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無価値となったクレディ・スイスのAT1債、日本国内で個人投資家などに1000億円規模で販売されていた

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 日本経済新聞は15日、「AT1債、国内富裕層に」という記事で、「三菱UFJモルガン・スタンレー証券が経営危機で無価値となったスイス金融大手クレディ・スイス・グループの永久劣後債(AT1債)を約950億円分、国内の個人投資家などに販売していたことが14日、わかった」と伝えた。

 国内証券会社がクレディ・スイスのAT1債を日本の個人に販売していたことが判明したのは初めて。また、国内ではみずほ証券も40億円強を販売しており、少なくとも1000億円規模で国内で販売されていたことになる。

 「AT1債」とは「CoCo債」と呼ばれる債券の一種である。CoCo債とは、「Contingent Convertible Bonds」、日本語では「偶発転換社債」と呼ばれるものである。発行体である金融機関の自己資本比率があらかじめ定められた水準を下回った場合などにおいて、元本の一部または全部が削減される、または、強制的に株式に転換されるなどの仕組み(トリガー条項)を有する債券となる。

 一般的に企業の破綻時には債券は株式よりも優先されるが、今回はクレディ・スイスの永久劣後債(AT1債)のトリガー条項に接触したとみなされ、スイス金融市場監督機構(FINMA)が3月に、160億スイスフラン(約2.2兆円)相当のAT1債を無価値とした。

 AT1債は、2008年の金融危機後、金融規制を強化する中で導入された。財務が大幅に悪化した場合などに元本が削減され、資本増強に充てられる。資本規制上、自己資本の一部に算入可能なことから発行が相次いだ。通常の社債よりも利回りが高く、投資家に人気だったという(3月20日付時事通信)。

 劣後債は仕組み債などとは異なるものの、高い利回りの分、リスクが秘められている。通常ではそのリスクが顕在化する可能性は低い。だからこそ、人気化したとみられるが、万が一のリスクが今回顕在化した格好となる。

 ある程度そのリスクを意識して購入していた人達が多いとは思うものの、完全にそのリスクを把握していたのかはわからない。

 債券を購入する際に、その利回りが同年限の国債の利回りに比べて、かなり高い水準にあるということは、そこにはその分のリスクが含まれていることを認識すべきである。そして、そのリスクが何であるのかを認識した上で購入すべきものとなる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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