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独房に監禁、医療受けさせず死亡、腐った給食―難民虐待の東京入国管理局

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
東京入管前で父親の解放を求めるクルド人難民の少女達。筆者撮影。

 戦争や人権侵害から必死の思いで逃れ、日本にたどり着いた難民達。彼らを受け入れる難民条約を批准しているにもかかわらず、日本は先進国中、最悪の「難民鎖国」だ。トランプ政権ですら今年度5万人の難民を受け入れ予定であるのに対し、ここ数年、日本が受け入れる難民は、年間で十数人程度にとどまり、過去最多1万人以上の申請があった昨年もたったの28人のみ。そして、難民不認定の烙印を押された人々は、日本から出て行くように言い渡され、入国管理局の収容施設に拘束されたり、時には迫害が待つ母国に強制送還される場合もある。

 今月4日、在日の難民やその支援者らが法務省・東京入国管理局(港区)の前でデモを行い、入管に収容されている難民の仮放免を訴えた。独房に数か月にわたって閉じ込めたり、命にもかかわる持病を持つ者を十分なケアもなく拘束しているのだという。

 

〇難民の家族を引き裂く東京入管

「パパを返してー」東京入管前の路上で、クルド人難民の少女達が必死で叫ぶ。現在、入管が拘束しているムスタファ・シグナックさん(34歳)の娘達だ。中学一年生だというシグナックさんの長女は「パパはもう何か月もずっと独房に入れられていて、心も体も弱ってます。入管は何でそんな酷いことをするんですか?」と訴える。シグナックさんは、少数民族であるクルド人への迫害が激しいトルコから逃れ、2013年に来日。トルコ当局による弾圧に加え、クルド人ゲリラとのトラブルから命を狙われているため、日本で難民申請したものの、なかなか難民として認定されず、約半年前、車を運転中に些細なミスから警察官に止められ、そのまま入管に拘束されてしまった。まるで刑務所の様に自由がない入管内の状況への抗議として、シグナックさんは、今年7月頃、共用スペースから雑居房への帰室を拒否。それ以来、独房に閉じ込められたままなのだという。

号泣するシグナックさんの長女。 筆者撮影。
号泣するシグナックさんの長女。 筆者撮影。

 長女らが東京入管前で抗議している声が聞こえたのか、長女の携帯にシグナックさんから電話がかかってきた。長女は号泣、電話の後、過呼吸を起こして倒れてしまう。しばらくして、息を吹き返し、シグナックさんとの面会もできたものの、長女は父親の置かれている状況にショックを受けたようだ。「パパは、入管では給食の魚が腐っていることもあって、満足に食事ができず体に力が入らないと言っていました。すごく調子が悪そうで、かわいそうです。顔も腫れていました。何も悪いことをしていないのに、どうして日本の人々はパパをいじめるのですか?本当に酷すぎる」(シグナックさんの長女)。

〇拘束中の難民、心筋梗塞の恐れ―医療を受けさせず死亡者も

Mさんの診断書
Mさんの診断書

 命にかかわる持病を持つのに、拘束されている難民もいる。やはりトルコから日本へ逃げてきたクルド難民のMさんは頸椎ヘルニアや高血圧を抱え、彼を診断した医師は「入管の収容施設にいることによるストレスの増大や、必要な治療を受けられないことから、狭心症や心筋梗塞を起こしてしまう恐れがある」と警告している。今月4日の東京入管前のデモに参加した「クルド人難民Mさんを支援する会」の周香織さんは「面会時にMさんは『胸が痛い』と訴えていました。一刻も早く、収容施設から解放し、必要な治療を受けられるようにしなくてはいけません」と危惧する。これまでも、入管施設では健康管理のずさんさが指摘されており、治療が遅れたために、拘束されていた外国人が死亡するというケースが相次ぐ。特に2013年から2014年にかけては、ミャンマーから避難してきたロヒンギャ難民を含む4人もの被拘束者が死亡。最近でも、今年3月に茨城県・牛久市の東日本入国管理センターで、ベトナム人男性が、くも膜下出血で死亡している。この男性は死亡の1週間前から口から泡を吹くなど、体調に異変があり、同室の被拘束者達が、病院につれていくように訴えていたにもかかわらず、入管側は放置し、最悪の結果を招いてしまった。Mさんの状況についての周さんら支援者の訴えは、これまでの実例からも考慮されるべきものなのだ。

