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40兆円規模もの経済対策なのに、どうして国債の増発が抑えられるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 政府・与党が新型コロナウイルス対応や格差是正を含む追加経済対策の財政支出を「35兆円」前後とする方向で検討していることが分かったと11月5日に産経新聞が報じた。

 政府が19日にまとめる経済対策が財政支出ベースで「40兆円超」に膨らむ見通しになったと、こちらは13日の日本経済新聞が報じた。

 政府は一部を国債の増発でまかなうとしているが、その増発はそれほど多くはないというのが債券市場参加者の見立てとなっている。

 その経済対策の内容についてはここではさておき、どうして40兆円もの規模の経済対策にもかかわらず、国債の増発は限定的との見方となっているのか。その理由を探ってみたい。

 産経新聞は経済対策の財源について、2020年度決算の剰余金(約4兆5000億円)や2020年度から2021年度に繰り越された予算の一部(十数兆円)を充て、不足分は赤字国債の発行も検討と報じている。

 2020年度予算は新型コロナウイルスの感染拡大による経済への打撃を受けて補正予算を含め、異例ともいえる巨額なものになった。まさに非常時対応となっていたが、そこでの使い残しも巨額なものとなっていた。

 新型コロナウイルス問題によって経済は悪化したが、税収は60.8兆円と予想外にも過去最高を記録していた。その予想外の部分も財源となる。

 2021年度財投計画の進捗の遅れに伴う財投債の減額分も同様に財源として活用できる。

 借換債の前倒し発行分はだいぶ使ってしまってはいるものの、予算編成時の長期金利の予想と実際の長期金利の乖離分が存在しており、その分を含め前倒し発行として利用が可能となる。

 このあたりで補正予算が35兆円規模であれば、国債の増発は抑えられるとの見立てとなっていた。仮に国債増発が必要となっても短期国債の発行でカバーされ、長期国債の増発はあっても限定的との見方となっている。

 日経新聞の報道で規模が35兆円ではなく40兆円と膨らんでいるが、ここには16か月予算というものが絡んでくるとみられる。

 政府が近く決定する「新たな経済対策」の原案が判明し、財源の裏付けとなる2021年度補正予算については「16か月予算」として次年度予算と一体編成するとロイターが報じていた。

 産経新聞と日経新聞の数字の差額分の5兆円が、2022年度予算に組み込まれる新型コロナウイルスの対策費用などであるとするならば、その分は今年度補正の費用負担とはならず、来年度予算に組み込まれる可能性がある。

 以上の理由によって、40兆円規模の経済対策が講じられても国債の増発は極力抑えられるというのが債券市場関係者の見立てとなっているようである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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