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停電発生時、取るべき対応は? 身の安全を守り乗り切るポイント

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
停電で明かりの消えた街(イメージ)(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

九州を中心に甚大な被害が出た「令和2年7月豪雨」。一時的に1万戸以上が停電に見舞われたとの情報もあります。近年では、2018年9月に関西地方を襲った台風21号で延べ約220万軒が停電、同月の北海道胆振東部地震では道内全域が停電となるブラックアウトが発生しました。昨年9月には台風15号で神奈川・千葉両県を中心に最大93万戸が停電し、完全復旧には実に1カ月以上かかりました。

豪雨や台風など災害時の停電は、そもそもなぜ発生し、どのように対応すべきなのか。梅雨は過ぎても台風シーズンに発生する可能性があり、備えが必要です。

停電はなぜ起こる

停電の発生原因はさまざまです。 落雷により電線・変圧器等の電気を送るための設備が損傷したり、大雪により電線近くにある高い樹木の幹や枝が雪の重みに耐えきれず電線に倒れかかったりすることで発生します。

このほか台風や暴風により飛ばされた飛来物で電線が損傷する、大雨の影響で発生した土砂崩れによって電柱が倒れる、地震による地面の液状化や家屋倒壊の影響で電柱や電線、地中に埋設しているケーブルが損傷する、といったことも原因になり得ます。

海に近い地域では、塩分を含んだ強い潮風が設備に吹きつけ停電を起こすこともあるようです。2006年には、クレーン船のクレーンブームが旧江戸川上空を横断する送電線に接触し、東京などで大規模な停電が起きました。

停電で起こりうること

今や私たちの生活に電気は欠かすことができないものです。その電気がもしも突然止まってしまったら、どんなことが起こるのでしょうか?

・電灯の明かりはもちろん消えます

・固定電話は、昔の黒電話以外は使えなくなります

・パソコンのインターネットも、ルーターやWi-Fiが使えなければつながりません

・公共交通は途絶し、道路交差点などの信号は消えます

・店舗は 陳列棚の冷蔵や冷凍が切れ、レジも使えなくなり閉店が相次ぎます

・非常用発電施設がないガソリンスタンド、ATM、その他多くのサービスが停止します

・ガスや水道の供給が止まる可能性もあります

・夏季、エアコンが使えず熱中症の危険が高まります

・冬季、寒冷地では水道管や給湯器の配管が凍結する場合があります

・防犯システムやガス漏れ警報機は作動しない場合があります

・酸素呼吸器など電源を使う医療機器を身につけている人は、生死にかかわる事態になりかねません

事前にできる対策

こうした事態に備えるには、具体的に何をすればよいのでしょうか。

台風などの場合は、停電を予測して備えることが可能です。例えばご飯を多めに炊いておく、お風呂や洗濯を先に済ませておく、冷蔵庫は低めの温度に設定しておく(停電しても温度を保てるように)ことなどで、停電後に使う電力を減らすことができます。スマートフォンやその他予備バッテリーを充電しておくことも大切です。

地震などにより突然発生した場合、こうした対策を取るには限界がありますが、例えば、スマートフォンなどはこまめに充電しておきましょう。車をお持ちなら、普段からガソリンや軽油をなるべく満タンにしておくことで、停電時には有効なバッテリーとして活用することができます。また、電動自転車のバッテリーをポータブル電源として使える製品も出ています。

このほか、停電対策向けにソーラー発電、人力発電装置、蓄電装置などさまざまな製品が販売されています。 保証内容などをよく確認して購入し、平時から実際に使ってみることが大切です。また、使い方がわかる人が不在でほかの誰も使えないという事態を避けるため、使い方を家族で共有しておきましょう。

停電時の注意点や有効な対策

いざ停電が発生した場合は、まずは自分の安全を確保し、被害を拡大させないこと。その上で生活のことを考えましょう。

 画像制作:Yahoo! JAPAN/原案:中澤幸介
画像制作:Yahoo! JAPAN/原案:中澤幸介

(1)身の安全を確保する

まず大事なことは安全の確保です。突然の停電により、夜なら真っ暗になります。懐中電灯を身近な場所に置いておくことは防災の基本ですが、見える範囲は限られるため周囲に十分注意してください。慌てて動き回れば、つまずいて思わぬケガをする危険性があります。

たとえば地震の時は、まだ揺れが襲ってくる可能性もあります。身を低くして頭を覆い揺れが収まるのを待ちましょう。

外出中なら、信号機が突然消灯することが考えられますので、夜に限らず走行中の車への注意が必要です。

(2)被害を拡大させない、別の被害に巻き込まれない

次に考えるべきことは、被害を拡大させない、あるいは別の災害に巻き込まれないようにすることです。周囲の状況が危険でないかを確認します。ラジオやスマートフォンがあれば、必ずニュースや行政からの注意情報を確認するようにしてください。

