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創作に携わる者として、どう自分を客観視するべきなのか

佐渡島庸平コルク代表
(写真:イメージマート)

クリエイターも、編集者もいかに自分を客観視するのかは重要なポイントだ。

作品を何度も読み直していると、もうこの作品が面白いのか、面白く思いたいのか、わからなくなってくる。頭の中にアイディアがある時は、絶対に客観視できない。客観視するためには、とにかくアウトプットするしかない。

しかし、作品を毎日のようにアウトプットすることは難しい。だから、作家も編集者も、作品の感想や毎日の振り返りをブログで文章にすることをよくアドバイスする。

作品を楽しんで読んでいるだけだと、読者から脱することはできない。作品から何を感じて、なぜそう感じたかを言語化し、客観視することで、自分の創作の肥やしにすることができる。

客観視が出来るようになってから、才能は開花する

多くの人は、才能がないのではない。自分を客観視できてないから、次にやるべきことが、的外れになる。自分のことを客観視できたら、必要なことがわかって、自分で自分の才能を開花させれる。

どうやって自分を客観視し、自己認識を高めていくか。

ぼくのnoteを例に書いてみよう。

以前、『ジョハリの窓から、「さらけだす」を再考』というnoteにも書いたが、自己認識を高めていくには、自分の考えや感じたことをアウトプットしてさらけだし、他人から積極的にフィードバックをもらっていくしかない。

では、どうアウトプットするといいのか。

自分向け、外向け。

音声、文章。

短い、長い。

このアウトプットの組み合わせで、客観視が進む。

たとえば、「自分向け×文章×短い」だとメモになる。メモを定期的に見返すことで、客観視ができる。

でも、それだけだと不十分だ。同じテーマで、他の組み合わせのアウトプットをし、フィードバックをもらうことで、より客観視ができるとぼくは考える。

ぼく自身の話をすると、一つ気になったテーマが出てくると、マンガ家との打ち合わせの雑談で話す。「自分向け×音声×短い」のアウトプットだ。そして毎日の振り返りとしてVoicyで「外向け×音声×短く」のアウトプットする。次に、note用に「外向け×音声×長く」をVoicyで収録する。

そして、noteの文章をライターの人に書いてもらい、読み直し、書き直しすることで、「自分向け×外向けの文章×長い」のアウトプットを同時に行う。

ぼくのnoteでは、最近の出来事から得た気づきや、頭のなかでボンヤリと考えていることを書いている。重要なことだと認識しながらも、まだ考えが熟成しきっていない状態のものをさらけ出していく場だ。

考えが理路整然としてない状態で、まずは口頭でアウトプットしてみる。うまく伝えられる時もあれば、抽象的すぎたかなと思う時もある。そして、仕上がってきた原稿を見て、「なるほど、こう解釈されるのか」と気づきを得ながら、原稿を修正する過程で自分の考えを深めていく。

会話だとうまく伝えられても、文章にすると難しい時もある。また、Twitterのような短文だとうまく文章にできても、2,000文字くらいの長文で語ろうとすると難しいと感じる時もある。その逆も然りだ。

さらに、noteとVoicyでは、読者やリスナーの層が微妙に違う。すると、違う分人が立ち上がる。同じ趣旨でも、自然と言葉の選び方や言い回しが変わってくる。同じ内容を職場の上司に伝えるのと、飲み屋で学生時代の友達に伝えるのではなく、伝え方が変わるのと同じだ。

異なる分人でアウトプットをする

違う分人を立ち上げて、アウトプットすることで、客観性が高まる。マンガ家はマンガだけをたくさん描くよりも、違うアウトプットをしてみた方がいい。

コルクに所属するマンガ家のつのだふむ君は、今まで自分の気づきや学びをnoteで発信してきたが、今年7月からVoicyで、つのだふむ「マンガ家・つのだふむの糸島暮らし」というチャンネルを始めた。

つのだ君がnoteを更新するようになってから、振り返りが上手くなり、彼の成長を感じていた。そして、Voicyをはじめたら、その成長スピードが一段と高まってきた。発信している内容も、どんどん面白くなってきている。

つのだ君の成長を見て、様々な方法による発信により自分の思考を深めていくことは、創作者の長期的な上達に大きく関わってくると改めて感じた。

そして、こうした取り組みを、個人単位ではなく、組織単位で行っていきたいと考え、コルクでは新しい取り組みをすることにした。

現在、コルクでは複数のマンガ家と編集者がチームを組んでWEBTOONを制作する『コルクスタジオ』を立ち上げている。特に、この半年くらいは、新連載の企画をはじめ、「どういう存在になりたいか」「どういうチームでありたいか」など、スタジオの方向性についてメンバーで議論を重ねてきた。

議論がいい方向に進んで、これからの未来が楽しみだと思える状態に来ているのだが、これもスタジオ内で考えていることに過ぎない。今は、自分たち向け、音声、長い、のアウトプットがあるだけの状態だ。ここであえて、外向け、音声、長いのアウトプットをすると、組織として客観視ができて課題が自分たちで見つかるのではないかと考えた。

そこで、コルクスタジオでは、自分たちがどういうスタジオを目指しているのかを外に発信するイベントを開催することにした。11月5日(土)に、銀座で開催された『コルクスタジオフェス』だ。

フェスというと、「ファンを喜ばせる」「ファンに感謝する」みたいなイベントを期待されるかもしれないが、これは「自分たちの考えをさらけだす」が軸となるイベントだ。

Webtoonという新しいスタイルが広がり、マンガというメディア自体も多様化が進むなかで、コルクスタジオはどんな作品を世の中に送り出したいと思っているのか。自分たちの現在地、そして目指したい未来について、赤裸々にさらけだす場とした。

今回のフェスは実験的な取り組みとして「第0回」とした。こうした発信の場を今後も継続的に設けて、自分たちを客観視し、スタジオとして自己認識を高め、メンバー全員の目線を揃えていきたいと思っている。

その先に、スタジオの目指す未来が待っているはずだ。

(筆者noteより加筆・修正のうえ転載)

コルク代表

コルク代表・佐渡島が、「コンテンツのDJ」として自分の好きを届けていきます。 / 2002年講談社入社。週刊モーニング編集部にて、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などの編集を担当する。2012年講談社退社後、クリエイターのエージェント会社、コルクを創業。著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテイメントのモデル構築を目指している。

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