[仕組み解説] アマゾン・グーグル・MS、ChatGPTなどに巨額出資もクラウドで資金回収
米アマゾン・ドット・コムや米グーグル、米マイクロソフト(MS)などの米テック大手は、過去1年間にAI(人工知能)のスタートアップ企業に巨額を出資してきた。その一方でクラウドサービスの大手でもある3社は、出資先であるスタートアップ企業から、それとほぼ同額の料金を徴収している。
そこにはテック大手とAIスタートアップ企業の共生関係があると、米ウォール・ストリート・ジャーナルが報じている。
アマゾン、AI新興に最大40億ドル出資
例えば、アマゾンは2023年9月、生成AI開発の米スタートアップ企業、アンソロピック(Anthropic)と戦略提携し、最大40億ドル(約6000億円)を出資すると発表した。
だが同紙によると、この発表に含まれていなかったのは、アマゾンとアンソロピックが結んだもう1つの契約だ。それはアンソロピックが今後5年間、アマゾンのクラウドサービスであるAmazon Web Services(AWS)に40億ドルを支出するというものだった。
グーグル、アンソロピックに20億ドル追加出資
アンソロピックは23年5月、グーグルなどから4億5000万ドル(約670億円)を調達したと明らかにした。ウォール・ストリート・ジャーナルは23年11月、グーグルがアンソロピックに追加で20億ドル出資することに合意したと報じた。
だがこの合意は、アンソロピックがグーグルのクラウドサービス「Google Cloud」に30億ドル(約4500億円)以上を支出することに合意した数か月後に行われたものだ。
MS、オープンAIに累計130億ドル出資
マイクロソフトは、AIチャットボットの「Chat(チャット)GPT」を手がける米オープンAIに累計130億ドル(約1兆9400億円)を出資している。
一方でオープンAIはマイクロソフトのクラウドサービスに数十億ドルを費やしている。
オープンAIはマイクロソフトのクラウド上で、AIソフトウエアをトレーニングし、このプラットフォームを通じてサービスを運営している。
これらのスタートアップ企業の最大のコストはクラウドコンピューティングの利用料であることを考えると、出資金のほとんどはクラウド収益という形で、テック大手に還元されることになるとウォール・ストリート・ジャーナルは指摘する。
マイクロソフトの23年7〜9月期における「インテリジェント・クラウド」事業の売上高は前年同期比19%増の242億5900万ドル(約3兆6300億円)だった。
このうちクラウド基盤「Azure(アジュール)」の売上高は29%増だった。AIサービスへの需要増でAzureの増収率は、前四半期比3ポイント上昇した。
グーグルとアマゾンのクラウド、増収率低水準
ただ、これらテック大手のAI分野への投資が実を結ぶのは、まだ先のことかもしれない。
グーグルがAI戦略の中心と位置付けるクラウドコンピューティング事業の23年7〜9月期における売上高は、84億1100万ドル(約1兆2600億円)で、市場予想に届かなかった。前年同期から22.5%増加したものの、この増収率は過去約11四半期で最も低い水準だった。
同事業の営業損益は2億6600万ドル(約400億円)の黒字。前年同期は4億4000万ドル(約700億円)の赤字だった。
また、アマゾンの23年7〜9月期のクラウド事業売上高は、230億5900万ドル(約3兆4500億円)で、前年同期から12%の増加にとどまった。この増収率は、過去最低を記録した前四半期と同じである。
筆者からの補足コメント:
生成AIを手がけるスタートアップ企業はアマゾンのようなクラウド基盤企業の有望な顧客と言えそうです。ChatGPTや、アンソロピックのClaude(クロード)のような生成AIを動かすアルゴリズムである大規模言語モデル(LLM)は、構築とトレーニングに膨大な資金が必要となります。スタートアップ企業はその資金の大部分をクラウドコンピューティングに費やしています。
AIブームと投資が活況を呈するものの、AIのクラウド企業への収益貢献度は依然低いとみられています。ただ、アマゾンにとってのAI投資は、利益の追求ではなく、競合に追いつくための戦略だとみられています。アマゾンは、アンソロピックへの投資とその技術を活用することで、先行するマイクロソフトやグーグルに対する競争力を高める狙いのようです。
- (本コラム記事は「JBpress」2023年11月9日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)