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世界へ届け!モエレ沼発「北海道芸術花火」(2024/9/7開催)花火と音楽と景観が創る唯一無二の輝き

やた香歩里花火鑑賞士な旅ライター

2012年の初開催以来、「モエレ沼芸術花火」の名称で札幌の秋を彩ってきた芸術花火が、2024年より「北海道芸術花火」に生まれ変わりました。

モエレ沼公園独特の地形を活かしたこの花火大会は、「芸術花火」シリーズのなかでも歴史が古く、地元にも根付いたイベントになっていました。その「モエレ沼」の名称をあえて外し「北海道芸術花火」と名称を変更したのは、公式Xによると「北海道から世界へをテーマに、より北海道のポテンシャルを存分に生かした壮大な芸術花火を目指」すという理由から。

より大きく世界に意識を向けた、新生「北海道芸術花火」をレポートします!

好天に恵まれた当日

2024年9月7日(土)に行われた「北海道芸術花火」は、夏の暑さの少し落ち着いた、さわやかな初秋の気候の中で開催されました。

会場となるモエレ沼公園は、彫刻家イサム・ノグチ氏が設計を手掛けたことで知られる公園。緩やかな高さ30mの山・プレイマウンテンや、海の噴水が位置するカラマツ林周辺も打ち上げ場所になっています。

正面が「プレイマウンテン」、右手の林の奥に「海の噴水」が。
正面が「プレイマウンテン」、右手の林の奥に「海の噴水」が。

やや雲の多い空でしたが、こんな見事な夕焼けも見られました。

開場は16時、ステージイベントや肉フェスなど様々な出店もあり、早い時間から楽しめたのですが、私は残念ながら17時ごろにしか会場入りできず。

楽しそうなフードエリアを横目に見つつ、今回はカメラマン席を購入していたので、取り急ぎカメラマン席用の受付に向かいました。

「芸術花火」シリーズのカメラマン席は独特

「芸術花火」シリーズのカメラマン席は、他の花火大会と比べてちょっと特殊。普通、花火大会の撮影可能席(大体は三脚を立てての撮影が可能な席を指します)は、「カメラマン席」などとして席や場所を指定されますが、「芸術花火」シリーズでは、席の指定はないことが多いです。開催場所によって異なるのですが、ある程度エリアの制限はありつつも比較的自由に場所を選んで三脚を立てることができます。北海道芸術花火の場合は、客席後方に3つのカメラエリア(カメラマンチケット購入者のみ利用可能)が設定されていて、各々希望の場所に三脚を立てることができました。

観覧席後方のカメラエリアの1つから。
観覧席後方のカメラエリアの1つから。

また、花火打上前に当日の花火についての説明会があります。

購入者特典なので内容の詳細は伏せますが、打ち上げ筒のセッティングや曲ごとの演出のポイントなどの説明もあるので、ポイントとなる花火の打ち上げ位置や、●曲目ではワイドにくる、●曲目では大玉が…といった打ち上げのイメージをつかむことができます。とはいえ、私の場合は実際に始まってしまうと、「今、何曲目?」というところからわからなくなってしまうのですが(笑)

なお撮影に関する技術的な説明はないので、ある程度花火撮影経験があり、花火の知識もある方向きです。

ちなみに、説明会でも曲名は教えてもらえません。徹底して、始まるまで曲名が明かされないのも「芸術花火」流です。

そしていよいよ花火が始まる

すっかり日が暮れて、いよいよ花火の打ち上げ開始。

オープニングは、北海道を拠点に活躍中のヒューマンビートボックスクルー「4th GAS」とのコラボでした。「ヒューマンビートボックス」とは、人間がその口と鼻からの音声だけで行う音楽表現。楽器を使っていないとは思えないくらいの複雑な音の重なりを表現します。

今回は花火とのコラボということで、実際にステージで花火と呼吸を合わせたパフォーマンスを披露してくださいました。

高く打ち上げる花火は少なく、地上から吹き上げるトラの尾や小さめの花火が息を合わせて上がるような、カッコいいコラボ。

そして人間の音声だけなのに花火の音に負けないインパクトがあるのが凄いですね。

中央にステージ、そしてモニターがあります。
中央にステージ、そしてモニターがあります。

後方に位置するカメラマン席の悲しさで、ステージはもちろんモニターもほとんど見えないのが残念。ステージやモニターを見ることができた方は、ライブ感をしっかり楽しめたのではないかと思います。

そしていよいよ本編スタート!

