北朝鮮工作員が「コテコテの関西弁」で語った政治家の名前
警視庁公安部が昨年12月、朝鮮大学校(東京・小平市)の元男性教員を詐欺容疑で逮捕。「北朝鮮の工作員だった」と発表した。近年において同種のケースは、2003年にも警視庁が、2012年には大阪府警が摘発している。
これらのうち、2012年の事件では、ジャーナリストの李策氏が「北朝鮮の工作員」とされた男性を直接インタビューし、ルポにまとめている。「工作員」本人の肉声が込められた記事は、極めて珍しい。加えて、この「工作員」がコテコテの関西弁で語っているところが、実にシュールである。
(参考記事:直撃肉声レポート…北朝鮮「工作員」かく語りき)
ところで読者は、「工作員」と聞くとどのような人物を想像するだろうか。映画や小説のキャラクターをイメージする人も少なくないだろうが、実際のところ、その多くはフツーのオジサンである。
もちろん、それは外見上のことであり、知識や精神力の強さには人並み外れたところもあるだろう。李氏もルポの中で、「サッカーと英語が得意で、笑顔を絶やさない明るい学生時代を送っていた男が、スパイ映画さながらの暗号ソフトを駆使していたとは、正直驚きだった」と述べている。
彼らの任務もまた、多岐に渡る。今回、警視庁に逮捕された容疑者は、北朝鮮工作機関の指令を受け、韓国の反体制運動を支援していたという。
(参考記事:外事警察が今さら「北朝鮮工作員」を逮捕した理由)
一方、李氏が取材した男性の任務は、日朝が水面下で「安保対話」を持つためのルート作りだった。ちなみに、北朝鮮が想定していた対話相手として名前が挙がったのは、自民党の石破茂氏だったという。
それにしても、他国の政府に破壊活動を行うようなケースは取り締まって当然だろうが、「安保対話」のルート作りぐらい、見逃すことはできなかったのだろうか。
もちろん、工作活動を捕捉したら、摘発するのが外事警察の仕事である。その点に異存はない。問題は、対北情報を巡るトータルデザインの不在だ。これがないおかげで対北情報活動の現場は迷走し、日本随一と言われた凄腕スパイが組織に「飼い殺し」にされる事例も起きている。
(参考記事:【対北情報戦の内幕】あるエリート公安調査官の栄光と挫折)
拉致問題にせよ核・ミサイル問題にせよ、北朝鮮を相手に、ただ声高に「圧力」を叫ぶだけでは何も動かない。まずは政策・戦略の前提となる質の高い情報を集めるべく、場合によっては相手側「工作員」との向き合い方も工夫すべきだろう。