「死の亡霊が徘徊する地獄に」北朝鮮警告が意味するリスク
韓国軍は23日午後4時ごろから、朝鮮半島の西側、黄海上の軍事境界線にあたる北方限界線(NLL)以南の韓国側海域で、海上射撃訓練を行った。これに対し、北朝鮮の朝鮮人民軍は西南戦線軍司令部のスポークスマン談話を出し、海上射撃訓練を実施すれば「無慈悲な応懲報復を加える」と警告した。
北朝鮮は年がら年中、独特のレトリックを駆使してこの手のメッセージを発しているが、ほとんどの場合は警告は言葉だけで、行動を伴わない。
しかし決して、「またか」の一言で済ませるべきものでもない。現に5年前、北朝鮮は同様の警告に続き民間人が居住する韓国領の延坪島を砲撃。韓国軍の兵士2人が戦死し、民間人2人が犠牲になった。今回の朝鮮人民軍の談話は当時の経過にも触れ、延坪島を「死の亡霊が徘徊する地獄」に変えてやったと「自賛」している。
朝鮮戦争は1953年になったが、北朝鮮と韓国の間では、数多くの実戦が交わされている。特に問題の海域では、相互の報復に次ぐ報復で、おびただしい数の戦死者が出ている。
ちなみに日本の報道だけを見ていると、相手に対して強硬なのは北朝鮮だけのように見えるが、韓国軍部などにも「イケイケ」な空気はある。延坪島砲撃から5年目の追悼式典には朴槿恵大統領がビデオメッセージを寄せ、軍に対し「完璧な軍事対応態勢を確立し、いかなる威嚇と挑発にも揺るぎなく対応しなければならない」と述べた。毎年開かれてきた追悼式典に韓国大統領がメッセージを寄せるのは初めてで、北朝鮮への強気な姿勢を求める世論に配慮したものと言える。
韓国側のこうした空気は、北朝鮮側が仕掛けた地雷爆発に端を発した8月の軍事的緊張を受けて、さらに高まっている。当時、韓国側は自軍兵士の身体が地雷で吹き飛ばされる映像を公開。韓国国民の愛国心は高揚し、それに支えられた韓国政府との「チキンレース」で、金正恩氏は無残に敗北した。
それでもなお、韓国側には北朝鮮との対決に前向きな空気がある。金正恩氏の「斬首」をねらう作戦の導入推進も、その表れだ。
もちろん、北朝鮮側も報復の機会を狙っていることだろう。こうした報復の連鎖は、全面戦争にもエスカレートしかねない危険性をはらんでいる。
8月の軍事危機の収束に際し、韓国と北朝鮮は対話を進めることを約束した。言うまでもなく、両国とも戦争よりは対話を求める世論の方が強い。平和的な対話の進展に期待したい。