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中国、森友学園問題をトップニュース扱い!

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
森友学園・塚本幼稚園(写真:ロイター/アフロ)

中国の中央テレビ局は森友学園問題を盛んに報道し、今ではトップニュース扱いだ。人民日報や新華社などのウェブサイトも転載。「背後に極右団体・日本会議」があるとして、安倍政権の右傾化批判の材料に。

◆中央テレビ局CCTVニュースでラインアップの中に!

3月に入ってから、中国の中央テレビ局CCTVは安倍政権の背後には「極右団体・日本会議」があるとして盛んに報道を繰り返していた。16日に籠池氏が「安倍総理による100万円献金」と発言してからは、その勢いが加速し、3月19日夕方のニュースからは、ニュースの主たる項目を最初に並べるラインアップでは、習近平国家主席とティラーソン米国務長官との会談や張高麗国務院副総理の中国発展ハイレベル・フォーラムなどの主要項目などに続いて「森友学園の籠池(氏)が、安倍(総理)から献金があったと述べた」ことを挙げた。

CCTVは中国共産党が管轄するテレビ局で、中国共産党中央委員会政治局常務委員(現在のメンバーを筆者はチャイナ・セブンと名付けている)のその日の特筆すべき行動を、党内序列の順番に報道することになっている。その他、中国を讃えるための内政状況などを報道し、最後の3,4分(長い時で5,6分)で海外のニュースを報道する。

よほど大きなニュースでない限り、チャイナ・セブンのニュースと同列にラインアップで海外のニュースを列挙することはあまりない。だというのに、19日夕方からの「党と政府の主要項目」と同列に森友学園問題を置き始めたというのは、それくらい「大きなニュース」扱いにしているわけだ。

たとえば2017年3月19日の北京時間19:00のCCTVのニュース番組「新聞聯播」をご覧いただきたい。ニュースが始まった22分45秒あたりから森友学園に関するニュースが始まり、25分25秒まで続く。2分半ほどの時間ではあるが、30分間のニュースの中で、2分以上を割くというのは非常に大きなことだ。

3月20日のCCTV昼のニュースでも、同様にラインアップで報道し、北京時間12:18から12:21まで詳細に伝えた。

具体的な内容の概略はこうだ(中国側の報道)。

――(16日に)籠池氏が「安倍総理の寄付金100万円があった」と述べたことに関して、(18日)毎日新聞は振込票のコピーを公開した。振込票には修正テープで消した個所があったが、下からライトを当てると、そこには「安倍晋三」という文字が透けて見えた。安倍記念小学校として開校されることになっていた小学校(瑞穂の國記念小學院)への寄付金だ。森友学園の背景には日本の極右団体・日本会議がある。安倍首相の妻の昭恵夫人は「瑞穂の國記念小學院」の名誉校長になっていたこともあり、昭恵夫人は何度も森友学園傘下の塚本幼稚園を訪れ絶賛している。

塚本幼稚園の背後には日本の極右団体・日本会議があり、この幼稚園では、教育勅語を園児に暗唱させたり、中国や韓国を敵視したりするなどの教育が行われている。教育勅語は日本の軍国主義の精神的核心になったものだ。日本会議の核心には安倍首相や稲田防衛大臣などがいる。

安倍首相は森友学園事件が起こった初期のころは、この幼稚園の教育方針を礼賛していた。しかし途中から自分は森友学園とは関係がないと言い始め、関係があるなら辞任すると国会で断言している。

稲田防衛大臣も初期のころ、自分は森友学園とはいかなる関係もないと言っていたが、のちに森友学園の顧問弁護士をしていたことが明るみになり、国会で謝罪している。

この事件の背景には土地の格安購入に関するスキャンダルがある。

23日には籠池氏の証人喚問があるが、安倍政権は今、危機に追い込まれている。

おおむね、このような内容だ。

なお、「(森友学園と)関係があるなら辞任する」と安倍首相が言ったのは、直接的にはあくまでも「この土地購入に関して便宜を図っていたなら」という流れだったが、CCTVの報道では、その部分は省略されている。

◆人民日報や新華社のウェブサイトも

中国共産党の機関紙「人民日報の電子版「人民網」は、「安倍の“森友災難”:“地価ゲート”が収まってないのに、“献金ゲート”がまた起きた」というタイトルで、CCTVのニュース番組を転載している。「ゲート」というのは「ウォーターゲート事件」以来、政府を揺るがすような大きな事件に対して付ける「事件名」である。

また同じく「人民網」は稲田防衛大臣に焦点を当てて、森友学園問題を報道したCCTVの番組を転載している。

中国政府の通信社である新華通信の電子版「新華網」は「“地価ゲート”のあとに今度は“献金ゲート”が来て、日本の首相は“森友災難”に直面している」というタイトルで独自の見解を報道。

先般閉幕した全人代(全国人民代表大会)とほぼ並行して開催されるために「両会」と呼ばれている人民政治協商会議のウェブサイト「人民政協網」も、「安倍、右翼学校スキャンダルに巻き込まれる」というタイトルで、新華網の報道を転載している。

◆朝鮮半島問題より森友学園問題が面白い――中国ネットユーザー

党や政府ばかりではない。

その他、民間のウェブサイトもCCTVのニュース番組を転載するなど、中国のネット空間は、森友学園問題で燃え上がっている。

最大手の検索サイトのトップページには3月20日、「バカップル昭恵&晋三」「日本私物化・絶賛進行中」などのプラカードを掲げた日本国民の抗議活動の写真度が貼り付けてある。

中国のネットユーザーは、朝鮮半島問題よりも、日本の森友学園問題の方が「おもしろい!」と思っているというムードが、ネット空間から伝わってくる。

「どっちが嘘をついているんだい?」「23日が楽しみだ」という書き込みもあれば、実際に中国の若者からの声もある。

中国政府としては、「右傾化している安倍内閣の背後には日本会議があるという何よりの証拠だ」と言いたいのだろうし、これにより「右傾化政権」の支持率が落ちてくれればいいと願っているのが滲み出ている。実際、3月20日の昼のニュースでは安倍首相の支持率が7%も落ちたという報道を強調していた。

森友学園報道の前後に、アメリカがTHAAD(サード)を日本にも配備しようとしているニュースが入っているのは、中国政府の思惑からだろう。

ただ、アパホテル問題のときも中国のネットは炎上したが、今回は「23日が楽しみだ」という、まるで競馬や宝くじの結果を待つ、「賭け事」のようなワクワク感を中国のネットユーザーが覚えているのを感じた。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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