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日銀は2%の物価上昇は続かないとしているが、企業は物価の見通しを1年後が2.6%、5年後を2%と予測

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 「消費者物価上昇率は2%台後半となっているが、サービス価格など物価の基調を規定する部分が上昇し、消費者物価上昇率が安定的に2%を超えることが視野に入ってくるまでは、現状の金融緩和を継続することが適当である」

 これは9月21、22日に開催された日銀の金融政策決定会合における主な意見のなかの物価に関する意見である。

 8月の全国消費者物価指数は総合指数で前年同月比でプラス3.0%、日銀の物価目標となっている生鮮食品を除く総合指数は前年同月比でプラス2.8%、 生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数は前年同月比でプラス1.6%となった。

 全国消費者物価指数は日銀の物価目標となっている生鮮食品を除く総合指数で、今年の4月以降、5か月連続で日銀が目標とする2%を超えている。

 10月4日に発表された9月の東京都区部消費者物価指数(除く生鮮)は前年同月比2.8%の上昇となった。

 9月の全国消費者物価指数は3%も視野に入る。年末に向けて全国消費者物価指数は前年比3%台に乗せてくることが予想される。

 日銀は7月に発表した展望レポートで、2022年度の全国消費者物価指数(除く生鮮)の見通しをプラス2.3%とした。しかし、2023年度はプラス1.4%の見通しとしており、2%台が長く続かないとの予測のもと、非常時緩和を維持している。

 消費者物価指数のプラス2.8%というのは消費増税の影響を除くと、1991年9月の2.8%以来30年11か月ぶりの伸び率となっていたことにも注意したい。

 つまりここ30年間なかった物価水準にある。その要因が原材料費やエネルギー価格の上昇、そして円安によるコストプッシュ型であるものの、日本も世界的な物価上昇の渦に巻き込まれていることもたしかである。

 これに対して何の対処もしないというのはどういうことであろうか。日銀は物価の番人ではなかったのか。

 さらに日銀は来年度の物価見通しが2%を下回るので、金融政策を現状維持としているが、その見方もやや怪しくなってきている。

 日銀が集計している日銀短観をみると10月3日の発表されたものでは、企業は物価の見通しを1年後が2.6%、3年後が2.1%、5年後を2.0%と予測している。

 この数値を見る限りは、日銀の見通しがやや楽観的というか、希望的な観測にすら映る。無理矢理に現状の金融政策を維持させたいがための根拠にしているようにもみえる。

 日銀が非常時対応の金融緩和政策を維持させることにより、これが円安要因ともなっている。その円安が物価上昇を招く大きな要因となっている。

 金利を上げないことで我々が本来、物価に応じてもらえるはずの金利も、もらえていない。国民もそろそろこのあたりを意識する必要があるのではないかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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