『アウトサイド』から政治を構築するやり方のことであり、それは政治が危機に瀕した時節に拡大してくる」

「ポピュリズムは政治的選択を定義するものではない。政治的時節を定義するものだ」

出典:”Spain’s Podemos party rejects parallels with Trump” EL PAIS

スペインは今年6月に再総選挙を行ったが、昨年末の総選挙同様に議席が2大政党と新興2党に分裂したまま政権樹立に至らなかった。その上、最大野党の社会労働党が内部クーデターが起きるなどしてゴタつき、ラホイ首相続投の是非を問う信任投票で棄権したため、結局は国民党が政権に返り咲いている。イグレシアスは社会労働党のふがいなさを激しく非難しており、ポデモスは野党第一党になる黄金のチャンスを掴んでいるとも報道されている。「妥協をしながら国家制度のなかで地位を確立するポデモス」と「左派ポピュリズムとしてのポデモス」との折り合いをどうつけるかという以前からあった問題が、いよいよ切実なものになってきたようだ。イグレシアスはこう言っている。

「これからの数カ月、議論しなければならないのは、ポデモスはポピュリストのムーヴメントとして存在し続けるべきか否かということだ」

出典:"Spain’s Podemos party rejects parallels with Trump" EL PAIS

「ポピュリズム」という言葉は、日本では「大衆迎合主義」と訳されたりして頭ごなしに悪いもののように言われがちだが、Oxford Learner’s Dictionariesのサイトに行くと、「庶民の意見や願いを代表することを標榜する政治のタイプ」とシンプルに書かれている。19世紀末に米国で農民たちの蜂起から生まれた政党の名前がポピュリスト(人民党)だった。これはPOPULACEに由来する言葉だ。一方、POPULARから派生したポピュラリズムは最近よく政治記事で使われるようになってきた言葉だが、むかしから音楽関係の英文記事を読んでいる人は目にしたことがあると思う。クラシックに大衆音楽の要素を混入したり、インディー系の知る人ぞ知るアーティストがポップアルバムを出したりするときに、評論家たちは「ポピュラリズム」と呼んできた。

「ポピュリズムの行き過ぎたものがポピュラリズム」という解釈もあるが、ポピュリズムは大前提として「下側」(イグレシアス風に言えば「アウトサイド」)の政治勢力たらんとすることで、テレビに出ている有名なタレントを選挙に出馬させたりする手法は単なるポピュラリズム(大衆迎合主義)だ。そのタレントが下側(アウトサイド)の声を代表するつもりかどうかはわからないからである。

左派と地べたの乖離

EU離脱、米大統領選の結果を受けて、新たな左派ポピュリズムの必要性を説いているのは英ガーディアン紙のオーウェン・ジョーンズだ。

「統計の数字を見れば低所得者がトランプ支持というのは間違い」という意見も出ているが、ジョーンズは年収3万ドル以下の最低所得者層に注目している。他の収入層では、2012年の大統領選と今回とでは、民主党、共和党ともに票数の増減パーセンテージは一桁台しか違わない。だが、年収3万ドル以下の最低所得層では、共和党が16%の票を伸ばしている。票数ではわずかにトランプ票がクリントン票に負けているものの、最低所得層では、前回は初の黒人大統領をこぞって支持した人々の多くが、今回はレイシスト的発言をするトランプに入れたのだ。英国でも、下層の街に暮らしていると、界隈の人々が(彼らなりの主義を曲げることなく)左から右に唐突にジャンプする感じは肌感覚でわかる。これを「何も考えていないバカたち」と左派は批判しがちだが、実はそう罵倒せざるを得ないのは、彼らのことがわからないという事実にムカつくからではないだろうか。

ラディカルな左派のスタイルと文化は、大卒の若者(僕も含む)によって形成されることが多い。(中略)だが、その優先順位や、レトリックや、物の見方は、イングランドやフランスや米国の小さな町に住む年上のワーキングクラスの人々とは劇的に異なる。(中略)多様化したロンドンの街から、昔は工場が立ち並んでいた北部の街まで、左派がワーキングクラスのコミュニティーに根差さないことには、かつては左派の支持者だった人々に響く言葉を語らなければ、そして、労働者階級の人々の価値観や優先順位への侮蔑を取り除かなければ、左派に政治的な未来はない。

出典:”The left needs a new populism fast. It’s clear what happens if we fail” Guardian : Owen Jones

右派ポピュリズムを止められるのは左派ポピュリズムだけ?

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エル・パイス紙は、ポデモスとトランプは3つのタイプの似たような支持者を獲得していると書いている。

1.グローバル危機の結果、負け犬にされたと感じている人々。

2.グローバリゼーションによって、自分たちの文化的、国家的アイデンティティが脅かされていると思う人々。

3.エスタブリッシュメントを罰したいと思っている人々。

「品がない」と言われるビジネスマンのトランプと、英国で言うならオックスフォードのような大学の教授だったイグレシアスが、同じ層を支持者に取り込むことに成功しているのは興味深い。

マドリード自治大学のマリアン・マルティネス=バスクナンは、ポデモスとトランプが相似している点は「語りかけ」だと指摘する。「トランプには理念があるわけではなく、彼の言葉は、ヘイトや、オバマ大統領が象徴するすべてへの反動に基づいています。人々の感情を弄び、極左や極右がするように、共通のアイデンティティを創出しようとします。問題は、人々の情熱がどのように利用されているかということなのです」と彼女は話している。

感情と言葉の側面については、英国のオーウェン・ジョーンズもこう書いている。

プログレッシヴな左派は、ファクトを並べて叫べば人々を説き伏せることができると信じている。だが人間は感情の動物だ。我々は感情的に突き動かされるストーリーを求めている。一方、クリントンの演説は、銀行幹部の役職に応募しようとしている人のように聞こえた。(略)左派も感情を動かすヴィジョンを伝えなければならない。ただ事実を述べてわかってくれるだろうと期待しているだけでは、右派の勢いを鈍らせることも、プログレッシヴな勢力の連合も築けないとわかったのだから。

出典:”The left needs a new populism fast. It’s clear what happens if we fail” The Guardian: Owen Jones

ポデモスの幹部たちは「右派ポピュリズムを止められるのは左派ポピュリズムだけ」と言ったベルギーの政治学者、シャンタル・ムフに影響を受けているという。エル・パイス紙によれば、スペインは欧州国としては珍しく、英国のナイジェル・ファラージのUKIPや、フランスのマリーヌ・ル・ペンの国民戦線のような右派ポピュリズムがまだ出現していない。

ちょっと希望の押し付け過ぎではないかとも思うが、オーウェン・ジョーンズが「ポデモスが崩れたら欧州の左派に未来はない」と言うのも、右派ポピュリズムへの抑止力として機能している左派ポピュリズムが他に見あたらないからだろう。

在英保育士、ライター

1965年、福岡県福岡市生まれ。1996年から英国ブライトン在住。保育士、ライター。著書に『子どもたちの階級闘争』(みすず書房)、『いまモリッシーを聴くということ』(Pヴァイン)、『THIS IS JAPAN 英国保育士が見た日本』(太田出版)、『ヨーロッパ・コーリング 地べたからのポリティカル・レポート』(岩波書店)、『アナキズム・イン・ザ・UK - 壊れた英国とパンク保育士奮闘記』、『ザ・レフト─UK左翼セレブ列伝 』(ともにPヴァイン)。The Brady Blogの筆者。

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