「自分の身体能力の低下などを感じた時」64.8%…運転免許証を返納しようと思うのはどのような時か
・運転免許証の自主返納制度を利用したいと思うきっかけのトップは「自分の身体能力の低下などを感じた時」で64.8%。
・「家族などから運転をやめるよう勧められた時」に返納を考える人は37.4%。
・どのような場合にでも運転免許証を返納するつもりが無い人は8.4%。自営業主や東京都区部居住者が多め。
身体機能の低下などを自覚し、自動車の運転から離れたいと考えている人向けの制度として「運転免許証の自主返納制度」がある。人はどのような条件下でこの制度を利用したいと考えているのだろうか。内閣府大臣官房政府広報室が2018年1月に発表した「運転免許証の自主返納制度などに関する世論調査」(※)の結果から確認する。
高齢者の運転による交通事故が問題視される中で、運転免許を有する人に対する自主的な返納制度が注目を集めている。これは身体機能の低下などを自覚し、自主的に運転免許証を返納したいとの要望を受け、道交法の改正により1998年4月から導入されたもの。また、単純な返納では運転免許証を身分証明書として使っていた人が不便になることから、2002年からは返納に際し運転経歴証明書の交付が導入されることになった。また、2011年の道交法施行規則の改定や2012年の犯収法施行規則改正により、銀行などにおいて運転経歴証明書の経過年月に関わらず、本人確認書類としての使用が可能となっている。
この運転免許証の返納の仕組みを利用しようとする人はどれほどいるのだろうか、どのような時に返納しようと考えているのか、それを尋ねた結果が次のグラフ。全体としては自分の身体能力の低下などを感じた時とする人が64.8%となった。現状すでに身体能力が低下している人だけで無く、将来においてそのような状況になった時に返納しようと考えている人も含んでいることに注意。
次いで多い意見は、家族などから運転をやめるよう勧められた時で37.4%、交通違反や交通事故を起こした時が17.0%で続く。いずれも自分の身体能力の低下を見極められず、あるいは把握していても運転を続けたいとの意思の方が強く、結果として他から指摘されたりリスクを体現化して初めて返納を考えることになる。家族からの勧めならまだしも、違反や事故を起こしてからでは遅いのだが。さらに返納をするつもりは無いとの意見も7.0%。
これを回答者の年齢階層別に見たのが次のグラフ。「運転免許を持っていない」「分からない」の選択肢は精査の上で条件そのものから外れるとの解釈もできるので、それらを除いて回答値を再計算したグラフも併記する。
若年層では自分自身の身体能力の低下をあまり想像できないことから、自分の身体能力の低下などを感じた時に返納するとの意見は低め。しかし年を重ねるに連れて回答率は高まっていく。
他方、家族などからの勧めや交通違反・交通事故をきっかけとする選択肢は年齢による差異がさほど出ていない。自分自身の認識では無く、他人からの指摘やリスクの体現化による返納は、どの年齢階層でも一定率で想定をしているようだ。ただし60代以上では有意に減っており、他人の指図は受けない、自分の事は自分で判断するとの思惑が強くなるのかもしれない。
もっとも「交通違反や交通事故を起こした時」ですら60代以降は減少している。単にそのような事は起こさないと断じているのか、それとも違反や事故を起こしても運転し続けたいと考えているのか、そこまでは今調査の限りでは分からない。
身体能力の衰えは少しずつ、確実にやってくる。子供と同じような能力になるとも表現できる。子供に運転を任せられるかと表現すれば、そのリスクは理解できるはず。「こんなものだろう」と自分自身をだますこと無く、適切な判断の下に返納を決断してほしいものだ。交通違反はまだしも、交通事故を起こしてからでは遅いのだから。
ちなみに運転免許所有者に限り、運転免許証の返納をするつもりが無い人の割合を算出した結果が次のグラフ。
運転免許所有者全体では8.4%。自営業主が高いのは、仕事で使う必要性があるからだろう。また意外にも大都市、特に東京都区部で高い値を計上している。近場での利用しか無いから心配は無用、あるいは免許証は所有し続けるが運転はしないと考えているのだろうか。
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※運転免許証の自主返納制度などに関する世論調査
2017年11月16日から26日にかけて、日本国内で日本国籍を有する18歳以上の中から層化2段無作為抽出法によって選ばれた3000人に対し、調査員による個別面接聴取法によって行われたもので、有効回答数は1839人。男女比は852対987、年齢階層比は18~19歳30人・20代138人・30代202人・40代348人・50代263人・60代370人・70歳以上488人。
(注)本文中の各グラフは特記事項の無い限り、記述されている資料を基に筆者が作成したものです。