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MLB選手は決して利己主義ではない! WSでレッドソックス投手がみせた自己犠牲とチームへの献身

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
WS第3戦に登板しながら第4戦の先発を直訴したというリック・ポーセロ投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 “契約社会でがんじがらめのMLBでは選手たちは自分のことしか考えない”

 日本ではMLBや選手たちを語る上で、ステレオタイプのように語られ続けたものだ。だがMLBを長年取材してきた経験から、これが完全に間違った考えであることを断言していい。むしろMLB選手の方が、日本人選手よりも自己犠牲が強く、チームへの献身に満ちあふれているのではないだろうか。

 MLB公式サイトでレッドソックスを担当しているイアン・ブラウン記者がワールドシリーズ第4戦開始前に、以下のようなツイートを投稿している。

 前日に延長18回に及ぶワールドシリーズ史上最長となる7時間20分の死闘を演じ、第4戦の先発予定だったネーサン・イオバルディ投手を投入してしまったレッドソックスだったが、なんと3人の投手がアレックス・コーラ監督に第4戦の先発を直訴したという。その3人とは、第1戦に先発しているクリス・セール投手、第2戦に先発し、第3戦でもリリーフとして2/3回を投げているデビッド・プライス投手、そしてもう1人が第3戦に先発し4回2/3を投げたリック・ポーセロ投手だ。

 繰り返すが、チームから打診されたのではなく、自らコーラ監督に先発を直訴したのだ。セール投手の場合は元々中4日で第5戦の先発がほぼ確定しており、それが中3日のスライド登板になるだけだが、プライス投手は第2戦からの3連投を受け入れ、ポーセロ投手は2試合連続で先発する覚悟を決めていたということだ。

 結果的にコーラ監督はエデュアルド・ロドリゲス投手の先発を決め、3投手の直訴は実現していない。しかし短期間といえ無理をすれば故障のリスクは高まるし、ここでの疲労の蓄積が来シーズンに影響を及ぼす可能性もある。それでも高校球児のようなフル回転を自ら志願している彼らが、個人主義であるはずがないだろう。そこにはチームのために潰れてもいいという自己犠牲しかない。

 MLBが契約社会であることは疑いようのない事実だ。その分大物選手たちの移籍は日常茶飯事で、各チームともに選手の入れ替えが当たり前の世界だ。実際5年ぶりにワールドシリーズ進出を果たしたレッドソックスの今回のロースターで、5年前にも在籍していた選手はたった5人(ダスティン・ペドロイア選手、ザンダー・ボガーツ選手、ブロック・ホルト選手、ジャッキー・ブラッドリーJr選手、ブランドン・ワークマン投手)しか存在していない。

 それだけに選手たちにとって毎年のシーズンは、まさに“一期一会”のようなものだ。同じメンバーで戦うことはほぼ不可能であり、また再びワールドシリーズやポストシーズンに戻ってこられる保証もない。だからこそポストシーズンで戦う選手たちは優勝リングを手に入れることだけを目指し、チームの勝利のために献身的であろうとするのだ。

 以前ドジャース関係者から話を聞いたことがあるが、ポストシーズンのたびにフル回転を続けてきたクレイトン・カーショー投手は、チームの指示もないのに自ら準備を進めブルペンに行き、登板する意思を示してきたのだという。

 かつてMLBに挑戦したことのある某日本人投手から個人的に話を聞かせてもらった際、「MLBに来て初めてチームの団結力を感じた。日本の方がもっと選手は身勝手だと思う」という本音を漏らしてくれたこともあった。

 今もワールドシリーズの熱戦が繰り広げられている。ぜひ選手たちの高校球児のような熱い思いも感じ取って欲しい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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