60年あまりにわたる税金や社会保険料の負担の実情をさぐる
・実収入を圧迫する非消費支出の比率はバブル期にかけて上昇、その後横ばいで、2006年あたりから再び増加に。ここ数年は上昇幅は縮小。
・非消費支出の増加の主要因は社会保険料の増加。
・消費者物価指数を配慮しても社会保険料は大きな増加を示している。
社会環境の変化や医療技術の進歩、人口構成比の変化に伴い、可処分所得や社会保険料の負担度合いが大きく変化しているとの指摘がある。今回は総務省統計局の家計調査(※)の公開値を基に、実収入に対する税金や社会保険料の割合、つまり負担の実情を確認する。
実収入と非消費支出、可処分所得の推移は次の通り。
戦後少しずつ増加を見せた実収入だが、バブル期に向かって上昇幅を拡大、一時緩やかになるが再び大きな増加を示し、バブルの崩壊後は減少せずにほぼ横ばいを維持。実収入の最高額は1997年の59万4038円、可処分所得は1998年の49万8422円。それ以降は緩やかな下落を示しているが、デフレ期の突入時期とほぼ一致しているのが興味深い。
そして実収入のうち可処分所得を圧迫している非消費支出、つまり直接税(所得税や住民税など)や社会保険料(公的年金保険料、健康保険料、介護保険料など)の割合の変化を示したのが次のグラフ。
直接税の負担はバブル期にかけて大きく増加したもののその後緩やかな減少、そして2005年からは再び上昇したものの2009年で天井を打ち、あとはほぼ横ばいで推移している。しかし一方で社会保険料の割合はバブル期以降一方的に増加するばかりで減少の機会はほとんど無く、結果として非消費支出の負担を押し上げる形となってしまっている。バブル期末期から2005年までの間において非消費支出の割合がほぼ横ばいだったのは、社会保険料の割合がゆるやかな上昇に留まっていたのに加え、直接税の割合が漸減していたからに他ならない。
非消費支出の増加は実質的に社会保険料の増加によるところが大きい。世帯あたりの社会保険料の額、比率が中長期的に増加しているのは、社会構造の複雑化・近代化に加え、高齢化に伴う医療をはじめとした社会保障負担の増加が要因である。
余談ではあるが、取得可能な最古の値となる1953年と直近の2017年における、実収入に占める非消費支出・直接税・社会保険料の割合を比較したのが次のグラフ。
直接税の割合はほぼ同率、むしろ減っているが、社会保険料の割合は4倍強にまで増加し、結果として非消費支出の割合も2倍近くに増えている。可処分所得の目減りが何によるものか、容易に理解できる。
ちなみに社会保険料の推移を見たのが次のグラフ。「消費者物価指数配慮額」は直近年の物価をベースに、過去において直近年と同じ物価だったとしたらいくらになるかを試算したもの。
消費者物価に配慮しても、バブル期と比べて約2倍、1960年代と比べれば5倍以上に増加している。過去の水準のイメージのままで、現在の社会保険料の負担を述べるのは大きな間違いであることが理解できよう。
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※家計調査
今回精査対象としたのは、実収入や可処分所得、社会保険料が長期的に継続取得可能な対象となる、二人以上世帯のうち勤労者世帯(人口5万人以上の市)。原則として各年における平均月額を精査対象としている。2007年までは農林魚家世帯を除き、2008年以降は加えているため厳密な連続性は無いが(2008年の値がいくぶん不規則となっている)、2008年の時点で農林魚家世帯が占める比率は0.4%に留まっているため、誤差範囲内として解釈する。
「実収入」は「非消費支出(税金や社会保険料)」と「可処分所得」(自由に使えるお金)に分けられる。具体的な支出・収入の関係は次の通り。
・(実)収入……世帯主の収入(月収+ボーナス臨時収入)+配偶者収入など
・支出……消費支出(世帯を維持していくために必要な支出)
+非消費支出(税金・社会保険料など。直接税+社会保険料)
+黒字分(投資や貯金など)
(※可処分所得=消費支出+黒字分)
なお勤労者世帯は世帯主が会社、官公庁、学校、工場、商店などに勤めている世帯を指す。役員や個人経営者、自由業者、そして無職(年金生活者など)などは該当しない。
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