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いまだに議員対応の8割がFAX。霞が関の働き方改革を求める署名活動、霞ヶ関深夜閉庁要求運動とは

白河桃子相模女子大特任教授、昭和女子大客員教授、少子化ジャーナリスト
Pexelsのcottonbroによる写真

民間から「霞が関の働き方改革」への署名活動が立ち上がった

 日本の残業の震源地ともいえる霞が関・永田町の働き方改革の加速を求める民間からの署名活動が立ち上がりました。私も19人の発起人のひとりです。

 なぜ霞が関なのか? それは日本の残業の震源地だからです。2019年に働き方改革関連法が施行され、長時間労働が常態化していた日本の働き方が変わり、民間企業はAIやRPA(Robotic Process Automation)を導入、デジタル化による業務効率化が進んでいます。さらにコロナ対応による急速なテレワークの拡大。日本の働き方は大きく変わろうとしているのに、唯一変化を見せないのが「霞が関・永田町」です。

 緊急事態宣言後の内閣府の調査「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」では、テレワーク経験は34%、東京23区に限っては55%で、テレワーク経験者からWLB(ワークライフ・バランス)、仕事意識、地方移住などに対する「意識変容」が起きていました。

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図:内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」より

官僚と議員のやり取りはFAXが8割超 変わらない霞が関・永田町

 2020年6月~7月に実施された「コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査」(株式会社ワーク・ライフバランス調べ)によると、議員対応がある官僚のうち83%が電話やオンラインに移行せず対面での打合せを求められたためテレワークできず、4割が100時間を超える残業、300時間を超えている官僚もいました。また、86%が「議員とのやり取りはFAXだった」と回答しています。

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図:ワーク・ライフバランス:【プレスリリース】コロナ禍における政府・省庁の働き方に関する実態調査より

 私は4月に沢渡あまねさん(業務プロセス/オフィスコミュニケーション改善士)と対談していますが、数多くの企業のコンサルをする沢渡あまねさんも「省庁とやりとりがある民間企業の部署は業務効率化、デジタル化ができない」と危機感を訴えていました。

 霞が関も変わろうという動きがなかったわけではありません。女性官僚有志が立ち上がり、働き方の実態をアンケートをとって、30ページの提案書を作って改善を訴えたのは2014年です。自身の経験を「子供ができた時、嬉しいという気持ちと、この先仕事が続けていけるのかという不安で涙が止まらなかった」と涙ながらに語る女性官僚もいました。私が霞が関の働き方が「このままでいいわけがない」と強く思ったのは、これがきっかけです。また、国家公務員の若手の3割が女性です。彼女たちがライフイベントに直面してやめてしまったら、もう仕事は回らないでしょう。

 何よりも政治は「みんなのこと」を決める場所です。女性が少ないというだけでなく、「ライフは犠牲にして、ワーク&ワークで24時間対応できる」という人だけが働く場所にでは多様性が失われます。本当の多様性とは働き方の多様性に宿るのです。

 2016年は官民による「霞が関の働き方改革を加速するための懇談会」が河野行革担当大臣の主導で立ち上がり、民間企業と一緒に子育て世代の若手官僚も委員として参加するという画期的な会議がありました。私もそのメンバーでしたので、霞が関・永田町の非効率的な働き方、デジタル化の遅れにより、子育て世代の30代が特に疲弊していることがよくわかりました。

 知り合いの国家公務員の方が退職したり、またメンタル不調になって休職するようなこともありました。ギリギリで頑張っている人もたくさんいます。そろそろ、人を「壊していく」ような非人間的な働き方は限界です。

 その後も「働き方改革」への動きはあるものの、抜本的な改革、デジタル化にはほど遠く、カウンターパートでもある国会議員自体がアナログのままです。この度の新型コロナ肺炎で、ついに対処が困難になったという印象です。つまり危機対応に非常に弱いのが日本の中枢なのです。

 菅政権となり、再び河野大臣が行革担当として「ハンコの廃止」など、今までにないスピードで改革を進めています。一方、こんな官僚からの悲鳴もあがります。「今のままのシステムでリモート化は難しい。メモリは8GBでOutlookを開きながら、Excelで作業してWord文書も作るとなると厳しい。また共有フォルダなので、誰かが共有のExcelファイルを開いていると作業できないので、閉じてくださいというメールが飛び交う」省庁のサーバが非力なために起こる悲喜劇ですが、すべての刷新が早急に必要でしょう。

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図:白河桃子作成

霞が関のデジタル化が進まないことによる問題

 それでは、霞が関のデジタル化が進まないことで、どういった問題を引き起こすことになるのでしょうか?

