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新しいデザインの1万円札にどのようにして切り替えられるのか

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 財務省は9日、千円、5千円、1万円の紙幣(日本銀行券)を2024年度上半期に一新すると発表した。紙幣のデザインの変更は2004年以来、20年ぶりとなる。

 具体的にいつ新しい紙幣が発行されるのかは発表されていないが、2024年度上半期に新たな千円、5千円、1万円の紙幣が発行され、2021年度上半期をめどに500円硬貨も刷新すると発表された。それでは実際にどのようなかたちで新しいお札が発行されるのかを見てみたい。

 お札、つまり日銀券の発行額は、世の中でどれだけお札に対する需要があるかによって決まる。銀行券を用いて支払いを行った場合には、相手がその受取りを拒絶することができないという「法貨としての強制通用力」を持っている。さらに日銀券は支払った段階で、当事者間での決済が完了するという「支払完了性」を有するとともに、誰が何の目的でどの場所で、どのように使ったのかわからないという意味で「匿名性」を有している。

 使い勝手が良いものの、紛失の危険性があるとともに、保管や搬送に費用がかかるという欠点を持っている。もちろんこれは財布で持ち歩けるとか貯金箱に入れるといった金額での話ではなく、企業や金融機関などでの億円単位の取引などを想定している。

 日銀法の第46条に、「日本銀行は、銀行券を発行する」とあり、さらに「日本銀行が発行する銀行券は、法貨として無制限に通用する」とされている。同法の第1条にも「日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする」とある。日銀は日本における唯一の発券銀行となっている。

 日銀による通貨の発行とは、金融機関が個人や企業への支払に必要な銀行券を用意するために、日銀の当座預金を引出して、日銀の本支店の窓口から銀行券を受取ることによる。つまり日銀から見て、日銀の窓口から銀行券が世の中に送り出されることが、日銀にとっての銀行券の発行となる。

 個人や企業は、モノを購入したりサービスを受けたり、金融取引の決済や、納税といったかたちで銀行券を企業や金融機関、政府に支払う。個人や企業は保有している銀行券の一部を、預金として金融機関に預けたりもする。

 金融機関はこのように受け入れた銀行券のうち、個人や企業への支払いなどに必要としない分の銀行券は、日銀の本支店の窓口へ持ち込み、日銀の当座預金口座に預け入れる。このようにして銀行券が日銀に戻ってくることを銀行券の還収と言う。

 日銀はこうして窓口に持ち込まれた銀行券を鑑査し、再度の流通に適するかどうかのチェックを行い、流通に適さないものは破棄し、適するものは新品の日銀券とともに日銀の窓口から再び支払われる。新しいデザインの紙幣の発行は日銀の窓口から再び支払われる際に、新デザインの紙幣が使われることによって行われるとみられる。

 前回、2004年11月の新紙幣発行の際には、翌年の8月時点で1万円札の切り替え率は55.8%にとどまっていたと日銀が発表していた。その後の動向は掴めないものの、一部はいわゆる「タンス預金」として保存されていた可能性がある。記念に保存したりすることも想定されることで、新しいデザインのお札にすべて切り替わることはないと思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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