「人は変わらない」。そうであれば、最初から相性のよい配置を考える方が効果的
■DON’T TRUST OVER 30
ロックンロール的文脈の中で、「30歳以上のやつのことなんか信じるな(DON’T TRUST OVER 30)」などと言うことがあります。私もややそう思いますが(かくいう自分はover40)、人事的な文脈でもそういう言葉を聞いたことがあります。
「30歳を越えたような人は、もうそんなには変わらない」
「人はいつまでも成長するなどと信じない方がよい」
悲しい話ですが、傾向としては「その通り」でしょう。それなのに人事領域においては、育成はもちろんのこと評価にしても配置にしても、なぜ「人は変われる」「人をこう変える、変わって欲しい」ということを前提にするのでしょうか。
■中年の「個の変容」を目指す研修に意味はあるのか
私は実務やコンサルティングの現場で、様々な組織の課題を見てきていますが、その中で「中間層、マネジメント(管理職)層が育っていない」「マネジメント層が手薄なので若手が成長しない」という課題を持っている組織がかなりありました。
それに対する施策として、マネジャーに必要な能力・スキルを身に付けるために「マネジメント研修」を実施するとした組織もかなり見てきました。もちろん、どんなものでもやらないよりはマシ。座学のマネジメント研修でも、マネジャーたちの能力を向上させるために何らかのきっかけにはなるかもしれません。
しかし、冒頭の「人は変わらない」が大勢としてそうだったとすれば、マネジメント研修は本当に効くのか疑問に思うこともあります。マネジャー、管理職となっているような人は、すでに30歳以上であることが多いからです。
年齢で何かを区切ると「青春とは人生のある期間ではなく、心の様相を言うのだ」で有名なサミュエル・ウルマンの詩が好きな方々に怒られてしまうかもしれません。私も「30歳以上は絶対に変わらない」などと言っているわけではありません。
ただ、加齢による脳や生物的な側面への影響を考えると、なかなか変わりにくくなっているのは明確な事実だと思います。ですから「個」の変容を目的とした研修を導入しても、なかなか効果はないのではないかと素朴に思えてしまう、ということです。
■「変わりにくい人」を無理に変える必要はない
しかし、私は何か絶望的なことを言っているわけではありません。一定以上の年齢を越えた人が「変わりにくい」ことは、決して絶望的なわけではありません。というよりも、長年かけて作り上げたパーソナリティ(性格や能力)を、ここに来てなぜ無理に変えなくてはならないのでしょうか。
つまり、それを活かせばよいではないか、ということを言っているのです。「変わりにくい」人は変えるのではなく、その人の特徴、長所などをきちんと理解して慈しみ、その人にあった仕事や配置を「適材適所」で実現する方が、効果的だと思うわけです。
昔所属したリクルートには「知るは、愛に通ずる」という言葉がありました。要は「相手のことをよく知ることで、その人を好きになっていくものだ」ということ。当時はTI型と呼ばれるユングのタイプ論を基にした性格類型を共通言語とし、お互いに「あいつは○○タイプだ」「だから、こうなんだよなぁ」と半ば面白がりながら言い合っていました。
血液型占いのように、人はパーソナリティを類型化することに興味関心があるものです。その効果として「知るは、愛に通ずる」があったように思います。
例えば、相手のパーソナリティがよくわからないときには、疑心暗鬼で「あいつは許せない」と思っていたことが、パーソナリティが分かると「まあ、ああいうやつだからな」で済み、むしろ愛着を持って許すことができるようなことがありました。
■「関係」は配置によって簡単に改善できる
配置において「適材適所」といえば、能力と仕事とをマッチングするだけのことが多いのですが、欠けているのは「性格」の観点です。
能力よりも可視化されていることが少ない性格ですが、性格面で最適化された配置の方が、チームのパフォーマンスが高まるという研究もあります。つまり「相性のいい性格」の人同士をチームにすることができれば、パフォーマンスが上がるということです。
現実的には性格だけで配置を決めることはできず、その人の持っているスキルや能力、家庭の事情によって左右されることはもちろんです。しかし「個」の性格は変えにくくとも、相性が分かれば、それに従った配置や人間関係を変えることはできるわけです。
前述の「(個を対象とした)マネジメント研修」は、それはそれでよいとしても、まずはマネジャーたちが扱いやすい、彼らと相性のよいメンバーをつけてあげることをすればよいのではないでしょうか。
これはメンバーにとってもよいことです。相性の良いマネジャーから指導を受ける方が、やりやすいに決まっているので、極論すれば「明日から」マネジャーとメンバーの良い関係が生まれます。「個」は何にも変わらなくとも、思うままに自然にふるまっていれば、相手にとってもよい行動になっているからです。
「手取り足取り教えて欲しい」メンバーには、「一から十まで細かく指導したい」マネジャーがつけば、ある程度問題は解決されます。逆に「放任主義」のマネジャーがつけば、うまくいかないでしょう。
■「適当な配属」で被害を受ける人が減って欲しい
本稿では、変わりにくい「個」を変えようとする前に、そのままでもうまくいく「関係」を作ることをお勧めしました。しかし、理屈はわかっても、性格などというものは目に見えませんので、なかなか何が「良い相性」なのかはわかりません。
そのためにお勧めするのは、月並みですが適性検査など性格や相性の「可視化ツール」を導入し、「見える化」することです。
経営者の「人を見る目」や人事の職人芸にも限界があります。可視化ツールを導入し、どういうパーソナリティ同士が良い関係であるのかについて研究することで、自社独自の「適材適所のロジック」が分かってくると思います。
そうすることで、これまで「適当」にされてきた配置が科学的に見直されて、これまで被害を受けてきた人々が働きやすくなることを願っています。
※キャリコネニュースから転載・改訂