ローソク火災に注意

明かり取りにローソクを使う方もいますが、災害を起因とする停電の場合、ガス漏れがあったり、地震なら余震も起こりますので、火を使うことは十分気を付けてください。

一酸化酸素中毒に注意

可搬型のエンジン発電機は便利ですが、排出ガス中に高濃度の一酸化炭素を含むため屋内やテント内での使用は厳禁です。北海道の胆振東部沖地震でも一酸化炭素中毒で亡くなられた方がいました。同様に、暖房や調理のため室内で七輪などを使用することは極力避けてください。またカセットコンロや石油ストーブなどの燃焼器具を使用する場合は、定期的に十分に換気しましょう。

熱中症や食中毒に注意

夏なら熱中症の恐れがありますから、室内の温度が高くなるようなら窓を開け、風通しを良くします。ただし高気密高断熱の住宅で、窓を開けない方が室内の温度を保てる場合もあります。室内が高温にならないよう状況に応じて対処しましょう。停電が長期間にわたる場合には、食品の腐敗により食中毒などの危険も高まるため食事には十分注意してください。

復旧時の通電火災に注意

停電解消時の通電火災を防ぐため、アイロンやドライヤー、電気ヒーターなどの電熱器具・装置はプラグをコンセントから抜いておきましょう。家を離れる際にはブレーカーを落としてください。

犯罪被害に注意

防犯にも注意が必要です。被災地では停電中の性犯罪や盗難事件が報告されています。暗闇ではなるべく一人で出歩かないこと。戸締まりはしっかり行うこと。大切なのは、停電時の行動1つ1つが、別のリスクをもたらすということを覚えておくことです。

(3)生活に必要な電源を確保する

安全を確保して被害の拡大防止に十分注意した上で、生活に必要な電気を確保します。とは言っても、停電時にコンセントから電気を調達することはできません。発電機があればいいですが、無い場合には、なるべく電気を使わないよう心掛けましょう。内蔵バッテリーや電池で動く電気機器は、節電しながら重要度・優先度を考えて使うことが大切です。

スマホは節電、冷蔵庫は開閉控える

スマートフォンは画面をできるだけ暗くし、画面の自動オフまでの時間を短くします。低電力や省電力モードがあればそれを選択し、ブルートゥースを切ったり、余計なアプリを落とすことも有効です。冷蔵庫はなるべく開閉しないことで冷気を保ち食べ物をより長く保存することができます。

自動車の空間や電源を活用

また、停電の時に有効なのが自動車です。熱中症の恐れがあれば車に入って車載エアコンで暑さをしのげますし、ラジオも聞けます。本来はたばこに火をつける装置である「シガーソケット」から電気を取り出せます。12ボルト の直流の電流が流れていて、ここにUSBソケット変換アダプターを差せば、USB端末の端末(スマートフォンやタブレット)類は使えます。

シガーソケットに差し込むタイプのインバーターを利用すれば、家庭と同じ100ボルトの交流電源に変換でき、家電が使えます。使える電力の量はインバーターの出力と車のヒューズの容量によって決まります。ヒューズが壊れると買い替える必要がありますから、出力の大きな家電には使わないことがポイントです。

ちなみに、使用したい電気製品の消費電力や起動電力は、車に限らずあらゆる発電機を使う際に確認すべきことです。

また1500ワットや3000ワットのインバーターを車のバッテリーに直接つなぐ方法もあります。一方、ハイブリッド車の多くには、100ボルト・1500ワットまで使える電源が標準(またはオプション)設定されており、これでほとんどの家電を使える可能性があります(詳しくは車の説明書など読んでください)。

電気自動車なら「V2H」で

電気自動車をお持ちなら、車から電気を引き込むV2Hという方法があります。「クルマ(Vehicle)から家(Home)へ」を意味するこの言葉は、電気自動車に蓄えられた電力を、家庭用に有効活用する考え方のこと。一般的な電気自動車は、家のコンセントから電気をもらって充電しますが、V2Hがある場合は、電気自動車の大型バッテリーを自宅の蓄電池のように扱うことができ、停電が起きた場合にもかなりの家電製品を使えるようになります。

心身に負担をかけず復旧を待つ

こうした注意や対策を強いられる中で、停電はいつまで続くのか、は何より気になる問題です。 電力会社などから発表される復旧のめどは、正確でない場合も少なくありません。長期間に及ぶことも想定し、なるべく心身に負担をかけないよう心掛けながら復旧を待ちましょう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。国内外500を超えるBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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