ゴルフの五輪・金メダリストに 全メジャー出場資格が与えられることの意義と可能性
【金メダルなら全メジャー】
今週は『ゴルフの祭典』マスターズがジョージア州のオーガスタ・ナショナルで開催される。世界のトッププレーヤーたちがグリーンジャケットを目指して熾烈な戦いを繰り広げる一方で、オーガスタはゴルフ関係者たちの絶好の社交場、アピールの場として“活用される”という一面もある。
米国時間4日の月曜日、オーガスタではマスターズ委員会のビリー・ペイン会長を筆頭にゴルフのメジャー4大会を主催する4団体の会長が勢揃いして会見を行なった。
発表された内容は、来たるリオ五輪でゴルフの金メダルを獲得した男女双方の選手にメジャー大会すべての1年間の出場資格を与えるというもの。
男子の場合は、リオ五輪以前に今年のメジャー4大会すべてが終了しているため、リオ五輪での金メダリストは2017年のマスターズ、全米オープン、全英オープン、全米プロに出場できることになる。
女子の場合は、リオ五輪後に開催されるエビアンと翌年のANAインスピレーション、全米女子プロ、全米女子オープン、全英女子オープンの5大会に出場できる。
ゴルフが五輪競技として復活するのは実に112年ぶりゆえ、五輪の金メダルと全メジャー出場資格を直結させた今回の決定は、現在のゴルフ界の誰にとっても大きな驚きである。
【金メダルに付加価値!?】
五輪のメダル、とりわけ金メダルは、それだけで栄えあるものであるはずだ。五輪に出場し、金メダルを手に入れることを生涯の目標に掲げて努力を重ねる選手は、ゴルフ以外の競技では、大勢いるはずだ。
それなのに、なぜゴルフにおいては、金メダルに、これほど大きな付加価値を付けたのか。
その理由は、いくつか考えられる。
112年ぶりの五輪競技への復活は、現実的には「復活」というより「初参加」に近い。「初」となるものには前例がないがゆえに、侃侃諤諤の論議と試行錯誤が付きものだ。
メダルを獲れば国旗掲揚と国歌斉唱が行なわれる五輪だというのに、ゴルフはなぜ団体戦ではなくストロークプレーの個人戦なのか。
五輪の時期にツアー競技が重ならないよう、今年は通常のツアースケジュールもメジャー4大会の開催もすべて前倒しの強行軍。そこまでして五輪に参加する意義があるのかどうか。
そもそもメジャー優勝を目指して腕を磨いてきた現在のプレーヤーたちにとって、五輪のメダルは何を意味することになるのか。
そんなクエスチョンマークが世界のトッププレーヤーたちから次々に投げかけられてきた中、その意義付けと魅力付け、モチベーション向上のために考え出されたのが今回の全メジャー出場資格付与だと言えるだろう。
【夢と現実の可能性】
その発表の場をオーガスタに設定したのは、冒頭で記した通り、それがゴルフ界においては最高のアテンションが得られる場所だからだ。
しかし、今回のこの決定、斬新ではあるものの、果たして誰にどこまで「ありがたがられるか」と考えると、少々首を傾げてしまう。
ゴルフの五輪出場資格は世界ランキング15位以内なら各国最大4名、16位以下なら最大2名、さらに5大陸から各々最低1人、開催国ブラジルが最低1人。男女それぞれ60名で競技が行われる。
ハイランクの選手揃いの米国などは世界ランキング一桁の選手ばかり4名が構成される可能性が高く、日本の場合は世界ランキングで現在15位前後に位置している松山英樹ともう1人ということになる。
だが、ゴルフが盛んではない国から出場する選手の世界ランキングは、「えっ?そんなランキングあるの?」と思えるほどの3桁数字になる見込みだ。
そんな中、可能性を論ずるならば、金メダルを手にするのは世界ランキング上位選手になる可能性が高く、そうなれば、すでにメジャー大会出場資格を他のカテゴリーで得ている可能性も高い。つまり、せっかくの今回の斬新な決定が、結果的には、あまり意味のない付加価値になってしまう可能性が高いというわけだ。
とはいえ、マスターズ前週のヒューストンオープンで優勝し、オーガスタへの最後の切符を手に入れたのが地味な38歳のジム・ハーマンで、彼の大会前の世界ランキングは191位だったことを思えば、リオ五輪でも世界のどこかからやってきた世界ランキング500位ぐらいの無名選手が金メダルを獲得し、翌年の全メジャー大会に出る可能性も、あると言えばある。
そんなシンデレラストーリーが生まれたら、ゴルフの魅力を全世界に知ってもらうことができるかもしれない。そう考えれば、今回の決定は本当に素晴らしい。
だが、ファンシーな夢の話ではなくリアルな現実に目をやったとき、栄えある金メダルにさらなる付加価値を加えなければ現在の世界のトッププレーヤーたちに振り向いてもらえないのだとしたら、それは少々淋しいお話で、リオ五輪から東京五輪へ向け、さらなる意義付け、魅力付けが求められるということになりそうだ。