1 多大な税金の無駄遣い

 慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆特任教授の分析によると(「霞が関の働き方改革に向けて~ICT を活用した長時間労働是正と生産性向上~」慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授 岩本 隆)、国会期間のための官僚の残業代だけで102億円かかっています。実際の残業時間は公表データの3倍ともいわれていますが、業務フローの改善とデジタル化により大幅な時間の削減が見込まれます。まず官僚の労働時間に対して適正な支払いをすべきです。

 さらに深夜にタクシーで帰宅する費用が22億円かかっています。22時という終電を逃さない時間に帰宅できることにより、浮くはずのこの費用をコロナ対策等の国民生活の改善に使ってください(参考:官僚の残業代は102億円が削減できる 庁内診療所は3週間先まで予約一杯|BUSINESS INSIDER)。

2 国全体のデジタル政策の遅れの原因

 何時だろうと対面が優先される中では、オンライン会議やテレワーク、ITツールの導入も進みません。効率を犠牲にした政府・省庁の長時間労働が、日本全体の「対面での会議、紙資料・FAX・印鑑をベースにした作業、脆弱なネットワーク環境・ハード環境の整備の遅れ」を引き起こしていると言っても過言ではないでしょう。

3 国家を担う人材の流出・質の低下

 働き方が原因で優秀な人材が国の仕事を離れ、体調を崩して辞めています。政策の質が低下し、国益を大きく損なうことにつながります。

4 民間企業の残業の原因

 省庁からの深夜のメール、短納期の依頼が各企業に発信され、その依頼に対応するため大企業が中小企業にさらなる短納期の依頼をするといった構造があり、霞が関・永田町が日本の残業の震源地となっています。

5 行政ミス・パワハラ・不祥事の温床に

 過重労働や睡眠不足は、パワハラ・セクハラ・不祥事等のモラル崩壊の引き金となります。省庁の過酷な労働環境から、こうしたハラスメント体質が生まれ、それが民間企業へ伝播していくことに。

河野太郎大臣に国民の署名を届けたい

 今回、同じ問題意識を抱える有志で、日本の残業の震源地ともいえる霞が関・永田町の働き方改革の加速を求めていくべく、広く一般の方の声を署名として集め、11月下旬、河野太郎行政改革担当大臣と各省庁の大臣に届けることにしました。私も発起人のひとりです。

 このプロジェクトは「#霞ヶ関深夜閉庁要求運動」と名付けられています。「22時以降は誰も省庁に残っておらず、説明に呼ぶにはWEB会議をするしかない」という状況になれば、アナログな政治家もついにデジタル化せざるを得なくなります。そしてようやく、政策にITが適切に活用されることでしょう。また、ボトルネックとなっている国のデジタル化が進むことで、日本全体の働き方の変化も劇的に加速するでしょう。

署名サイト:各省庁を22時から翌朝5時は完全閉庁し、緊急の業務はテレワークで行う体制を作ってください。

相模女子大特任教授、昭和女子大客員教授、少子化ジャーナリスト

東京生まれ、慶応義塾大学。中央大学ビジネススクール MBA、少子化、働き方改革、ジェンダー、アンコンシャスバイアス、女性活躍、ダイバーシティ、働き方改革などがテーマ。山田昌弘中央大学教授とともに19万部超のヒットとなった著書「婚活時代」で婚活ブームを起こす。内閣府「男女共同参画重点方針調査会」内閣官房「第二次地方創生戦略策定」総務省「テレワーク普及展開方策検討会」内閣官房「働き方改革実現会議」など委員を歴任。著書に「ハラスメントの境界線 セクハラ・パワハラに戸惑う男たち」「御社の働き方改革、ここが間違ってます!」「『逃げ恥』にみる結婚の経済学」「女子と就活」「産むと働くの教科書」など多数。

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