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開幕戦ドタキャンから1週間。 今度はベンチャービジネス立ち上げを突然発表したタイガー・ウッズの可能性

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
「僕のゴルフは脆い」と言ったばかり。ビジネスの土台は脆くはないことを祈りたい(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

タイガー・ウッズが米ツアーの新シーズン開幕戦をドタキャンしてから、ちょうど1週間が経過した10月17日(米国時間)。今度はウッズが新しいベンチャービジネスを立ち上げるというビッグニュースで米ゴルフ界は持ちきりになった。

新ビジネスに向けてアドレスしたウッズ。どんな球が打てるのか?(写真/舩越園子)
新ビジネスに向けてアドレスしたウッズ。どんな球が打てるのか?(写真/舩越園子)

【TGRって何だ?】

先週の米ツアー開幕戦、セイフウエイオープンで14か月ぶりの試合復帰を果たすはずだったウッズは、開幕3日前になって「戦う準備が整っていない」という理由で、突然、WD(Withdraw=棄権)。ファンも関係者も肩透かしを食らい、大いに落胆させられた。

もちろん、一番がっかりしているのは、戦える状態に戻ることができずにいるウッズ自身なのだろう。だが、ただただ肩を落とし、膝を抱えて悲しみに打ちひしがれるようなウッズではない。

「愛するゴルフの世界にカンバックする上で、僕はこれをチャプター2と呼ぶことにする」

カンバックの第2章。それは、プレーではなくビジネスの世界での勝負を指しているようで、開幕戦ドタキャン騒ぎから1週間後のこの日、ウッズは新しいベンチャービジネスを立ち上げることを公式に発表した。

「僕と僕のチームは、ほぼ2年間を費やし、TGRのディベロップに努めてきた。TGRは、すべての限界を超えて秀逸性を追求していく」

ウッズのこの言葉、正直なところ、何を言っているのか、何を意味しているのか、全然わからない。

「僕らは、この20年超の間、マインドセット(考え方)、メソッド(方法)、マスタリー(熟達)という3つの原則をすべてのものごとに当てはめ、重んじながら、いろんなことを達成してきた」

だから、新しいベンチャービジネスでは、これからもこの3原則を重んじていくという意味のようで、それら3原則を象徴する3つの山のような縦長の三角形を横に並べてデザインしたTGRの新しいロゴマークもすでに完成しているそうだが、肝心なビジネスの内容は、どういうものなのか。

【ウッズビジネスの総本山、ホームベース】

ウッズとウッズのホームページで発表された説明は「限界を超越」「理想を追求」等々、魅力的で難解な言葉ばかりが目立ち、説明は曖昧。TGRが具体的に何をしようとしているベンチャーなのかが、なんとも掴み取りにくい。

そこで、、、、ということなのだろう。米国の各種ビジネスサイト等が、すぐさま独自の分析や解説をネット上で示した。

その1つ、FastComapny.comの説明によると、「タイガー・ウッズ」の名を冠してこれまで各フィールドで展開されてきた諸々のビジネスを、これからはTGRという1つのアンブレラの下に集約し、そこから各方面へ広げていく、ということらしい。

「ウッズが発表したTGRはウッズ関連ビジネスの総本山となり、ウッズは会長として日々の判断を下すことになる、、、、(中略)、、、ゴルフ界のスーパースターが既存のビジネスすべてを1つのアンブレラの下に集め、新ブランドとして新たな船出をすることはビッグムーブ(大きな動き)と言える」(FastCompany.comより)

これまでのウッズ関連ビジネスといえば、契約先のナイキのクラブやバッグを使用し、ウエアを着用し、広告やイベントに出演・参加するという「ナイキ絡み」ビジネスの一方で、ゴルフコースを設計監修したり、タイガー・ウッズ財団による大会運営やチャリティ活動、ジュニア育成を行ない、またその一方でゲームソフトや記念グッズ等を主体としたプロダクト制作も行なわれるという具合に、いわば“雑多な”広がりを見せていた。

今後は、そうしたすべてのビジネスを一旦集約し「TGRがホームベースとなって広がっていくことになる」(FastComapny.com)

TとWを重ねたマークも新しいTGRのロゴに変わる可能性もある?(写真/舩越園子)
TとWを重ねたマークも新しいTGRのロゴに変わる可能性もある?(写真/舩越園子)

【ホームランか、ヒットか、凡打か】

なるほど。ようやくTGRが目指すベンチャービジネスの骨組みだけは見えてきた。そして、このTGRの立ち上げは、やっぱりナイキのゴルフ用具ビジネスからの撤退と無関係ではないだろう。

ウッズがこの20年ほどの間、ともに歩んできたナイキは、ある意味、これまでのウッズ関連ビジネスの1つの柱の役割を果たしてきた。ウッズは当面はナイキのウエアは着用するであろうと見られているが、いずれにしてもナイキのクラブはどこかのタイミングで別のクラブに持ち替えることになる。

それならばナイキの存在に取って代わる別の柱が必要になる。どうせ別の柱を立てるなら、ゴルフ用具に限らず、すべてにおける大黒柱を立ててしまえということで、元々、構想段階にあったTGRが一気にウッズ関連ビジネスのホームベース、総本山としてグレードアップされたのだと思われる。

これからは、たとえばゴルフコースの設計監修はTGRゴルフコースデザインといった名の下に行なわれ、TGRエンタテイメントの名の下に大会運営や動画制作などが行なわれ、TGRプロダクトのような名を付けてウッズ人形やウッズTシャツが販売され、TGRチャリティの名の下にコンサートのようなイベントが行なわれ、TGRジュニアの名の下にジュニア育成が進められることになるのだろう。

ウッズが既存の用具メーカーを買収するといった噂も以前から流れているが、買収してTGR傘下に組み入れ、独自ブランドのゴルフクラブを自ら握り、販売していくと考えれば、この噂の信ぴょう性は、まんざらでもない。

「現状ではゴルフ用具ビジネスに直接参入する予定はない」と新ブランド立ち上げに尽力してきた側近は明かしているが、「いずれは、そういう可能性もあるかも」。少なくとも可能性はゼロではない。つまり「可能性はある」と考えられる。

ゴルフクラブに限らず、すべてのウッズ関連ビジネスは「ここを通らなきゃ進めない」という関所の役割を果たすTGRの立ち上げは、コース上でなかなか戦えないウッズの新たな挑戦と言える一方で、プレーヤーからビジネスマンへの移行準備にも思える。まだ引退したわけでもないのに天下のウッズ様が契約しているナイキに用具ビジネスから撤退されてしまったウッズ側の焦りも垣間見える。

ともあれ、ウッズ関連ビジネスのホームベースとなるはずのTGR。そのホームベースから打ち放たれるのは、果たして、ホームランか、ヒットか、それとも凡打に終わるのか――。興味津々だ。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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