日銀総裁は嘘をついても良いのか
1月29日の日銀金融政策決定会合ではマイナス金利の導入を決定した。しかし、黒田総裁はマイナス金利についてこれまで「検討していないし、考えが変わることもない」と国会などの場で否定し続けてきた。
結果として黒田日銀総裁は嘘をついたことになる。国会の場で嘘を付くのはやや問題もありそうだが、これを咎めるような発言もみられない。これは何故なのであろうか。
その昔、解散と公定歩合は嘘をついても良いと言われたことがある。いまでも国会議員など口にすることがあるようだが、これは法律とかで明文化されて認められたものではない。国会議員を中心にそのような認識を持っているといったものである。
子供には嘘をついてはいけないと教えながら、何故、公定歩合と解散は嘘をついても良いと言うのか。それは公定歩合も解散も国にとり非常に重要なものであるが、その決定権は一部の人間が握っていることと、サプライズが重要であるためと思われる。
公定歩合というのは昔の日銀の政策金利のことである。これは日銀の金融政策のことを意味する。つまり今回のマイナス金利政策もこれに該当する。これを決定するのは日銀であり、しかも限られたメンバーにより決定される。現在は9名の政策委員の合議制により決められている格好ではあるが、ある程度、日銀総裁が主導権を握って政策を決定していると見てよい。
これに対して衆院の解散権については首相が持っている。これは憲法の解釈によるものとなるが、とにかく首相が衆院を解散すると言えば解散される。この決定権は首相だけが持っているため、解散を宣言するまではこのことについては言質を避けることになり、それが嘘をついても良い、との表現に変わったものと思われる。むろんサプライズというか野党の隙を突くため、解散は考えてないと事前に発言することも多々あろう。
中央銀行の金融政策もしかりである。基本としては金融緩和に関してはサプライズが有効である。金融政策は直接、景気や物価に働きかけるというよりも、株式市場や外為市場、そして債券市場を通して効果が発揮される。29日の日銀のマイナス金利の発表で長期金利が急低下したように市場はサプライズの方が大きく動く場合が多い。これに対して金融引き締めは市場の動揺をなるべく抑えるため、時間をかけて事前に市場に織り込ませることが必要になる。12月に米国の中央銀行であるFRBが利上げを決定したときも、かなりの時間をかけてその可能性を織り込ませてきた。
それではなぜ、黒田総裁は今回、検討していないとしていたマイナス金利を導入したのか。黒田日銀総裁は29日の会見において、1月20~23日のスイスで開かれたダボス会議の前に、帰国後仮に追加緩和を行うとしたらどういうオプションがあるか検討してくれと指示していたことを明らかにした。企画と呼ばれる部署の一部でそれが検討され、出た回答が今回のマイナス金利となったわけである。
量の大規模な拡大には無理があるが、かといってECBのように政策目標を金利に戻すことは、量的緩和の効果を自ら否定することになりかねない。量も維持しながら、金利も加えることであたかも武器をもうひとつ足したような格好にして、量の効果の説明はさておき、何気なくマイナス金利政策を導入し、今後はこのマイナス幅を拡大できることで緩和余地も拡げるという、なかなかの策を講じたものである。
これは確かに金利には効果がありそうで、現実に長期金利は低下したが、これで物価目標の達成が可能になるかといえば、話は別となる。日銀は29日の展望レポートで物価目標の達成時期をそれまでの2016年度後半から2017年度前半に先送りしている。