オープニングアクトが終わり、開始を待っていると、おもむろにバイクの音?と思うと、音楽が始まりました。

1曲目は「Little Mix」(Power)。イギリスのガールズグループの曲です。私は音楽には疎く、よほどの流行曲でなければ知らないのですが、力強く艶やかな女性ヴォーカルが心地よく、知らない曲でもすっとその世界に入っていけました。

ところで、「芸術花火」シリーズの打ち上げ方は独特です。

花火大会でよく見るのは、下層(地上付近)からトラの尾などの吹き上げ型の花火が上がり、中層に小さめの花火、そしてその上に大きめの花火が開くという、下の写真のような構図だと思います。

2021年3月開催の「大曲の花火 冬の章」にて撮影。
2021年3月開催の「大曲の花火 冬の章」にて撮影。

芸術花火シリーズではこのように定番の打ち上げはあまりありません。「え、今そこから上がる!?」とか、「あれとそれ、重ねちゃう!?」なんていうこともあり、シャッターを切るタイミングも難しく、なかなか撮影者泣かせでもあります。

右側に集中して画角とタイミングを合わせていたら左端からスーッと上がっていく花火が…(1曲目「Little Mix」)
右側に集中して画角とタイミングを合わせていたら左端からスーッと上がっていく花火が…(1曲目「Little Mix」)

そういう意味でも、事前にある程度イメージがつかめる説明会があるのはありがたいですね。

カメラマン席購入者向け説明会でよく言われるのが「コレオグラファーの大矢亮氏は曲のリズムではなくボーカル(の感情)に合わせている」ということ。

人によって好みが分かれるところではあろうと思いますが、私はそういう意外性を面白いと思います。

右と左で全く雰囲気が違いますが、合成ではなく一発撮り(露光時間は6秒)。(2曲目「September」)
右と左で全く雰囲気が違いますが、合成ではなく一発撮り(露光時間は6秒)。(2曲目「September」)

今回はかなり打ち上げ場所がワイドで、思いがけず右端や左端から大玉が上がったりもするので、撮影はやはり難しかったですね。

地上から吹き上がる花火が、音楽にあわせてくるくる踊るよう。(2曲目「September」)
地上から吹き上がる花火が、音楽にあわせてくるくる踊るよう。(2曲目「September」)

小高い丘や森など、普通は花火の打ち上げには不向きと思われそうな地形を取り込んで、唯一無二の景観をつくりだしているのも、このモエレ沼改め「北海道芸術花火」の特徴で、面白いところでもあると思います。

プレイマウンテンの、山頂に向かって縦に配置された花火が光る。3曲目の「Bling-Bang-Bang-Born」(Creepy Nuts)。
プレイマウンテンの、山頂に向かって縦に配置された花火が光る。3曲目の「Bling-Bang-Bang-Born」(Creepy Nuts)。

邦楽・洋楽、男性ボーカル・女性ボーカル、最新曲からちょっと懐かしい曲まで、多彩な音楽に乗せてプログラムは進んでいきます。

5曲目「さよなら夏の日」(山下達郎)ではゆったりとした曲調に合わせ大玉も。
5曲目「さよなら夏の日」(山下達郎)ではゆったりとした曲調に合わせ大玉も。

個人的に印象に残ったのは、4曲目「進め!そっちだ!」(和ぬか)。きっとCMで耳にした方が多いのではないでしょうか? 全体にワイドでカラフル!

通路の奥に向かって花火が並んでいるのがわかります
通路の奥に向かって花火が並んでいるのがわかります

曲に合わせてハイペースでトラ打ちや星打ちが地上を駆け巡ります。扇形の大きくて華やかなトラ打ちに大きな歓声が!

