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検事の自殺、原因は過酷な超勤か上司の理不尽な叱責か?国賠訴訟で真相解明へ #専門家のまとめ

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

2019年に29歳だった広島地検公判部の男性検事が自宅で自殺しました。任官数年の若手でしたが、超過勤務が月100時間を超えるなど多忙を極め、法務省も昨年9月に公務災害に認定したほどです。問題は自殺の原因が単なる過酷な超勤ではなく、上司だった次席検事による理不尽な叱責にあったのではないかという点です。遺族が約1億7千万円の損害賠償を求めてことし9月に国賠訴訟を提起しており、今後の推移が注目されます。

ココがポイント

「上司から『話にならない』『修習生以下だ』などと机を何度もたたかれながら大声でまくし立てられ、侮蔑的な叱責を受けた」
出典:毎日新聞 2024/10/18(金)

「自殺の6日前には『(検察官になったことを)間違ったかな』、4日前には『色々疲れたわ』とのメッセージを別の知人に」
出典:産経新聞 2021/3/17(水)

「法務省が(中略)公務災害と認定」「遺族側が訴えていた上司による叱責などに関しては判断を示さなかった」
出典:JIJI.COM 2023/12/4(月)

「2018年~2019年の2年間だけでも4人の検事が自ら命を絶ち、過去10年間にさかのぼればその数はさらに増える」
出典:東洋経済ONLINE 2021/1/6(水)

エキスパートの補足・見解

2011年に最高検が出向者を除く全ての検事を対象とした無記名の意識調査を行いましたが、実にその約26%が上司から実際の供述とは異なる特定の方向での調書作成を指示されたことがあると回答しています。

自由記入欄に「幹部や決裁官の中には、その立場にふさわしくない人がおり、人事評価や人事配置に疑問を持っている」「幹部の中には、苦労を十分に把握しないまま、頭ごなしの物言いをする者がいる」などと書いた検事もいたほどです。

このほか、不正行為を内部通報したり、パワハラ・セクハラの被害を直訴したりすると、人事上の不利益を被る可能性があると感じる割合が若手検事を中心に高いことや、都市部か地方かを問わず、裁判員裁判の準備などに追われ、深夜勤務や休日勤務を繰り返している実態も明らかになりました。

検察改革の参考にするための意識調査でしたが、その後も検察を取り巻く環境は大きく変わっていないように思われます。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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