「最も高貴な拳銃」紛失で北朝鮮軍が大騒ぎ
北朝鮮の朝鮮人民軍の部隊で先月末、拳銃がなくなる事件が発生した。これだけで充分に重大な事件だが、ただの拳銃ではなかったため、政治的事件に発展している。
現地のデイリーNK内部情報筋によると、事件が起きたのは咸鏡南道(ハムギョンナムド)楽園(ラグォン)郡にある朝鮮人民軍海軍の東海艦隊司令部第597連合部隊直属の射撃場の当直室だ。
命令無視で「男女の行為」
8月22日に行われた同艦隊司令部作戦部の武器合同検閲(監査)の過程で、拳銃がなくなっていることが発覚した。当直室には58年式拳銃3挺、テテ(TT-33)拳銃2挺、白頭山(ペクトゥサン)拳銃1挺の計6挺があったが、白頭山拳銃だけがなくなっていた。
白頭山拳銃とは、1970年代にチェコのCZ-75を模倣して作られた口径9ミリの自動拳銃で、銃身には金日成主席の直筆を模した「白頭山」という文字が刻まれている。1980年代から、軍の指揮官が使う拳銃として採用され、現在でも広く使われている。ただ、普段使うのはテテ拳銃で、白頭山拳銃は保管用だったという。
(参考記事:【写真】北朝鮮軍の白頭山拳銃)
金日成氏は、幹部の労をねぎらう意味合いで白頭山拳銃をプレゼントしていたが、今回なくなった拳銃も最高指導者からの贈り物だったのだ。つまり、同国における「最も高貴な拳銃」のうちの1挺なのだ。北朝鮮では、最高指導者と関連した事件は「1号事件」として、関係者に対しては厳罰が下される。
(参考記事:北朝鮮軍の大佐「落書きしまくり」で公開処刑か)
場合によっては、死刑さえもあり得る。
両江道(リャンガンド)の金亨稷(キムヒョンジク)郡で、金日成主席、金正日総書記の巨大な太陽像(モザイク壁画)を照らす照明が消えるという事件が発生したが、警備担当者の男女が持ち場を離れて友人宅で「男女の行為」に及んでいたらしきことが判明し、2人は取り調べを受けている。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)
事件は人民武力省にも報告され、東海艦隊司令部の保衛部4部(秘密警察)が捜査に乗り出したが、1ヶ月経った今でも発見できずにいる。同時に「現在597部隊で武器・弾薬・戦闘技術機材の再登録や検閲が集中的に行われている」(情報筋)とのことだ。
紛失した拳銃が最高指導者からの贈り物であるという点と、武器紛失事故が最高指導者の身辺を脅かす問題として認識される点において、今回の事件は極めて重大だ。さらには建国70周年(9・9節)と南北首脳会談の平壌での開催を控え、全国に特別警戒令が出る直前の話とあって、関係者が厳しく処罰されるのは避けられないだろう。
情報筋によると、武器の紛失が確認されてから10日間見つからない場合には、平壌市と国境地域における移動統制が強化され、関連する指揮官の行政処罰が行われるとのことだが、実際にどのような措置が取られたかは明らかになっていない。