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ものすごい効果のある「組織のインフォーマルネットワーク」。効果的に構築するにはどうすればよいか。

曽和利光人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長
レクリエーションのようなことに真面目に取り組む(写真:アフロ)

前回、強い組織を作る方法として、組織の中におけるインフォーマルネットワーク(組織のフォーマルなラインではない人間関係)の強化を勧める記事を書きました。本稿では、具体的にどうすれば、それが強化されるのかについて述べてみたいと思います。

■採用時から事前に強化しておくことが重要

最も重要なポイントは、できるだけ「入社前」つまり採用時にインフォーマルネットワークを事前に強化しておくことです。入社後ですと、フォーマルな組織に適応する/させることで精一杯になってしまい、同時並行的にインフォーマルなネットワークを作ろう(他部署の人と飲みに行こう、など)をしている暇はなかなかなくなってしまうからです。

しかも、本来フォーマルな組織が(当然ですが)固定化しようとする志向や価値観などのモノの考え方に、そうこうしているうちにどんどんはまっていってしまい、組織外の人と徐々に話がかみ合わなくなっていくかもしれない(つまり、インフォーマルなネットワーキング活動が心地よくなくなっていく)。

だから「入社前」が肝心なのです。入社前の時期は、新卒はもちろん中途でも有休消化などをしていたりして、時間的にも気持ち的にも余裕があることが多いはずです。そこに強化施策を打つのです。

インフォーマルネットワーク強化とは、簡単に言えば、要は「相互理解を通じてつながり、そして組織の構成員が仲良くなっていくこと」ですから、強化施策とは、いかに「相互理解」をさせるかということと、その上でお互いに「仲良く」なってもらうかということに大きく分けられます。

■理解しやすい人同士をつなげることから始める

まず、「相互理解」から述べてみます。いきなり逆説的で申し訳ございませんが、実はパーソナリティが異質な人材間の相互理解は同質同士よりも難しいものです。自分と異なる人材のことをきちんと理解するには、誤解や疑心暗鬼的なものの邪魔がはいったりするので、かなりの時間がかかってしまいます。

そのため、お勧めなのは、「理解しやすい人同士をまずつなげる」ということです。採用時の評価や適性検査などの結果などを通して、できるだけ同質なパーソナリティの人同士をあぶり出し、まずはそこをつなげるのです。

例えば、新卒採用の内定者懇親会などは、いきなり未知の者同士ばかりが一堂に会するというのではなく(異質な人同士が出会ってしまい違和感を持つという「事故」が起こり、内定辞退などになってしまう可能性があります)、まずは少人数会食などで似た者同士を集めて実施するのがよいでしょう。そうすれば、次に、全体での会合があった際、人はふつう既に知っている人をまずは探すため、立食パーティなどの本来なかなかコントロールしにくい場でも、個々人が勝手に「既に作った同質なインフォーマルネットワーク」のある人にアプローチしようとするはずです。そうすれば、「事故」が起こる確率は少なくなるというわけです。

そして、誰とでも仲良くなれる特質を持つ人、「ハブ人材」をそれぞれのネットワークをつなげるような人として見出しておいて、彼らに個々の同質なネットワーク間をつなげるような役割を演じてもらいます。要は、同質ネットワーク内のキーマンとハブ人材を何らかの形でつなげてあげればよいのです(ふつうに紹介すればよい。以前の私も、内定者懇親会のような場では、誰と誰をつなげようか、ばかり考えていたものです)。

そうすれば、変な摩擦を生むことなく、最終的には集団全体が何らかの形でネットワーク化される。身近には自然に共感性の高い同質な人。ハブ人材が緩衝材になってくれるので異質な人とも関係性を持ちやすくなります。

■共通点が人を仲良くさせる

次にいかに「仲良くなるか」について述べてみます。基本は上述の「同質性」が「共感」「親近感」を生むので、少しでも多くの「共通点」をお互いに探してもらうことが重要です。

たまに、いろいろなイベントでのアイスブレークのワークで「共通点探しゲーム」(制限時間内にできるだけ多くの共通点を見つけるワーク)がありますが、あのノリです。パーソナリティは違っても、例えば同じ会社に入社するのですから、「入社動機」などを共有してもらうと、共通点が見つかりやすいのではないでしょうか。

ただ、ダイバシティを重視する世の中、共通点探しは限界があります。ではどうすればよいのでしょうか。それは共通点を「これから」作ってあげればよいのです。つまり、何らかの共同作業をする機会を作るのです。それは研修でもインターンでもビジネスプランコンテストでも採用業務のサポートでも運動会でも、何でもよいと思います。

さらに加えるなら、「単純接触効果」(何度も会うと好感を抱くようになる)が生じるように、接触機会をできるだけ増やしたり、「熟知性効果」(人の内面を知ると親しみを感じるようになる。「知るは愛に通ずる」)が生じるように、自己紹介などの場を増やしたりすることも有効です。

私が以前在籍していた会社では、新入社員は既存社員に対して、自己紹介を1時間もすることになっていたのですが、案外話せるものですし、それだけの量のその人についての情報を知れば、親近感を抱き、仕事がやりやすくなったものです。

もし、「入社前」に難しければ、「入社後」でもやり方は特に変わりません(効果を出すのが相対的に難しくなっていくだけです)。社内MVP同士や中途採用同士を集めて相互理解を促進したり、新卒プロパーのハブ人材や中途採用のネットワーカーをつないだりしてみてください。そして、「共通点」を探してもらい、作り、何度も会い、知り合ってもらうという点では、入社前も後も変わりません。

以上、このようなことを真面目に(と言うのも、表面的にはこれらのインフォーマルネットワークを強化する諸施策は飲み会とか運動会とかの遊び的なものに見えるからです)長い期間続ければ、必ず組織のインフォーマルネットワークは強化されていきます。是非お試しいただけましたら幸いです。

人事コンサルティング会社 株式会社人材研究所 代表取締役社長

愛知県豊田市生まれ、関西育ち。灘高等学校、京都大学教育学部教育心理学科。在学中は関西の大手進学塾にて数学講師。卒業後、リクルート、ライフネット生命などで採用や人事の責任者を務める。その後、人事コンサルティング会社人材研究所を設立。日系大手企業から外資系企業、メガベンチャー、老舗企業、中小・スタートアップ、官公庁等、多くの組織に向けて人事や採用についてのコンサルティングや研修、講演、執筆活動を行っている。著書に「人事と採用のセオリー」「人と組織のマネジメントバイアス」「できる人事とダメ人事の習慣」「コミュ障のための面接マニュアル」「悪人の作った会社はなぜ伸びるのか?」他。

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