「難民料理教室」で支援者の人々と交流するMさん(左) クルド人難民Mさんを支援する会提供
「難民料理教室」で支援者の人々と交流するMさん(左) クルド人難民Mさんを支援する会提供

クルド人難民Mさんを支援する会 http://chechennews.org/msan/

〇入管側は説明を拒否、国連も問題視する劣悪な環境

 シグナックさんやMさんへの東京入管の対応は虐待と言えるものではないか。筆者は、東京入管に事実確認を求めたが、入管側の回答は「個別のケースについてはお答えできない」というものだった。入管内で被拘束者に与えられる給食が腐っているという点だけ、入管側は否定したが、シグナックさんのみならず、他の被拘束者も同じように給食の鮮度の問題を訴えている。入管内の劣悪な環境から、シグナックさんがそうしたように、非拘束者が座り込みなどの抗議活動を行うこともあるが、こうした抗議に入管側は暴力で応じているとの証言もあった。匿名で取材に応じた被拘束者は「大勢の職員に何十回も蹴り続けられ、片目が見えなくなってしまった」と筆者に語った。理不尽さや屈辱から、精神のバランスを崩す被拘束者も多い。国連の拷問禁止委員会や人権理事会からも、日本の入管施設の状況は、幾度も改善するよう勧告を受けているが、 一向に改善する気配はない。

〇「就労禁止」で追いつめ、拘束する

 シグナックさんやMさんは解放されるべきだが、仮に、入管の収容所から仮放免され、出られたとしても難民達の状況は困難なものだ。前出の周さんは仮放免の問題について説明する。「仮放免の条件として、就労の禁止を約束させられることがあります。今回、Mさんが入管に拘束されたのも、アルバイトをしていたことが『仮放免の条件に違反した』とみなされたからです。しかし、難民認定やその再申請、不認定への異議申し立てなどの手続きが、長期にわたる中で、長期にわたる一方で、難民申請者は生活保護などの社会保障は受けられません。そんな状況で、全く働かないで生きていくことなど不可能です」(周さん)。4日のデモを呼びかけた支援団体の「SYI (収容者友人有志一同)」も、同日、入管に提出した申し入れの中で、仮放免の際に就労禁止を課すのをやめるよう求めている。

SYI (収容者友人有志一同) http://pinkydra.exblog.jp/

〇難民条約批准国にふさわしい対応を

東京入管前で抗議する難民達とその支援者達。 筆者撮影。
東京入管前で抗議する難民達とその支援者達。 筆者撮影。

 SYIの織田朝日さんは「日本は難民条約を批准しているにもかかわらず、全くその義務をはたしていません」と憤る。「難民審査の基準を少なくとも他の難民条約締結国なみに改善する必要があります。特に、日本は親日国であるトルコに配慮してなのか、同国から避難してきたクルド人をこれまで一人として難民認定したことがありませんが、そのような差別的な対応は改めるべきです」(織田さん)。トルコがクルド人へ激しい弾圧を行っていることは誰の目にも明らかな事実だ。2005年にトルコ刑法に導入された 「テロ対策法」により、クルド人がデモに参加しただけでも、「テロリスト」として厳しく処罰されるようになった。国際的な人権団体「アムネスティ・インターナショナル」は、トルコ南部のディヤルバクルで昨年1年間に約50万人のクルド人がトルコ当局に自宅を破壊され追放されたと報告している。本記事で紹介したMさんも1986年、故郷の村を焼かれた上、ゲリラ支援の容疑をかけられ尋問を受け、トルコ当局に現在にいたるまで監視対象とされていると観られる等、具体的な迫害の怖れがあるが、Mさんが何度、難民申請しても、法務省は難民認定しようとしない

 母国で迫害された人々が、難民条約批准国へと、避難してきたらそこでも差別され、虐待される。そのようなあってはならないことが、現実にこの日本で起きていることを、もっと多くの日本の人々が知るべきであるし、難民条約批准国としてふさわしい対応をすべきであろう。

(了)

*本記事での写真は、当事者の方々の了解の下、筆者が撮影した。写真の無断使用を厳しく禁じる。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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