続・自動車は手が届きにくい存在になっているのか…可処分所得と自動車価格の関係(2020年公開版)
「若者の自動車離れ」の検証、まずは可処分所得の動向を
「若者の自動車離れ」の原因として、若年層の所得の増加が車の価格上昇に追いついていないとの見方がある。公的資料から可処分所得と自動車の価格を抽出し、その実情を精査する。
まずは可処分所得。これは総務省統計局の「家計調査」から必要な値を取得する。ただし今件主旨の精査に耐えられる期間の値が取得できるのは、二人以上世帯のうち勤労者世帯かつ農林漁家世帯を除く世帯の値に限定されるので、その値を用いる。さらに現在では世帯構成の状況変化に伴い、農林漁家世帯を除く世帯との区分が調査結果の公開値から無くなってしまったため、2000年分以降は単純に二人以上世帯のうち勤労者世帯の値を適用する。なお単身世帯はまた事情が異なるのだが、必要な値が取得できない以上、精査は不可能。
なお可処分所得とは家計の収入(月収や臨時収入、配偶者の収入など)から、非消費支出(税金や社会保険料)を引いた値。収入のうち自由に使えるお金と考えればよい。
次に示すのは、その可処分所得の推移。消費者物価指数などによる修正は加えていないので、素の額面となる。該当世帯の平均世帯構成人数も併記しておく。
可処分所得は高度経済成長期において急こう配で上昇し、バブルがはじけた前後でそのカーブは緩やかになるものの、上昇は継続。ピークは1997年の49万7036円。そしてその後は緩やかに下降し、2005年前後で一度下落は止まり、直近の金融危機以降再び下落、ここ数年は横ばいから上昇の動き。他方、世帯構成人数も漸減を示している。
自動車価格は可処分所得の何か月分か
可処分所得の推移が取得できたので、本題として「自動車価格はその年の可処分所得の何か月分か」、つまり「月次可処分所得・自動車購入係数」を算出する。自動車の価格は総務省統計局の「小売物価統計調査」で長期経年データが確認可能な「小型乗用車・国産・排気量1500cc超~2000cc以下」の車種の価格を比較対象とする。
現時点では1970年から2019年分まで各値が取得できるので、その範囲で計算を行う。例えばこの値が10ならば、その年の二人以上世帯・勤労者世帯(・農林漁家世帯)の可処分所得10か月分で自動車が買える計算になる。この値が小さいほど、自動車は手に届きやすいことになる。
バブル崩壊後の上昇度合いがやや大きな勾配ではあるものの、先行する「初任給と自動車価格の関係をグラフ化してみる」とほぼ同じ結果が出た。そして奇しくももっとも低い値を示したのは、同じ1990年の2.94。おおよそ可処分所得3か月分で自動車が買えたことになる。
直近の2019年では6.63。バブル時と比べれば2.3倍ほど自動車は手が届きにくい存在と考えられる。バブル前の値と比較すると、データ精査が可能なもっとも古く、かつ高値を示していた1970年の6.31よりも大きな値を示してしまっている。これは複数の先行記事で言及しているが、調査対象となる車種の一部で、高価格な、そして最近普及率が上昇している車種が追加された結果のようだ。ともあれ2014年までのように「可処分所得の観点で過去と比べて自動車が取得しにくくなったとは言い切れない」との文言は使えず、「可処分所得の観点でも、過去と比べて自動車が取得しにくくなった」との表現を用いねばならなくなったのは事実ではある。
自動車の所有・維持には本体代金以外にも多種多様なコストが発生する。しかしそれらは本体の代金と比べれば単価は安く、また例えばガソリン代は1980年代以降は大体ボックス圏内で推移しており、さらに自動車の高性能化に伴う燃費の向上などを考慮すれば、利用コストの上昇分は本体価格ほどには取得ハードルとはなり得ない。
無論、毎月の維持費をそろばん勘定した上で、その維持費と所有・利用によって得られる便益を天秤にかけ、購入しない・手放した方がよいと計算できる事例もあるだろうが、その度合いを中長期的に推し量ることは困難である。
ともあれ、可処分所得との比較において、高度成長期にかけて自動車には手が届きやすくなり、バブル期がピーク、その後は少しずつ距離が離れつつある。今後可処分所得が大きな上昇、あるいは該当自動車の価格が下落しない限り、今件係数は高い値を維持し続けることだろう。
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