7曲目「愛は勝つ」は、言うまでもなく、2023年に逝去されたKANさんの大ヒット曲。通常よりもゆったりしたバージョンでした。

尺玉を含む、美しい大玉がたくさん上がりました。

「芸術花火」シリーズでは、様々な煙火店の玉が上がるので、詳しい方なら「今の玉は●●煙火店の■■■だな」と判別できます。

私はいまいち自信がないのでここには書きませんが、それでも「あー、今の玉は…」と思うものはあり、それも「芸術花火」シリーズの1つの楽しみ方だと思います。

9曲目の「唱」(ado)は、昨年から花火大会で多く使われている曲。この歌の、エネルギッシュだけど混沌とした世界が、変化の多い花火玉や、多彩なパターンの地上からの吹き上げ花火で表現されていました。

光がイルミネーションのように動いたり変化したりする花火も多く使われていました。
光がイルミネーションのように動いたり変化したりする花火も多く使われていました。

個性的な花火玉がたくさん使われていて面白かったですね。

10曲目の「Pour Que Tu M'aimes Encore」(il Dive)は一転してゆったりした、旋律の美しい曲。

このように行儀よく整列するのは「芸術花火」ではむしろ珍しいかも…
このように行儀よく整列するのは「芸術花火」ではむしろ珍しいかも…

スローテンポな曲に合わせ、ある意味落ち着いた打ち上げ。1つ1つの花火の美しさをじっくり味わえます。

そして11曲目は、再びアップテンポの曲、地元北海道出身の玉置浩二さん「JUNK LAND」でした。全国各地で開催される「芸術花火」シリーズでは、その土地出身やゆかりのアーティストの曲が取り上げられることがよくあるので、GLAYか松山千春か安全地帯あたりかな?と予想していましたが、玉置浩二さんで来ましたね。

左右を広く使っていたので、画角に収まりません。一応、超広角15mm程度のレンズですが歯が立たないワイドさなので、若干カメラを左右に振っています。

説明会でも11曲目は物量が相当多いという話でしたが、確かに圧倒的。

最後は金色の花火が視界を埋め尽くすフィナーレっぽい展開だったので、これで終わり?と思った方も多かったかもしれませんが、もう1曲ありました。

ラストはアメリカのセレーナ・ゴメス「Lose You To Love Me」。

まるで波紋が広がるように、同じフレーズ空気を震わせ、会場の高揚感を少しづつ鎮めていくようです。プレイマウンテンのゆるやかな稜線を反映した花火も、揺らぐような音の響きに共鳴しているよう。

最後は、ピアノの響きが消えるのと同時に、花火もすーっ…と消えていきました。

そしてすべての花火打上が無事に終了しました。

多彩な曲と花火のコラボは緩急のついたプログラムで、あっという間の60分でした。今回はこれまでの「北海道(モエレ沼)芸術花火」で最高の花火の量ということでしたが、確かに今まで私が見た「芸術花火」シリーズのなかでも屈指の密度の濃さだったように思います。より世界へアピールしたいと考えての名称変更とのことですが、日本の花火の美しさ、さらなる表現の可能性を世界に見せつける、力の入ったものになっていたと思います。

なお、セットリストや、今後の参考のために今回の開催概要を確認したい方のために、「北海道芸術花火2024」の公式サイトのリンクを下に貼っておきます。

「北海道芸術花火2024」公式サイト

今後の芸術花火の開催予定

年内の芸術花火は、記事執筆時点で以下の日程での開催が予定されています。プログラムは会場によって変わり(おそらく重複する選曲はないかと…)、花火開始前にはその地域ならではのイベントも行われます。お近くの方、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

いずれも全席有料の花火大会で、販売が終了している券種もあるので、早めにチェックしてくださいね!

【東北未来芸術花火2024】
開催日時:2024年9月28日(土)18:30~(開場は14:00)
※雨天決行、荒天時中止。
開催会場:宮城県亘理町 鳥の海公園
アクセス:JR亘理駅発着のシャトルバス、JR仙台駅発着のリムジンバスあり
「東北未来芸術花火2024」公式サイト

【大阪芸術花火2024】
開催日時:2024年11月2日(土)18:00~(開場は15:00)
※雨天決行、荒天時中止。
開催会場:大阪府泉佐野市 りんくう公園特設会場
アクセス:JR・南海りんくうタウン駅から徒歩約10分
「大阪芸術花火2024」公式サイト

花火鑑賞士な旅ライター

宮崎生まれの大阪育ち。人生の約半分を京都で過ごし、現在は千葉在住。もとからの旅好きが、関東移住を機に花火にはまり、旅の目的に花火鑑賞が加わりました。遠くへの旅行も好きだけど、身近なお出かけも好き。どこかで見た素敵なものを、誰かに伝えたい。知って欲しい誰かと知りたい誰かを繋ぎたい。日本酒ナビゲーターで温泉ソムリエで花火鑑賞士な旅人。

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