高齢者は年を取るまでに老後の蓄えとして何をしていたのだろうか(2019年公開版)
「預貯金」は老後の備えの王様
年を取るとそれまでに成した蓄財を切り崩したり、収益確保の仕組みを利用することになる。現在高齢者の立場にある人たちは、そこに至るまでにどのような「備え」をしていたのだろうか。内閣府が2016年5月に発表した高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(※)の最新版から日本や諸外国の実情を確認する。
次に示すのは今調査対象母集団=60代以上の高齢者において、その年齢に至るまで、つまり50代までに、老後の備えとして何を準備していたか、複数回答で尋ねた結果。例えば預貯金で日本は46.6%とあるので、現在高齢層の日本人のうち半数近くは、現役世代において老後の備えとの意思の下で、預貯金をしていたことになる。
各国における高齢層に向けて整備された社会制度やお金に対する考え方の違いがよく現れた結果となっている。預貯金をしていた人はどの国でもそれなりに多いが、意外にも日本よりアメリカ合衆国やドイツの方が多い。スウェーデンでは預貯金以上に個人年金への加入者が多く、6割近くに達している。個人年金はスウェーデン以外にアメリカ合衆国でも高めで、これが4割強。さらに両国は有価証券の取得でも高い値を示している。
他方、「何もせず」、つまり公的年金や退職時の退職金、現役時代の就業をそのまま継続するなどでまかなえるとし、自己のさらなる積み増しの類は必要ないと判断する人も、どの国にも一定数が確認できる。ただし日本はこの回答率が他国と比べて極めて高く、4割を超えている。昨今の年金問題に絡み、高齢層の一部が抱く不安の遠因は、この「自前の積み増し的な準備をしていなかった」ことにあると考えれば道理は通る。
預貯金と職業能力
次以降に示すのは、特定の項目に絞り、各国の年齢階層別による回答率をグラフ化したもの。個々の年齢階層、というよりは世代における「老後の備え」に対する考え方の相違が把握できる。
まずは預貯金。
どの国でも世代で大きな変化は無い。厳密に精査すると、日本では昔ほど老後に備えた預貯金の積み立てを軽視し、最近では重視するようになっている。スウェーデンも(一部イレギュラーが生じているが)似たような現象。ドイツではむしろ逆に、現在に近づくに連れて預貯金から距離を置く傾向。
職業能力ではどうだろうか。
原文では「老後のために職業能力を高める」で、高齢になっても対価が維持できる技術を身につけたり、資格を取得したり、あるいは新しい対価を得られる職業方法を見い出すことを意味する。スウェーデンではばらつきがあるもののほぼ横ばいだが、それ以外の国では絶対値の差こそあれど、一様に昔より今の方が手掛けていた人が多い。つまり、昔と比べて今の人ほど、60代以降も対価収入のある職業が必要になると考えていた人が多いと解釈できる。特にアメリカ合衆国では、60代前半の人は2割以上が回答している。
余談だが、今件調査項目は複数回答形式のため、実際に手がけていた種類が多ければ、累計回答率も多くなる。そこで単純に各国の回答率を足したのが次のグラフ。当然「何もせず」は除外してある。
具体的項目の注力度合いまでは分からないが、少なくとも種類別においては、日本の備えの度合いが他国と比べて低いことがよく分かる。この状態を善しとすべきか否かは判断に迷うところがあるが、現状を認識する材料の一つとして覚えおくべきだろう。
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※高齢者の生活と意識に関する国際比較調査
今調査は5年毎に行われているもので、最新分は2015年9月から12月にかけて日本、アメリカ合衆国、ドイツ、スウェーデンにおいて、60歳以上の男女(老人ホームなどの施設入所者は除く)に対して調査員による個別面接聴取方式によって行われたもので、有効回答数は各国とも1000件強。それぞれ男女別・年齢階層別・地域・都市規模などを基準にウェイトバックが行われている。
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