通貨がいらない国、通貨が多い国、通貨が流出する国
2016年末現在、マイナス金利政策を導入しているのは日本とユーロ圏、そしてデンマーク、スウェーデン、スイスの中央銀行となっている。このうちデンマークやスウェーデンはキャッシュレス化が急ピッチで進んでいる。これはノルウェーなども同様で北欧諸国の現金通貨流通高はここ数年間が大きく減少している。これらの国に行く際は現金を持つ必要はない反面、クレジットカードなどがないとスウェーデンなどでは地下鉄に乗ることもできない。反対に少額の買い物でもカードで決済が可能となっている。
現金の流通を減らそうとしているのはこれら国々だけではない。韓国中央銀行は2020年までに硬貨を廃止する計画を立てている。韓国もカード決済システムが確立されているため、現金の決済率は低いそうである。硬貨製造や回収、管理コストなどのコストが軽減されるだけでもそれなりの経済効果が期待されるとか。
インドでは昨年、突然、高額紙幣が廃止されて大きな混乱を招いた。この処置は、インドでは国内でテロ行為を行っている過激派グループが、紙幣を大量に偽造し活動資金に充てているためとした。また市民の間でも、脱税目的の現金決済が行われているとされる。ただし、モンティ首相はこの措置についてキャッシュレス社会も念頭に置いているようである。
また欧州中央銀行(ECB)は2018年末で500ユーロの紙幣の発行を停止することを発表している。これらは犯罪に使われることを阻止するためのもので、マネーロンダリングに悪用されているとの懸念が高まっているための措置とされている。ただし。これに対し現金志向が強いドイツで廃止に否定的な意見が強かったようである。
世界的にキャッシュレス化が進むなかにあって、何故か現金の流通額が増えている国がある。それは日本である。12月に日銀は紙幣流通額が100兆4661億円と過去最高になったと明らかにした。100兆円を突破するのは初めてとなる。世界的にキャッシュレス化が進むなか、何故に日本の現金が増加しているのか。これは日銀のマイナス金利政策が影響しているようである。日銀のマイナス金利政策により金利が下がり運用先が見当たらなくなったことで、お札を銀行等から引き出し、自宅でためこむタンス預金が増えたことが背景にあるとされる。たしかに金庫が売れているとのニュースもあった。これにはマイナンバー制度の影響との指摘もある。
ただし、日本で現金が増加した背景にはそれだけ円の信用度が高いことも要因となっていよう。インドなどのように偽札が入り込む余地は少ないこともあるが、円そのものへの信認が高く現金で保管しようとのインセンティブが働いているとみられる。日本でキャッシュレス化が進みにくい背景にも円そのものへの信用度の高さがあるのではなかろうか。
これに対称的な国が中国となる。中国から海外への資金流出が2016年に過去最大になり、流出から流入を差し引いた金額は3千億ドル(約35兆円)超と前の年に比べ6割拡大した(日経新聞)。
M&Aなど直接投資で流出した面も大きいが、現金の海外持ち出し、地下銀行を通じた違法送金などもあったとされる。ビットコインが一時急騰したが、その取引の9割が中国であった。
中国当局はHIBORの翌日物金利を大きく上昇させて元の下落を防ごうとしたのは、ヘッジファンドの買い戻しを誘うためとされるが、年が変わると年間外貨両替枠が更新されて、中国からの資金流出が加速される恐れも懸念されていたことへの対処でもあった。